若者の投票率を上げる方法:大学キャンパス内での期日前投票

日本の選挙では、生活圏内にある小学校や公民館などが投票所となるため、投票所までのハードルはどの地域に住んでいようと、さほど差がない。しかしアメリカでは、各郡がどれだけ投票所を設置するかを決めるため、投票所までのアクセスが大きなハードルとなることがある。

アクセスの問題緩和、および若者の投票率向上を目的として、フロリダ州では2018年より、大学キャンパスでの期日前投票が実施されている。これは、期日前投票の場所として大学施設の使用を禁止していた州規定を、2018年に連邦裁判所が無効にしたことを受けての動きだ。キャンパスの期日前投票所を増やすことと投票率向上の関係性を研究している米クレムソン大学政治学部講師ステファン C.フィリップスが『The Conversation』に寄稿した記事を紹介しよう。

4つの決断が必要なアメリカの選挙

アメリカの有権者は、一票を投じるまでに4つの決断をしなければならない。まず、有権者登録*1をするか否か。次に、選挙で投票するか否か。そして、どの投票方法にするか――郵便投票、期日前に投票所にて投票、当日に投票所にて投票――を選ぶ。最後に、どの候補者に投票するか。米国の若者の投票率は、他の世代より平均で1~2割低い傾向にあるが、キャンパス投票所が多い州(アリゾナ州、フロリダ州、ノースカロライナ州など)では比較的高い傾向にある。

*1 アメリカの多くの州では、日本のように自動的に有権者として登録されるわけではなく、事前に「投票資格がある人」として名前・住所・身分証明などを登録する必要がある。

増えゆく大学キャンパスの期日前投票所

2018年以降のキャンパス期日前投票での投票数の推移から、キャンパス投票所の利用がどんどん広まっているのがわかる。2018年にはフロリダ州内の12のキャンパスで5万9,205人が投票、2020年には11のキャンパスで9万2,344人が、2024年には計16のキャンパスで14万2,085人が期日前投票を行った。その約4分の1に当たる3万5,245人は、州内で最も人口の多いマイアミ・デイド郡にある3つのキャンパス投票所を利用していた。

2022年中間選挙のフロリダ州の投票データ

2024年の選挙で期日前投票をした540万人のうち、キャンパス投票所を利用した人は約3%(2018年は2.2%)、また、投票した人における18〜29歳の若者の割合(14%)は、州の人口に占めるその年代の割合とほぼ同じだった。

若い世代の民主主義参加を促進している非営利団体アンドリュー・グッドマン財団は、フロリダ州の2018年の中間選挙での投票数が多かったのは、「キャンパスが投票所となり利便性が高まったのが一因」と結論づけている。それに、郵便投票では署名ミスや署名漏れなどにより票が受理されない可能性も拭えないため、投票所での期日前投票をしやすくすることで、“確実な”一票につながりやすいといえる。

2018年の中間選挙で、セントラルフロリダ大学の学生たちに期日前投票を呼びかけるNextGen Americaのメンバー。Willie J. Allen Jr./AP Images
2018年の本選挙で、フロリダ大学の学生自治会前に掲げられた選挙ポスター。
Stephen C. Phillips

2024年、サウスカロライナ州のヨーク工科カレッジで人生で初めて投票したという有権者が地元ラジオ局のインタビューに対し、投票所が便利な場所にあることで「がぜん投票しようと思えた」と答えている。今や、キャンパスに期日前投票所を設けることが有権者の投票意欲向上につながることは選挙管理責任者、大学幹部ならびに政治家の間では既知の事実だ。

2024年の本選挙から投票会場となったピッツバーグ大学のキャンパス。
Aaron Jackendoff/SOPA Images/LightRocket via Getty Images

キャンパス投票所利用者の56%が30歳未満

2024年、フロリダ州の有権者登録情報では、共和党員が40%、民主党員が31%、その他(諸派や無党派)が29%だったが、フロリダ州の16のキャンパスで期日前投票をした人に絞ってみた筆者のデータでは、共和党員が32%、民主党員が35%、その他が33%だった。この違いは、キャンパス投票所で投票する人は若く、Z世代の有権者には民主党支持および無党派が多いことが理由として考えられる。

キャンパス投票所ではもちろん、学生だけでなく地元住民も投票できる。アンドリュー・グッドマン財団による2019年の報告書*1 では、キャンパス投票所で期日前投票する人の56%が30歳未満だったとし、学生と並んでヒスパニック系および黒人有権者の利用が際立って多かったとある。

*1 On-Campus Early InPerson Voting in Florida in the 2018 General Election

学生の「投票しやすさ」を阻む動きも

ところが、若者の投票が妨げられかねない規則を定めている州もある。一票を投じることへの障壁が高くなれば、当然ながら、投票率は低下しうる。共和党主導の州議会(インディアナ州、オクラホマ州など)では、期日前投票期間の短縮や、投票時の身分証提示条件の厳格化など、期日前投票を制限する法案が審議されている。オハイオ州では、在留証明書の種類を制限する法案が定められ、州外から転入してきた学生が以前より投票しづらくなっている。学生の投票促進を掲げる「キャンパス・ヴォート・プロジェクト」によると、投票時に学生証を有効な身分証としていない州もあるという(テキサス州、アイオワ州、ミズーリ州など)。オクラホマ州でも同じく期日前投票の制約見直しが進められている。

州法や条例、あるいは選挙管理責任者の裁量で、投票所設置を阻止する事例もある。オハイオ州では期日前投票所は各郡に一ヶ所までと制限されているため、オハイオ州立大学の学生たちは10キロほど離れた投票所まで出向かなければならない。同じく、キャンパスに投票所のないクレムソン大学(サウスカロライナ州)の学生は、6キロ以上離れたピケンズ郡の投票所に行く必要があるのが現状だ。

投票所までの遠さと所要時間の長さが投票への障壁となることが、最近の研究でも指摘されている。交通手段が限られがちな学生は総じて、この影響を受けやすい。キャンパスで期日前投票を行えることは、有権者にとっての利便性が向上するだけでなく、次世代の有権者を後押しし、民主主義の強化につながる。キャンパスでの期日前投票と投票率との関係性について、さらなる研究を期待したい。


著者
Stephen C. Phillips
Lecturer in Political Science, Clemson University

THE CONVERSATION

※本記事は『The Conversation』掲載記事(2025年2月25日)を著者の承諾のもとに翻訳・転載しています。

The Conversation

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