山火事、ハリケーン…被災地での住宅再建に関する調査より

2025年の年明け早々、ロサンゼルスで大規模な火災が発生。街を飲み込んだ炎は、強風の影響もあって拡大し続けている。より安全、より強靭な家を建てるにはどうすればよいのか、多くの被災者が途方に暮れていることだろう。被災者たちが直面しがちな課題について、ノートルダム大学(米インディアナ州)グローバルアフェアーズ大学院のスーザン・オステルマン助教授らが2024年11月8日に『The Conversation』に寄稿していた記事を紹介しよう。

「元の暮らし」に戻すハードルの高さ

土木技師や規制の専門家である筆者たちは、被災地において持続可能で強靭な住宅を再建するうえで立ちはだかる問題について、ハワイ、コロラド、アラスカ、プエルトリコなど文化的・政治的に多様な地域で調査を進めてきた。そして復興においては、初期費用と併せて、家主や建設業者の費用や規制についての認識ーーおよび誤解ーーが大きく影響する状況が見えてきた。


被災者はできるだけ早く自分の家に戻りたい。その一方で、強靭な家を建て直すには高額な費用がかかる。建設業者や建築資材の供給業者は需要ショックに見舞われやすく、そうなると価格上昇や遅延が発生しやすくなる。その背景には、アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)の緊急時対応用予算の不足、災害多発地域から撤退する保険業者が増えているなどの事情もある。また、政府の補助金をもらえるまでに何ヶ月も時間がかかることもある。保険で保証される人でも、元の家以上のことをする分まではほぼ保証対象とならないため、強靭な家を建て直すには予算を上乗せする必要がある。

壊れた家を再建させるまでのプロセスをどうかじ取りしていくかも、定量化しづらいが現実的な課題である。政府支援金の申請方法に始まり、保険会社とのやりとり、いつどんなふうに再建するかの判断まで、すべての工程にリサーチ、書類、打ち合わせが必要となってくる。

自治体での手続きで社会的弱者が取り残されがち


再建プロセスで重要な役割を果たすのが、自治体の建設部門だ。建築基準、認可手続き、許可証、費用など、再建に関するさまざまなことを管理する。家の再建において欠かせないことばかりだが、その手続きには時間がかかり、複雑になりがちで、住民は経済的にも心理的にも疲弊してしまいかねない。お役所的な手続きはだれにとっても難易度が高いが、身分証明書がない人、地元の言葉を話せない人、銀行取引がない人にとってはとりわけ大変である。2023年、ハワイのマウイ島で発生した山火事後に、そうした被災者が多く見られた。

サステナブル建築の適正価格や技術とは

費用の認識についても重要な課題がある。調査からは、新しい家の持続可能性を高める新しい技術を取り入れる予算を、住民も建設業者も高く見積もり過ぎているケースが多く見られた。2021年コロラド州ボルダー郡マーシャルで発生した山火事の後、私たちは建設業者や被災者1000人以上にインタビュー調査を実施したのだが、建設業者によって新しい技術(エネルギー効率の良い空気熱利用ヒートポンプなど)の導入費の見積もり額に大きな差があり、価格面の不確かさから、住民たちのやる気がそがれている状況があった。

マウイ島での調査では、業界の規制変更が、費用的にも、作業員の再教育的にも課題となっているとの建築業者たちの声を何度も聞いた。ハワイでは強風に耐えられるよう、多くの住宅が屋根と壁の骨組みを固定して建てなければならないのだが、ある住民が見せてくれた賃貸住宅の施工は不適切だった。建築業者からはまた、住宅の枠組み部分のお粗末な施工状況が散見され、規制基準を疑問視せざるをえないという声も聞かれた。

暴風に強い住宅設計はそれほど費用をかけなくても可能だ
AP Photo/Chris Carlson

建設業者も住民も、実際より費用が高くかかると認識しているケースもあった。プエルトリコでの調査からは、木造の屋根が強風で破壊されるのを防ぐハリケーンストラップの費用対効果の高さに、多くの地域コミュニティが驚きを見せていた。

屋根と壁を金属で固定するという安価な対策で強風から守ることができる。ハリケーン多発地域では一般的な対策だ。
Billbeee via Wikimedia, CC BY-SA
2005年ハリケーン・カトリーナに見舞われたルイジアナ州では、その後、住居スペースを2階に、ガレージを1階に設けた住宅が多く建てられた。
Infrogmation of New Orleans via Wikimedia, CC BY-SA

住民も建築業者も、高まる災害リスクを効率よく低下させる方法について、正しい情報を容易に入手できるようにすることが大切だ。人々は常にこうした情報を探し求めているが、過去の経験がその人の知識をじゃますることもある。

社会として再建プロセスと防災をサポートする必要

社会として再建プロセスを合理化する。大きなインパクトがある変更点についての実用的な情報を提供し、住民が強靭性を高めるための選択がしやすくなる。技術報告書や自治体調査資料にある技術的情報を、もっと分かりやすく明確な方法で建築業者や住民が利用できるようにしていくことも必要だ。

ちょっとした変化でも大きな違いを生むことができる。コロラド州マーシャル山火事でのデータからは、木造フェンスが火災拡大の原因の一つだったことが分かっている。木造フェンスの使用を減らすことで、今後また火災が起きたときに住宅が焼失するリスクを安価かつ効果的に減らすことができるだろう。

2005年ハリケーン・カトリーナに見舞われたルイジアナ州では、その後、住居スペースを2階に、ガレージを1階に設けた住宅が多く建てられた。
Infrogmation of New Orleans via Wikimedia, CC BY-SA

再建プロセスを効率化させることで、既存要件を変更せずとも大きな成果を挙げることも可能だろう。マウイ島では、建築規制はそのままに、これまでは政府役人が担っていた建築許可確認のプロセスを、第三者機関が請け負えるようにしたところ、再建プロセスが大幅に短縮されている。

住宅再建に費用がかかることは避けられないが、効率よく強靭な住宅を建て直していくことで、社会として長期的なコスト削減につなげていくことができよう。さまざまな刺激策を打ち出すことで、住宅所有者、建設業者、保険会社、政府が、より強靭な建物の建築に投資することを促していってもらいたい。

著者 
Susan Ostermann
Assistant Professor of Global Affairs, University of Notre Dame

Abbie B. Liel
Professor of Civil Engineering, University of Colorado Boulder

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2024年11月8日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

The Conversation

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