有限会社ビッグイシュー日本では、教育機関や各種団体などに出張して講義をさせていただくことがあります。
今回の行き先は奈良市ボランティアインフォメーションセンター。社会貢献活動分野の講義の機会として、ご依頼をいただき、ビッグイシュー日本の吉田と、生駒のビッグイシュー販売者である吉富さんが伺いました。この記事では、当日の講義のエッセンスをご紹介します。

奈良にホームレスの人はいない!?
講義をするにあたり最新の厚生労働省のデータを確認したところ、奈良県内にホームレス状態の人は「0」とありました。「素晴らしいですね!」と言いたいところですが、注意したいことがあります。もし奈良でホームレス状態になった人が「お隣の大阪のほうが、シェルターもあるし、パンももらえるし、いろんな支援が手厚いよ」という情報を得たら、果たしてその人は奈良にとどまるでしょうか? 数を把握するための調査は重要ではありますが、その数字が0だからといって、「奈良でホームレス状態になる人が、0というわけではないかも…」という姿勢が大切です。
全国的にもホームレスの人は減っているが…
では、全国のホームレス状態の人の数の推移はどうでしょう。2003年当時には3万人を超えていましたが、今は3,000人を切るほどに減りました。ということは、ホームレス問題は、解決に向かっているのでしょうか? しかし、その割にそれほど世の中が良くなっているようにも思えません。

実は厚生労働省の定義では、「屋根のない状態‐路上、公園、川などにいる、“それらしい人”を、日中、目視でカウントした数」なんです。そのため、調査時にネットカフェやサウナなど別の場所にいる人や“それらしくない人”はカウントされていないのです。確かに路上、公園、川などにいる、“それらしい人”は減ってはいますが、ふとしたきっかけで家を失うリスクの高い、様々な形の貧困当事者はまだまだたくさんいるということを、問題視する必要があります。
「ホームレス」という人がいるわけではない
ホームレス状態の人にも、“それらしい人”もいれば、シュッとした恰好をしている人もいます。「ホームレス」という人がいるわけではないですし、ホームレス状態になる理由も本当に様々です。会社が倒産してしまった人、派遣切りに遭ってしまった人、病気になってしまった人、災害に遭ってしまったという人もいて、本当に千差万別です。中でも多いのは「介護離職」です。親を介護するために離職せざるを得ず、長い介護が終わってから復職しようと思っても、年齢などのせいで就職できない人がいます。また、ギャンブル依存の果てに、という人も多い。介護離職する人は年間10万人くらいいますし、パチンコのようなギャンブル施設が全国くまなくあるのは世界でも日本だけです。個人の問題ではなく社会の問題と言える状況の人がたくさんいるのに、ひとくくりにネガティブなイメージを持った「ホームレス」に括られてしまうのは問題があります。

ホームレス状態から自力で脱出するのは難しい
また、一度ホームレス状態になってしまうと、住所や保証人がいないことでアルバイトに就くことすら難しくなってしまうことや、給料が翌月払いだと、今をしのぐことができず月払いの仕事はあきらめざるを得ないこともあるなど、ホームレスの人はお金を稼ぐことはもちろん、再び住まいを得るハードルが大変高いのです。
ホームレスの人たちに仕事を提供するビッグイシューの活動
そこで、ビッグイシューは、路上で雑誌を販売することで、ホームレスの人であってもその日から収入を得られる仕組みを提供しています。
また、ホームレス状態になってしまった人は、そこに至るまでに仕事、家、お金、仲間、家族…といろんなものを失っていくので、「頑張ろう」という気力も湧きづらいものです。そこで、自分に自信を持ってもらえるように、「本屋の店長として、自分で工夫し、自分が売れると思う時間で販売する」という形で、自己決定や自信をつけてもらうことを重視しています。
仕事の機会提供だけではない、様々な活動
さらに、ホームレス状態に至るまでには、仕事、家、お金、仲間、家族…といろんなものを失っていくので、「頑張ろう」という気力も消失してしまいがちです。
そこで雑誌の販売だけでなく、生活の支援や楽しむことも大切に考えて、2007年にNPOビッグイシュー基金を設立しました。そこでフットサルをしたり、プロの講談師の方が稽古をつけてくれる「講談部」を作って活動したり、販売者が主催で「歩こう会」をしたりと、いろんな文化的な活動も行うなどの活動をしています。

当日、販売者の吉富さんからは、ホームレスに至るまでの経緯やビッグイシューでの経験を話してくれました。

参考:他の講義での吉富さんの体験談
https://bigissue-online.jp/archives/12401
講義の中ではビッグイシューの好きな号を読み込んで、グループで感想を言い合うワークも。

