農地の有効活用と収入の多角化、環境負荷の低減を実現するアグリソーラー(営農型太陽光発電)の可能性

釧路湿原をはじめ、自然を破壊して行われる「メガソーラー開発」は、景観の悪化だけでなく、災害リスクも懸念されているが、同じ太陽光発電でも農地の上で太陽光発電を行うことを「アグリソーラー」といい、近年注目を集めている。オーストリアのストリートペーパー『20er』が、シュタイアーマルク州ハイデックで実施されている果樹栽培と太陽光パネル発電の試験場を訪れ、運営責任者レオンハルト・シュタインバウアーに話を聞いた。

―ハイデックで実施しているアグリソーラー事業について教えてください。

アグリソーラーとは農業と太陽光発電を組み合わせ、ひとつの土地を農業生産と発電の両方に活用する手法をいいます。ここハイデックでは3年前から、太陽光パネルによる発電を行いながら、作物を雨風、日射し、ひょう、霜などからどれくらい保護できるのかを調査するパイロット事業を進めています。研究施設のすぐ隣に試験場があり、広さ5千平方メートルの果樹耕作地のうち、半分超の面積に太陽光パネルを設置し、リンゴ、西洋ナシ、サクランボ、サワーチェリー、アンズ、西洋プラム、モモ、西洋スモモを栽培しています。比較のため、太陽光発電パネルを設置していない敷地でも同種の果樹を栽培しています。

果物の生育には光が欠かせませんので、太陽光パネルは半透明で、太陽光を表裏両面から吸収できるタイプの片流れ屋根型を使用しています。この構造には、作物が雨にさらされるのを防ぎ、雨水を農業用水に利用できるといった利点があります。屋根上などに設置される一般的な太陽光パネルは南向きで、日中の発電が中心ですが、この方法だと果樹を南北方向に植えられるので、朝は東から、夕方は西からと、一日を通して日光が均一に当たり、朝から夕方まで発電でき、需要に合わせて発電量を調整しやすくなります。これは今後ますます重要な要素となるでしょう。

リンゴの木の上に設置された太陽光発電パネル
Photos courtesy of the State of Styria.

―半透明タイプのパネルだと発電量が減るのでは?

たしかに、従来型の太陽光発電モジュールよりも出力は低いです。ただし、その欠点を埋め合わせるだけの大きな利点があります。パネルの下にある果樹が熱せられると、葉や果実を冷やそうと水分を蒸発させるので、周囲の気温が下がり、モジュールも冷却され、高い発電効率を維持できるのです。従来の屋根型システムだと、標準温度の25℃を超えると1℃上昇するごとに発電量が0.4%ずつ下がり、最大で25%発電量が低下する恐れがあるのですが、このシステムだと非常に安定した出力が期待できます。実際、とても雨量の多かった2023年と2024年に年間40万キロワット時の電力を生み出すことができ、予測を大幅に上回る結果となりました。これで、土壌や葉の分析など比較的エネルギー消費の多い施設を含む、試験施設のほぼすべての電力をまかなっています。新たに建設予定の充電ステーション用の電気もカバーしたいと考えています。

― プロジェクト開始から3年で何か発見はありましたか?

太陽光パネルの雨よけとしての効果には、よい意味で驚かされました。湿気によるカビ、いわゆる黒星病は、特にリンゴ栽培では重大な病害となるのですが、パネルがあることで病気の蔓延が激減し、植物保護製剤(作物を病害虫や雑草から保護するために使われる薬品や資材)を使う必要がなくなりました。その一方で、太陽光パネルを設置していない有機果樹園では植物保護措置を29回講じたにもかかわらず、黒星病の感染率は2倍でした。太陽光パネルによってカビによる病害を軽減できれば、植物保護製剤の使用を減らし、収穫量にもプラスの影響があります。気候変動がもたらす異常気象が増えるなか、植物保護製品への依存を減らせることは大きな優位性になります。

太陽光パネルは霜対策にもなります。霜の多かった2023年、露出エリアではモモの花が枯死してしまいましたが、太陽光パネルの下では1本あたり70個もの実を間引く必要があるほど順調に生育しました。パネルが車を守るガレージのような役割を果たし、温度がより安定した状態に保たれるので、作物の出来を左右すると考えられます。

