アジア初。台湾の脱原発が実現–「原発ゼロ」守り続ける、その始まりの日

2025年5月17日夜、台湾で最後まで稼働していた第三原発2号機(台湾電力)が運転期間40年を迎えて停止した。これで台湾はすべての原発が止まり、原発ゼロ政策「非核家園(非核国家)」が実現。世界ではドイツに次いで2番目、アジアでは初の「脱原発」の国となった。14年前の福島第一原発事故を受けて、台湾国内でも脱原発・非核への世論が大きくなった結果だ。 

台湾、日本、韓国、インド、フィリピンほか、アジアの人々が集まって脱原発を議論し交流したNNAF国際会議

5月17日の夜、すべての原発停止
福島、能登からも駆けつけ見守る

5月17日の夜、台湾国内の原発を運営する台湾電力本社前には、特設の集会広場が設けられ、多くの人々が「原発ゼロ」の瞬間をともに祝おうと集まった。前日から「原発も核もないアジア」を目指す「ノーニュークス・アジア・フォーラム(NNAF)」の国際会議が開かれており、それに参加した日本を含む各国の人々も、停止の時を待った。台湾電力はホームページで電力供給の内訳を表示し、参加者はスマートフォンで原発割合が減っていく様子をリアルタイムでチェック。

集会には、NNAFを立ち上げ、事務局長を務める佐藤大介さんや、広島県被団協・被爆を語り継ぐ会会員で「原発はごめんだヒロシマ市民の会」代表の木原省治さん、2024年1月に大地震が起きた能登半島から「志賀原発を廃炉に!」訴訟原告団長の北野進さんをはじめとする日本の人々や、韓国、インド、トルコ、フィリピンなど各国の参加者が集った。

「ノーニュークス・アジア・フォーラム(NNAF)」事務局長の佐藤大介さん

この中には、福島の人々もいた。11年3月の福島第一原発事故当時、同原発がある大熊町在住で、事故後に県外へ避難し、同年4月に台湾で開催された大規模な脱原発集会でスピーチをした大賀あや子さんや、福島県伊達市から家族で新潟へ自主避難した20歳の大学生・曽根俊太郎さんも。福島の子どもたちを支援している元「子ども脱被ばく裁判の会」共同代表で90歳になる水戸喜世子さん、3・11後、日本で最初に再稼働した川内原発のある鹿児島県で脱原発に取り組む県議・小川美沙子さんも参加した。

長年続けられてきた脱原発活動が台湾の政策や世論を動かしてきた

大賀さんも水戸さんも、友人と抱き合い、喜びに涙しながら、その時を待った。大賀さんは「台湾のみなさんが福島原発事故に注目し、長年、脱原発に取り組んでこられた様子を知る者として、深い感慨を覚えました。台湾が大きな原発事故の被害者を出さずに脱原発を達成したことに安堵し、喜び、他の原発も被害者を増やさずに停止してほしいという願いを新たにしました」。そして「ともに長く脱原発に取り組み、がんなどで亡くなった福島の友人たちの姿が浮かんできて……」とまた涙した。

曽根さんは「台湾の人々が長年にわたって脱原発運動を続けてこられたことに深い敬意と感動を覚え、粘り強い活動の積み重ねが政策や世論を動かしてきた重みを、この現場の空気を通してさらに強く感じます。そして『(原発ゼロは)目標や理想ではなく、現実に起きた変化だ』と実感しました。私のような避難者や関係者が自らの経験を言葉にすることが、想像以上に大きな意味を持つと実感しました。単に『被害者』としてではなく、『伝える責任のある一人』として、自分の言葉で伝えることの重さと必要性を強く感じました」。

原発ゼロを迎えると、台湾電力本社ビルの壁に向けて、向かいのビルから「非核家園」の文字が投影された。

台湾電力本社の壁に映し出された「非核家園」の文字

早くも原発再稼働の動きに対し30年続くアジア各国の共同行動

原発の調査で約40年前に初めて台湾を訪問して以来、50回以上も台湾の原発立地地域を訪問して地元の人々との関係を築いてきたNNAF事務局長の佐藤さんは「今日は脱原発に取り組んだ台湾の友人たち、NNAFの仲間たちと原発ゼロの実現を祝い、この喜びを分かち合いたい」と語った。

だが、早くも再稼働に向けた動きがあり、その表情に満面の笑みはない。4日前の5月13日、立法院(台湾の国会)で原発の運転期限40年をさらに20年延長させる原子炉施設規制法案が可決した。

そこで、台湾最大の環境団体「台湾環境保護連盟」のメンバーとNNAF参加者は翌18日、第三原発近くの台湾電力事務所を訪問。同社トップの曽文生理事長(元経済産業大臣)と面談し、脱原発達成の意義を伝えた。

台湾環境保護連盟基金の謝志誠会長(右)と台湾電力の曽文生理事長

曽理事長は「福島原発事故の影響を受けて、国内で脱原発の世論が非常に大きくなった。民主国家として国民との対話を通じた結果で、原発が停止した。安定的にエネルギー供給が可能なら、原発回帰はありえないと私は思う。持続可能なエネルギーが重要だ。台湾電力の赤字は脱原発の影響があるという言説があるが、16年から段階的に原発を止めてきて電力供給には問題がなかった」と語った。

大賀さんが労働者の被曝防護と健康管理について問うと、別の担当者が「内部被曝も含めて今後も測定し、退職後に放射線関連のがんになった場合、台湾電力に申告すれば補償する」と答えた。

19日には、第三原発のある屏東県(22年に100%再生可能エネルギーを実現)の周春米知事と環境団体との会談が開催されたほか、第三原発が見える海岸を訪ねた。20日には第一、二、四原発の現地を訪問し、脱原発に取り組んできた地元の人々と交流を深めた。だが同日、第三原発2号機の再稼働への賛否を問う国民投票が8月23日に行われることが台湾の立法院で可決。参加者らは連帯して脱原発を進めることを確認し合った。

 佐藤さんは「今後再稼働させないように、引き続き台湾の仲間と連帯し励まし続け、ともにがんばっていきたい。17日は台湾の原発ゼロを守り続ける、その始まりの日になった」と語った。

台湾環境保護連盟会長の謝志誠さんは「ようやく原発ゼロを迎えられて本当にうれしい。アジアの脱原発に向けてこれからもともに取り組んでいく」と高揚した表情で語った。

NNAFは1993年、日本がアジア各国に原発を輸出する動きを受け、「原発も核もない未来の世界を実現しよう」と、アジア各国の脱原発・反核の人々が集まって各国持ち回りで国際会議を開き、情報交換・発信や、共同行動などを続けてきた。第1回は日本開催で、今回が21回目となった。

(文と写真 藍原寛子)

あいはら・ひあろこ

福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。
https://www.facebook.com/hirokoaihara

※上記は2025年6月15日発売の『ビッグイシュー日本版』に連載の「ふくしまから」の記事を転載しました。

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