その後、吉富さんが参加者の前で即興講談を披露。「初めて販売したときにもらったお金の重さ」の一席に大きな拍手をいただきました。
「なぜ大阪から奈良へ?」ー質疑応答タイム
最後の質疑応答タイムには、ホームレス経験のある吉富さんや、ビッグイシューについての質問が多数寄せられました。
Q:吉富さんはなぜ販売場所を淀屋橋から生駒に移したのですか?
吉富さん:淀屋橋はいい場所だったのですが、コロナ禍で売り上げが激減してしまい、場所を変えようと思ったんです。屋根がある場所がいいなと探してみたら、該当したのが生駒だったんです。屋根があれば、雨でも慌てることはないですから。
Q:吉富さんは、実家に残したお父さんの死に目に会えなかったそうですが、その後実家に帰ることはあったのですか。
吉富さん:帰っていません。弟から父の遺産相続の話もありましたが、自分はお金があったら必要以上に使ってしまう性格だとわかっているので遺産も放棄しました。Google mapで見てみたら、実家が民泊になっていて、これで帰る必要がないとわかって肩の荷が下りてほっとしました。
Q: ビッグイシュー販売者が、よい方向に向かう割合はどのくらいですか?
吉田:何をもってよいとするかは人それぞれかもしれませんが、これまでの登録者数は2000人以上、16億円を超える収入を提供してきました。これまでに207人が仕事を見つけ雑誌販売を「卒業」されました。販売で生活する人や、途中で辞める人、仕事を見つける人、など様々です。ただ、ビッグイシューが全てのホームレス問題を解決するというより、選択肢の中の一つであって、その選択肢が多い方が豊かな世界だと思っています。
Q:途中でビッグイシューをやめてしまった方は、その後どうなるのでしょう。
吉田:ある日突然連絡がつかなくなるということが多く、そうなるとお話も聞けないので、その後については把握できません。連絡があった方については、体を壊されるなどして生活保護を受給することにした人もいれば、他の団体の支援に繋がる人や支援施設に入られるという人もいます。また、実家に帰られる方、友人を頼られた方もいます。そして、お亡くなりになることもあります。
Q:女性のホームレスの方はどんな状況なのでしょうか。
吉田:事務所に相談に来られる方で言うと、ホームレス状態の方はほぼほぼ男性です。女性の場合は、路上生活になると不特定多数から性暴力に遭うリスクが高いこともあり、ホームレス状態になってしまう前に相談して、福祉や女性支援団体に繋がる方が多いですし、私たちもそのように心がけています。福祉や他の支援をご案内したうえで、それでもという人だけがビッグイシュー販売をされます。
Q: 警察に「販売しないで」などと言われることはあるのですか?
吉富さん:販売しないで、とは言われないですが、ちょっと移動して、と言われることはありますね。「都市部では厳しい」と聞いたことがありますが、地方ではもう少し寛容な印象です。
参考:ビッグイシュー販売ではテーブルなどの設置をすることはなく『移動販売』の形式をとっていますので、道路法上の占用許可(同法32条参照)等は必要ない※のです。
*参考:弁護士ドットコムの見解
https://www.bengo4.com/c_18/n_796/
Q: 最後のセーフティネットともいえる、生活保護を当然の権利として利用すべきだと思います。65歳以上の高齢者だったら受給できますよね?
(当日は時間がなかったため、オンライン編集部より):面談の際に当事者にしっかりお話を伺って、生活保護の受給条件に当てはまる方にはもちろん生活保護をご案内しています。それでも、親や兄弟に今の自分の状況を知られたくない人は、扶養照会(親や親類に行政から連絡をして『この人を養えませんか?』と確認をする制度)を恐れて生活保護を申請しないことも多いです。受給できない、または受給したくない、という方のうち、同意された方がビッグイシューを販売することになります。
講座後の評価「いろんな方に参加してほしい講座」
講座後に寄せられた参加者アンケートでは、回答者の85%が「よかった」と回答いただくなど、講座満足度も高かったようです。フリーアンサーにも「明るくておもしろかった」というコメントが多数。そのうちのいくつかを紹介します。
今までになかったような講座で、興味深かったです。(略)ボランティアに関して、いろいろな角度からの講演会をこれからも計画してもらいたいと思います。
心が温(あたた)かくなりました。
知らないことばかりでした。自分ごとだと思いました。ビッグイシューのこと、(販売者の)吉富さんのことが知れて、経験になりました。(中略)貴重なお話が聞けました。私が家族や友人に伝えたいけれど、正しく伝えられるか…フラットに伝えること、難しいので、他の方にも(今回の講座に)参加してほしいです。
アクティブ(6分間)リーディングは、とても良かった。人の話をよく聞いて考える体験ができた。
また、今回の企画を担当されたボランティアコーディネーターの末武さんからは下記のようなコメントをいただきました。
当センターでは、市民公益活動を支援・推進する立場から、これまで様々な社会問題・社会課題をテーマとした事業(講座・講演・ワークショップ等)を実施してきました。
しかしながら、重要な社会課題である “ホームレス問題”をテーマとした事業については、当センターで過去1度も取り上げたことがなかったため、今回の講座を企画しました。
日本で長年にわたって積極的に“ホームレス問題”の解決に取り組んでいる組織・団体として、最初に名前が浮かんだのが『ビッグイシュー』でした。
調べてみると数多くの教育機関や公共施設での講演実績があり、講演の内容や時間も依頼側の希望に応じて柔軟に対応していただけることなどから、安心して依頼をすることができました。
講師の丁寧でわかりやすい講義に加えて、動画視聴、6分間リーディング、販売者の体験談や質疑応答など、ホームレスに関する問題点やビッグイシューの取り組みを、多角的な視点から学ぶことができる、とても充実した2時間でした。今回の講座は、参加した市民からのアンケートでも非常に好評で、ぜひもっと多くの地域や施設で開催されるべきだと思いました。
奈良市ボランティアインフォメーションセンター
HP:http://www.volunt-info.jp/
〒630-8122
奈良市三条本町13-1 はぐくみ(奈良市保健所・教育総合)センター 1F
0742-93-8435
開館時間:月~土曜/午前9時~午後9時 日曜・祝日/午前9時~午後5時(※年末年始は休館)
※奈良市ボランティアインフォメーションセンターでは『ビッグイシュー日本版』を定期購読してくださっており、図書コーナーでどなたでも自由に読んでいただけます。
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学(兵庫県)への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。
図書館年間購読制度
※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
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