「本棚」は、誰かとつながるための自己表現 ──シェア本屋がもたらす喜び

2000年代からのネット書店の台頭、2010年代からのデジタル化の影響などにより、世界的に書店の数は減少傾向にあります。
国内の書店は1999年には2万店以上ありましたが、現在は1万店を切りました。まちの本屋が次々と姿を消し、本といえば大型店・ネット書店・デジタル書籍が主流になるなか、少しずつ広がりつつある新しい本屋の形があります。それが「シェア本屋」です。

一人ひとりが自分の「棚」のオーナーとなり、選んだ本を並べて、手に取ってもらう。このことが、棚のオーナーと、店を訪れる人にとって、喜びとつながりを生んでいます。

シェア本屋とは──本が人をつなぐ場所

シェア本屋は、店舗の中に設けられた棚やボックスを、希望者が月単位で借りられる仕組みの本屋。本を売る人は、「棚」のオーナーとなり、棚に並べる本を自由に選び、好きな値段をつけ、時にポップやカードなどで思いを添えます。

「棚」のオーナーにとって、そこは小さな「自分の本屋」。大好きな本、読んで欲しい本を選び、その価値をわかってくれるだれかに届くうれしさや、自分の選書をきっかけに誰かと繋がれる体験があります。

棚を眺めるお客さんにとっても、シェア本屋はふつうの書店とはちょっと違います。
まだ見ぬ人のこだわりや個性、メッセージが詰まった本棚を眺めるうちに、「この棚主とは気が合いそう、その人が勧めるこの本とは…?」と思わぬ一冊や、人生で考えたこともなかったテーマや切り口に出会うこともあり、「棚」のオーナーとお客さんのあいだには、「わかる…!」という不思議な感覚が生まれます。

学生、専業主婦、サラリーマン、シニアといったさまざまな属性の個人が自分の好きな本(時には自作の冊子)を並べることが多いですが、時には出版社がそれぞれのシェア本屋のコンセプトに合わせて自社の本を選書することもあり、個人の偏愛とプロの視点とが隣り合う店内は、一般書店にはない複雑・有機的な魅力を持っています。
これまでの趣味とはまったく違うテーマの本に心を引かれたり、知らなかった作り手の言葉に出会えたりする偶然を楽しむ人が少しずつ増え、知る人ぞ知る特別な空間として広がりを見せています。

棚オーナーとして選書したり、レイアウトを考えたりするのも楽しい。
(写真は「アノニマ・スタジオ」の佐佐木さん)

シェア本屋がまちにもたらすこと

まちの書店は、ただ「本」という商品を売るだけの場所ではなく、文化的刺激や学びをもたらす存在です。そして、シェア本屋もまた、まちやその場所つながる人たちに新しい文化や居場所をつくります。

シェア本屋に来て棚を覗き、意外なテーマでの選書に「どんな人がこの本を選んだのだろう」と想像したり、「この人わかってる!」と連帯感を感じたり。
値札を見て、「思ったより安いのは、気軽に手にとってほしいからだろうか」と考えたり、「定価と変わらないのは、あまり売りたくないのかな」と考えたり。
小さなメッセージカードに書かれた一言を読み込んだり。
新品同様の本もあれば、読み込まれたと感じさせる本もあります。
時には、棚のオーナーと出くわし、挨拶をかわすことも。
ここに置かれているのは、ただの「在庫」ではない、人と人をつなぐ媒介です。
たった一冊をきっかけに会話が始まり、そこから小さな企画やつながりが生まれることも少なくありません。
その体験が広がり、まちに「おもしろい時間」「安心できる場所」が増えていく。
そんなシェア本屋もたくさんあります。

シェア本屋の仕組み

シェア本屋の運営スタイルはさまざまですが、多くは「棚」を貸し出し、棚のオーナーから月額利用料を受け取る仕組みです。
棚ごとの売れ行きに応じて販売手数料がかかる場合もあれば、固定の利用料だけでOKな場合も。

運営者はお店全体のレジや会計管理、集客等の運営を行い、棚のオーナーは本を補充したり、売上を受け取ったりします。
棚のオーナーは、本が好きでたまらない人、人と繋がりたい人、あるテーマをアピールしたい人、地域活動の一環として参加する人などさまざまです。

棚の数や利用料はお店によって幅があり、棚のサイズや契約期間もいろいろ。
それぞれの店が独自のコンセプトを持っているため、訪れるたびに異なる表情があります。

本を扱う商売は難しいと言われて久しいですが、シェア本屋は参加者と喜びやリスクを分かち合える、新しい本屋のかたちで、全国で少しずつではありますが、増加傾向にあります。

棚のオーナーに興味のある方は、まずは気になるお店を訪れてみてください。

ビッグイシューの「希望をつむぐ本屋さん」

有限会社ビッグイシュー日本も、販売者が気候に関係なく働ける、新しい仕事の場づくりとして2025年7月4日にシェア本屋「希望をつむぐ本屋さん」をオープンさせます。

場所は、100年以上の歴史があり、大阪の三大商店街の一つとも言われる千林商店街。ビッグイシューを昔から応援してくださる篤志家のご厚意で店舗を使わせてもらえることになりました。

プレオープンを経て、現在、100棚中25棚ほどが埋まってきています。「希望をつむぐ本屋さん」をともに創る「棚主」に興味のある方は、ぜひお早めにお問い合わせください。

名称:希望をつむぐ本屋さん
アクセス:〒535-0012 大阪府大阪市旭区千林2丁目15−23
京阪「千林駅」から西へ50m。大阪メトロ谷町線「千林大宮」から徒歩8分。
※加藤銘茶本舗さんと白梅堂さんの間の店です。

詳細はこちら
https://www.bigissue.jp/bookcafe_kiyaku/

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THE BIG ISSUE JAPAN501号
https://www.bigissue.jp/backnumber/501/

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