移民による米国の経済効果は年に２.２兆ドルとの試算

ドナルド・トランプは２期目を目指す米大統領選の活動中から、何百万もの移民を国外追放すると発言してきた。外国生まれの労働者が米国人の職を奪っている、というのがその主な理由だ。次期副大統領候補のJ・D・ヴァンスも同じく、反移民の考えの持ち主だ。しかし学者の間では、移民の大規模な国外追放を行えば米国経済に打撃を与え、景気後退を引き起こしかねない、という意見でほぼ一致している。アメリカン大学の移民研究所創設者で、ラテンアメリカ・ラテン研究センター所長を務めるエルネスト・カスタニェダ教授が『The Conversation』に寄稿した記事を紹介する。

一年で2.2兆ドルの経済効果との試算

移民は在留資格の有無にかかわらず経済成長を支えている、との見方が社会科学者やアナリストの間では大半を占める。とはいえ、米国内の全移民労働者の所得が不明な現状では、移民がもたらす経済効果を直接的に算出することは不可能に近い。しかし、移民労働者が出身国に送金している額ーー世界銀行によると、2022年で810億ドル以上ーーを使えば、移民労働者の経済的価値を間接的に算出することはできよう。

先行研究によると、米国在住の移民は収入の17.5％を出身国に送金すると推定されている*1。これを踏まえ、2022年に国外送金した移民の手取り年収総額を計算すると、4,660億ドル以上になる。外食産業や建設業など初歩レベルの労働の手取り額は、労働者が雇用主にもたらす収益の約21％とされるため、移民労働者は一年でおよそ2.2兆ドルの経済効果を米国経済にもたらしたことになる。これは、米国の国内総生産（ＧＤＰ）の約8％に相当し、2022年に世界第９位の経済大国だったカナダのＧＤＰに匹敵する。自国に旅行する人に託して持ち出すお金なども見込むと、移民による経済貢献の推定額はさらに上回ると考えられる。

*1 2015年の10.5％から2022年には17.5％と増加傾向にある。
参照：An Economic Lifeline? How Remittances From the US Impact Mexico’s Economy

経済効果には、金額以上に大切なことがある。移民労働の最たる受益者は、米国経済と社会であるということだ。2022年に移民労働者が出身国に送金した810億ドルは、総経済効果である2.2兆ドルのほんの一部に過ぎず、移民労働者の賃金や生産性の大半は米国内に留まったことになる。

米国からの国外送金は、それを受け取る側にとっては重要な収入源ではあるが、何も米ドルの大量流出をもたらしているわけではない。にもかかわらず、１期目のトランプは移民による国外送金を諸外国への「福祉」と呼び、国外送金に税金を課し、メキシコ国境に壁を建設する費用とすることを提案した。

移民の消費活動がもたらす経済成長

筆者が関わった別の研究*2 からは、一部の移民は国外送金をしない傾向にあることが分かっている。金融、科学、技術、教育系など、ホワイトカラーの専門職に就く移民などは、多くの在留資格を持たない移民と異なり、ビザを取得しているため、家族を呼び寄せることができ、国外送金する必要がないのだ。数十年前から米国で働き、米国内に多くの家族がいる移民も、国外送金をしない傾向にある。どちらのケースも高収入である場合が多く、前述の2.2兆ドルの移民の経済効果には含まれていない。

*2 Immigration Realities: Challenging Common Misperceptions（2024.11）

私たちの推定値には、移民の消費活動がもたらす経済成長は反映していない。米国在住のエルサルバドル系移民および2世だけで、2023年におよそ2,230億ドルの効果を米国経済にもたらしたと推定され、これは米国GDPの１％に相当する。2022〜2023年にかけての米経済成長率が約2％であったのだから、その影響力がわかるだろう。

また、移民による需要拡大によって雇用が創出され、移民による起業*3 によって移民と米国市民の双方に雇用機会を生んでいる。このように、移民の経済貢献を数値化することで、米国の経済的成功が移民と移民労働に支えられていることは明確である。

*3 米国生まれの市民より移民の方が起業する割合が高い、との研究結果がある。
参照：Study: Immigrants in the US are more likely to start firms, create jobs

By Ernesto Castañeda
Courtesy of The Conversation / INSP.ngo

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