持続可能なトイレを通して、不衛生になりがちな夏のフェスティバルや、途上国での衛生環境向上をめざす社会的企業ゴルデイマー。ドイツの大学生たちが始めたエコトイレのプロジェクトを紹介。
※この記事は2018年3月1日発売の『ビッグイシュー日本版』330号からの転載です。
水も科学薬品も使わない。
使う人が多い時も、臭いは 「ハムスターを飼う籠くらい」
「トイレについて一番考える時っていつだと思う?」と言うのは29歳のマルテ・シュレマー。
彼は人間の排泄物にかかわる社会的企業、ゴルデイマーで働いている。
「それはトイレに座っている時! だから、トイレットペーパーが僕らにとっては一番の“宣伝チラシ”なんだよ」。そういう彼らのトイレットペーパーにはポップなイラストと共にこんなスローガンが印刷されている。「みんなはトイレのために。トイレはみんなのために!」
はじまりは2011年。ボランティア学生として西アフリカでの活動に参加した時、シュレマーは下痢で歩けなくなる経験をした。そして現地では大多数が清潔なトイレ設備を持っていないことに気づいた。
ユニセフとWHO(国連保健機関)の報告によると、世界人口の約3分の1にあたる24億人が適切なトイレを利用できていない。野外の排泄が習慣となっている地域では、環境や地下水が汚染され、多くの感染症や下痢の原因となる。そうした衛生環境が原因で40秒毎に一人の子どもが地球のどこかで亡くなっている。さらに、女性にとって生理中は学校へ通えないことを意味し、教育機会の不平等にもつながる。
シュレマーの結論はシンプルだ。「トイレなしには何事もうまくいかない」。野外イベントでコンポストトイレを使うことについて卒業論文を書き、卒業後すぐに行動に移した。4つのトイレから始め、今では毎夏20のフェスティバルで80個のトイレを稼働させている。このプロジェクトは、ドイツ北部の街キールにあるクリスティアン・アルブレヒト大学の生徒たちがシュレマーと共に13年に始めたものだ。
そもそも野外フェスティバル会場に設置されたトイレを好きな人はいない。「汚くて臭いからだよね」とシュレマー。それと対照的なのが、彼らのトイレだ。
このトイレを使う人は排泄後に、おがくずを投げ入れればいい。そうすると、排せつ物は乾いた状態に保たれ臭うことはない。メンバーの一人で、大学で学びながら働く27歳のヨハネス・マンセイは「水も化学薬品も使わないこのトイレは持続可能で環境にも良い」と説明する。「使う人が多い時はちょっと臭うけど、ハムスターを飼う籠くらいの臭いだ」。排水装置で水分を取り出した後、コンポストは固形化され、肥沃土となる。
社会的トイレットペーパー販売
フェスティバルのシーズンには 150人以上ボランティア参加
清潔で臭わないというだけではない。トイレの壁はカラフルなグラフィティアートで彩られ、音楽も流れている。また、順番待ちで退屈しないよう、ゴルデイマーのスタッフと一緒にチェスなどのボードゲームができる場所も設けられている。さらに、トイレ内部は広々として、上着を壁にかけてくつろぐこともできるし、読書も可能だ。「わが社のトイレを導入したフェスティバルでは、人気の待ち合わせ場所にもなっています」とシュレマーは笑う。
A popular, colourfully-decorated meeting point: the Goldeimer toilets at a festival.
一昨年からはトイレットペーパーの販売も始めた。彼らが販売する〝世界初の社会的トイレットペーパー”は、もちろん100%リサイクルパルプだ。プロジェクトの利益は衛生的な飲料水を世界中の人々が飲めるようにすることを目的に作られた団体「ビバ・コン・アグア(水と共に生きるの意)」に寄付している。目標は持続可能かつ社会を意識した事業で、同時に遠い国の衛生状態の向上も目指したいという。
At the front of the “shop”. Constructing the toilets at a festival.
ゴルデイマーの体制は現在、フルタイムが二人、パートタイムが二人。フェスティバルのシーズンには15~20人の臨時社員がトイレ設備の設置や撤去を手伝い、さらに150~200人のボランティアが期間中の運営に参加する。
研究者となった今も、いったいなぜ会社を立ち上げてまでトイレ掃除を? この質問にシュレマーは質問で答えた。「トイレを掃除する研究者と、利益のみを追求して意味ある仕事をしない研究者、どっちのほうが変人なんだろうね」
The Goldeimer crew present their toilet paper: Rolf Schwander, Enno Schröder, Julian Zimmermann, Johannes Manthey and Malte Schremmer (from left).
(Georg Meggers/Hempels,www.INSP.ngo)
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