ペットフード用パントリーのニーズ高まるー物価高騰に苦しむ飼い主たちの救い

ここはメルボルン郊外にあるセカンドチャンス・アニマル・レスキュー(以下、「SCAR」と表記)が運営するペットフード専用のフードパントリー(食料支援を行う場所)。棚にはペットフードやペット用グッズ、寄生虫予防薬などがぎっしり並んでいる。

在庫整理中のサミュエル・パッジたち Photos by Christina Simons

「これで少し気持ちがラクになります」とジャーマン・シェパード用の無料ドッグフードを受け取ったエミリーは言う。「私には幼い子どもが3人います。家賃も上がり、家族の食費はじめ生活費の支払いに追われています」。今日受け取ったドッグフードで、大切なペットに「少なくとも1〜2か月」は食事を与えられるという。

年間約43万円にのぼる、ペットの餌代

このフードパントリーをはじめとして、オーストラリアではコロナ禍以降に各地で数多くのペットフード支援拠点が立ち上がった。物価高騰が続く中、生活に苦しい飼い主たちにとって大変ありがたいサービスとなっている。「ペットを飼うにあたって、食事を与えるのは最低限必要なこと。ですが、食事をあげられないからといって、ペットを大切に思っていないわけではありません。自分は我慢してペットに食事を与える飼い主もたくさんいます」とマリサ・デバティスタ代表が言う。

利用者と愛犬 Photos by Christina Simons

オーストラリア人がペットの犬に費やす年間出費は平均で4千ドル(約43万円)で、うち7割が餌代だ(ロイ・モーガン研究所の報告書より)。物価高騰により、多くの人がペットへの支出はもちろん、自身の支出も削らざるを得なくなっている。

オーストラリアでは、この1年で200万世帯以上が食料不足を経験している(フードバンク・ハンガー・レポート)。そうした家庭の約4分の1が、「ペットに食べさせるために自分が食事を抜いた」と回答し、ジャンクな食べ物を食べている、食事の量を減らしているとの回答も少なくない。「本当にひどい話で胸が痛みますが、これが現実なのです」とデバティスタ。

受付のカレン・ワッツと猫の飼い主ディミトリオス Photos by Christina Simons

地元の食料支援団体や慈善団体と連携してペットフードを確保し、支援物資を届けるモバイルサービスの取り組みも進んでいる。運営を支えるのはボランティアの尽力、地域住民からの寄付、ペットフードブランドからのスポンサー支援だ。

3分の2以上の家庭がペットを飼育

オーストラリアは世界有数のペット大国で、3分の2以上の家庭が何かしらの動物を飼っている。ペットがいることは、私たちの健康や幸福に大きな役割を果たすだけでなく、安心感、友情、心の支え、そして社会的つながりをももたらしてくれる。「今、人々はこれまで以上にペットを必要としています」とデバティスタは日々の活動を通して痛感している。

利用者にドッグフードを渡すマリサ・デバティスタ代表 Photos by Christina Simons

中間所得世帯の5分の1以上が食料不安

SCARの需要はこの1年で急増、フードパントリー、ペットの一時預かり、訪問サービスなどに関する問い合わせが1日に20件に達し、「まったく対応が追いついていません」とデバティスタは言う。支援を求める人々の層にも変化が見られ、家族世帯や就業者の利用者も増えているという。「この数年で困窮者の定義が変わったと感じています」。慈善団体フードバンクの調査でも、中間所得世帯の5分の1以上が食料不安を抱えているとされ、もはや低所得層に限った話ではなくなっている。

ちょうどそこに、困窮者支援の非営利団体ヘルピング・ハンズ・ミッションが物資を引き取りに来た。SCARと提携している38団体のひとつだ。スタッフのサミュエル・パッジいわく、この2年で需要が急増し、メルボルン北西部にある各拠点では、1日あたりの平均利用者数は40人から70人に増えているという。「利用者の8割がドッグフードやキャットフードを必要とする人たちで、物資を提供すると皆さん本当にうれしそうな表情をされます」とパッジは言う。「ペットは家族の一員ともいえる大切な存在ですから、できるだけ多くの人たちに支援を届けたいと思っています」

ヘルピングハンズが運搬してきた荷物を下ろす Photos by Christina Simons

SCARの常連客で年金生活者のディミトリオスは、救世軍(Salvation Army、キリスト教プロテスタントの一派による福祉・慈善団体)を通じてこの支援プログラムを知った。「家賃と電気代を引くと、160〜170ドル(約1万6千円)で2週間を乗り切らなければなりません」。ここの支援のおかげで、2匹の黒猫に食事を与えることができている。ペットと出会った経緯を語り出すと、一気に表情が明るくなった。

ペットを支援することで飼い主も救われる

物価高騰によりペットの飼育をあきらめる人が増えている。英国動物虐待防止協会では、その3割が経済的な事情によるものと見ている。「ペットを手放したい人などいませんが、ペットがいると生活ができなくなる人がいるのです。ペットがいると賃貸物件を探すのも難しくなりますから」。やむを得ない理由からペットを手放す人たち。SCARでは、そうなる前にできる限りの支援をしたいと考えている。

外では、ボランティアのリアン・マクドネルがケルピー犬の訓練に取り組んでいる。元気いっぱいのレッドに顔をなめられそうになりながら、「ペットにごはんをあげるか、手放すか、そんな選択をしなければならないなんてつらすぎます。でも、少なくともフードパントリーがあれば選択肢が広がるはず」とマクドネルは言う。

デバティスタが生後2週間の子猫に哺乳瓶でミルクを与えている。ほんの数時間前に工業地帯の路上で空腹と不安で震えているところを発見され、運ばれてきたところだという。子猫の世話をしながら電話にも応対するマルチタスクは、限られた資金と人手で運営されている動物保護の現場の必須スキルのようだ。

施設に引き取られた子猫に食事を与えるマリサ・デバティスタ代表 Photos by Christina Simons

当団体では、ペットと暮らせる住環境の整備、賃貸住宅に関する法制度の改善、支援プログラムへの公的資金の増額を求める活動も進めている。「ペットだけじゃなく、飼い主たちの生活をも救っているこの活動はこれからも続けていかねばなりません。そのためには、地域のサポートが欠かせません」

By Lilian Bernhardt
Courtesy of The Big Issue Australia / INSP.ngo

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