デモ・集会など大勢の人が集う場では、足首の捻挫、催涙スプレーによる目の痛み、気分が悪くなる人など、不測の事態が多々起こる。心臓発作だって起こり得る。しかし、主催者側が救急医療サービスを事前に手配しているとは限らない。そこで活躍するのが、ボランティアの緊急医療隊だ。ドイツ・シュトゥットガルトのストリートペーパー『トロット・ヴァー』が取材した。
大衆抗議運動(以下、デモ)は民主主義の重要な要素で、ドイツの憲法第8条にも「すべてのドイツ国民は、事前の通知や許可なく、平和的かつ武器を持たずに参集する権利を有する。」と定められている。2024年1月には、極右勢力に反対するデモで数十万もの人々が行進した。その他、新型コロナウイルス感染症のパンデミック、気候変動、団体交渉権をめぐり、人々が結集することが多い。
シュトゥットガルトの年間デモ件数は増加傾向にある。2009年の586件から、2010年には1,174件、2020年には1,467件と、約10年間で3倍近くにまでなっている。これらの数字は抗議デモとして登録されたもののみなので、実際には2,000件を超えると警察は見ている。大勢の人が集まる場では事故やけが人が発生しやすく、重大な緊急事態につながるおそれがある。「応急手当ができる体制を整えておくことが重要です」と話すのは、緊急医療隊「シュッド・ウエスト医療グループ」の責任者ペア・フラッテン(33歳)だ。
応急手当体制の手配はお金がかかるのもあり、集会の法的要件ではない。小規模な活動団体では費用を負担できないくらい高額になる場合もある。手配を義務付ければ、憲法で保証された「集会を開く」権利を侵害することになる。とはいえ、危険性はつきまとう。資金繰りの厳しい主催者には、何か他の選択肢が必要だ。
そこでシュッド・ウエスト医療グループの出番だ。医学的訓練を受けたボランティアから成る団体で、デモ・集会や非営利文化イベントの現場で対応する。基本は無料だが、主催者側に資金面の余裕がある場合は、いくばくかの寄付を受け取っている。ドイツ国内には現在、同様の団体が複数存在する。
良い社会を目指す熱心な市民たち
シュッド・ウエスト医療グループの拠点は、シュトゥットガルトのバート・カンシュタット地区。古い建物の地階にある事務所には、つま先に金属製の保護先芯が入った安全長靴、ヘルメット、赤いユニフォーム、医療グッズ一式が揃ったバッグが保管されている。中身にもよるが、バッグの重さは大体15〜30kgある。「酸素ボンベが入っているバッグはとても重たいのですが、出動の際は手持ちしなくてはいけません。これがあると、ハチなどに刺されてアレルギー反応が出た場合などに命拾いになります」とフラッテン。
彼の本職は医師なので、このボランティア活動をするにあたっての資質は十分だ。なぜボランティアでも医療活動に関わっているのかと問うと、「より良い地域社会というのは、市民の行動の上に成り立つものだと信じています。私もその一翼を担いたいのです。自分が精通している分野でそれができれば、一番効率的ですよね」との答えが返ってきた。グループ責任者、そして広報責任者も兼任しながら、緊急招集にも対応している。
ドイツ南西部で緊急医療隊の活動が始まったのは1997年のこと。だが当時は、志を同じくする者たちが集まっただけのもので、正式な組織ではなかった。正式に協会として設立されたのは2017年で、フラッテンが深く関わるようになったのもその頃だ。「きちんとした組織にしたことで、これまで得られなかったメリットを享受できるようになりました」とフラッテンは言う。「寄付の取り扱いもそうですし、重要な保険の交渉もやりやすくなりました。とはいえ、あくまでも小規模な協会ですが、医療分野で活動する以上、いっぱしの大病院のようにみなされるのです」
「法律が関わってくると、しっかりとした後ろ盾を得ることが重要です。現在、ボランティア救急隊員は40名ほどです。基本、どなたでもなれるのですが、心肺停止の医療講座は受講していただく必要があります」。救急医療助手と同レベルの訓練を受ける必要があるのだ。救急医療助手は、傷の手当、瞳孔検査、血圧測定、必要なときには蘇生処置にも対応する。「救急車が到着するまで、患者の命を守るために必要なことを全てします」とフラッテン。大体1週間ほどの講座で、受講費はボランティアの自己負担だ。「あいにく、私たちには十分な人員も資金もなく、訓練を提供することができません」とフラッテンは申し訳なさそうに話す。
大半のデモ活動は平和的
現在、シュッド・ウエスト医療グループには、医師から、救急医療隊員の有資格者、救急医療助手まで、多様なメンバーがいる。医療隊員の一人ハンナ・レベルは、デモ・集会などの現場での安全性確保は非常に重要だと言い、医療隊員として対応してきたすべての現場で、いつも何かしら得るものがあるとも語る。「任務中であっても、スピーチや文化的な面などで必ず心に残るものがあります。医療隊員でなかったら触れることのなかった話が聞けるので、とても学びになります」。そうしたイベント特有の連帯感が味わえるところも気に入っていると言う。
話を聞いた二人とも、ほとんどのデモは平和的だとしきりに強調した。だが、緊急医療隊のニーズは2024年急増、一年前の約2倍だった。バーデン=ヴュルテンベルク州全体で月に2〜4件のイベントに対応している。時々は、州外の周辺地域でも対応する。直近に対応した大規模イベントは、シュトゥットガルトで3日間開催された「第43回自由とアウトドアフェスティバル」で、緊急医療隊の存在が効果を発揮していた。
緊急医療隊のInstagram
https://www.instagram.com/demosanitaeter
By Enna Mindo
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Courtesy of Trott-war / INSP.ngo
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