― 気候変動に関する最新報告書では、農業への大きな影響が指摘されています。

オーストリアでは世界平均よりも速いペースで気温上昇が進んでいて、激甚化する気象現象が増えています。風雨はこれまで以上に激しくなり、極端な雨量を記録するようになっています。2023年の暴風雨の際には、パネルから跳ね返ったひょうが近くの果樹に当たり、果樹の3分の2が損傷してしまいました。昨年6月の暴風雨でも車が流されるほどの大きな被害があり、私たちの施設も損害を免れませんでした。ひょう対策のネットが必須です。
ひょう被害に備える保険の重要性も高まっています。シュタイアーマルク州の農業を対象とした州の補助金も2014年の約400万ユーロ(約6億9000万円)から今では年間約1600万ユーロ(約27億6000万円)へと増加し、2025年にはリスク保険に州と連邦から投じられる資金総額が3000万ユーロ(約51億7800万円)近くに膨れ上がっています。増大する被害コストを、もはや民間企業だけでは負担しきれなくなっているのです。

私が果樹栽培に携わって40年以上になります。最初の30年間はこれほどの極端な気象現象はほぼなかったのに、2016年以降はほぼ毎年、干ばつ、暴風雨、霜などの異常気象が発生しています。その結果、果樹栽培をこれ以上続けられないとあきらめる農家が増え、土地を放棄しています。今年は大規模な干ばつ被害も危惧されていますし、あらゆることが激しさを増しています。報告書では、アグリソーラーのような予防措置を取ることは、被害が起きてから修復するよりもはるかに費用対効果が高いことが示されています。ただ気がかりなのは対策面での後れで、農業大臣が気候変動への対策を「義務」ではなく「選択肢」とする発言など、大変懸念してします。

― アグリソーラーの導入は農家にとって割に合うものになりそうですか?

再生可能エネルギーへの移行には大きな優位性があると考えます。私たちは、成果の8割は全体の2割から生まれるとする「パレートの法則」に則っています。とくに気候変動の時代には、効率性ばかりを追求して短期的な利益最大化を目指すよりも、考えうる成果の8割をできるだけ少ない労力で達成し、より回復力の高い、柔軟で持続可能な運営を行っていくことが重要です。

当初は規模拡大によるコスト減まで考慮していませんでしたが、今では経験の蓄積と規模拡大を計算に入れた、より正確なコスト算定が可能です。一般的な地面に設置する従来型システムに比べて、コストは約2割高くなります。最も高額な設備は40万ユーロ(約6,900万円)する変圧器(1250キロボルトアンペア)ですが、これにより、今年予定されている試験区域の拡張分までカバーすることができます。
そのほか、送電網への電力供給、インバーター、架台などにコストがかかります。とくに果樹栽培では、機械が下を通れる高さを確保しながら、強風に耐えられる頑丈な構造が必要となるため、架台の強化に一般的農地の約5倍の費用がかかります。一方で、パネル自体の価格や技術面の費用は年々下がっていますし、パネルを東西に配置することで昼間だけでなく需要の多い朝夕の時間帯にも電力を供給できるので、今後、売電価格に反映されていくでしょう。

― この先、農家が「電気の生産者」になれる?

すでに興味を示している人や組織が複数あります。ただ、電力網の拡張の遅れが原因で導入に至らないケースもあります。夏前までに可決されるはずだった法律の整備も年末以降になりそうです。それでも私は、これは試験事業にとどまるものではないと確信していますし、地域によって可能性は異なるものの、果樹農家がエネルギー転換において重要な役割を担うことができると考えています。

運営責任者のレオンハルト・シュタインバウアー Photos courtesy of the State of Styria.

Interview by Eva Schwienbacher
Translated from German via Translators Without Borders
Courtesy of 20er / INSP.ngo

参考
日本においては、農地法上、農地は「農業のために使う土地」と定義されているため、太陽光発電設備を置く場合には「農地転用」の手続きが必要になるほか、手続きが煩雑なことなどがハードルになっている。

農業と脱炭素の両立に向けた提言 ~金融活用によるソーラーシェアリングの更なる普及促進に向けて~

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