政府が3年に1度、中長期的なエネルギー政策の方向性を示す「エネルギー基本計画(エネ基)」の取りまとめが大詰めを迎えている。7回目の取りまとめとなる今次エネ基策定では、合わせて、「GX2040ビジョン(グリーントランスフォーメーションを進めるための国家戦略)」「地球温暖化対策計画(温室効果ガス排出量削減目標やそのための対策)」が取りまとめられる。
原子力、40年度も20%の比率
新設に国の支援求める電力会社
国連気候変動枠組条約の締約国はパリ協定に基づき、温室効果ガスの排出量削減目標(NDC)を5年ごとに提出することが義務付けられているが、2035年までの削減目標は25年2月までが提出期限だ。温室効果ガスの排出量はエネルギー供給と相互に関連するため、今回3つの計画策定がセットとなっている。年内の取りまとめはギリギリのタイミングだ。
エネ基で特に注目されるのは2040年度の電源構成だ。発表された原案では、40年度の電源構成に占める原子力の比率は20%、30年度と同程度である。一方、比率ではなく電力量で見ると22年度の総発電電力量9854億kWhに対して、原子力は841億kWh、30年度は9340億kWh程度に対して1868億~2055億kWhとなる。40年度の総発電電力量は1.1兆~1.2兆kWh程度に増える。これに基づき原子力の発電電力量を想定すると2200億~2400億kWhになる。2400億kWhだと、発電量をかなり増加させる必要が出てくる。
23年のGX基本方針で、福島第一原発事故後、停止した原発は再稼働するまでの期間分、寿命を延長することを認め、法改正を行った。さらに30年代に原発を新設する計画も盛り込まれた。だが、原発の建設には20年を要するため、かなり厳しいスケジュールだ。それでなくても、本連載で何度か指摘してきた通り、電力会社には自力で原発を新設するだけの余裕はなく、国の制度的・経済的支援を求めている。
制度的制約で再エネ導入量低下
年末年始にパブリックコメント
では寿命延長はどうか。一定の想定の下、大間原発(青森県)など建設中の原発を含め、すべての既存原発が再稼働でき、さらに法改正に従って寿命を延長した場合、40年の原子力発電電力量は2300億kWh程度となった。新設原発がなくとも目標達成の可能性はある。ただし、この時、原発は36基稼働している計算となる。たとえば新規制基準に不合格となった敦賀原発2号機(福井県)や能登半島地震で被災した志賀原発(石川県)なども再稼働する想定となっているため、非常に楽観的な想定だ。
原子力が40年度の目標を達成できないとどうなるのか。近年、さまざまな制度的制約から再エネ導入量は低下している。特に再エネの主力である太陽光発電の導入量低下は顕著で、2013~15年度は9GW程度で推移していた年間設備導入量は3.1GW(23年度)へと大幅に低下。このままでは30年度の再エネ目標到達もおぼつかない状況だ。原子力も足りず、再エネも足りないとなると、火力の焚き増しで対処せざるを得なくなる。
国は35年の温室効果ガス削減目標を13年度比60%削減する案を審議会で示した。直近のIPCC第6次評価報告書統合報告書では温室効果ガスを「19年比」で35年までに全世界で60%削減という目標が示されている。仮に日本の目標を19年比で計算しなおすと52%。英国が1990年比81%削減という削減目標を示したのに対してあまりに低い目標だ。その目標すら達成できないのが、エネ基で新しく示されようとしている電源構成案である。年末年始にかけてこれらの文書に対してパブリックコメント(※)が行われる。読者のみなさんにはぜひ応募いただきたい。(松久保 肇)
※令和6年12月27日~令和7年1月26日
https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/index.html
松久保 肇 まつくぼ・はじめ
1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。
金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など https://cnic.jp/