生成AIは人間を助けているのか、世界を壊そうとしているのか― 21世紀の仕事のあり方

ChatGPTやGeminiといった生成AIが膨大なレポート分析から小論文やメールの作成、複雑な数学問題を解けるまでになった。「これからの仕事」や「働くことの意義」に関する問いが、今あらためて浮上している。

1930年、英国の経済学者ジョン・メイナード・ケインズは、「20世紀末までにテクノロジーが飛躍的に進歩し、先進国の人々は週15時間以上働く必要がなくなる」と予測していた。だが、それから80年以上が経った現在の世界は、それとは正反対の状況にある。テクノロジーの進歩によって自由な時間が増えるどころか、人々はますます長時間働くようになり、やりがいを感じられる仕事は減り続けている。ジャーナリスト兼ヴィジュアル・アーティストのドゥニャ・カラノヴィッチがセルビアのストリートペーパー『Liceulice』に寄稿した記事を紹介しよう。

AIがもたらす無意味な仕事「ブルシット・ジョブ」

著書『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論(原題:Bullshit Job: A Theory)』を2020年に発表した米国の人類学者デヴィッド・グレーバー(1961-2020)は、無意味でばかげた仕事ーーいわゆるブルシット・ジョブ(どうでもいい仕事)ーーを、その仕事をしている本人がその意味を理解できない、あるいは社会の役に立っていると感じられない仕事としている。

テクノロジーは生産的な仕事の多くを自動化させたため、人間にはスプレッドシートの入力やメール対応(返信ボタンを押すだけのケースも)といった作業が残された。生成AIが新たに「どうでもいい仕事」を生み出す可能性も高い。いわゆるAIハルシネーション(生成AIが事実と異なる情報や架空の事実を、もっともらしく生成してしまう現象)が起こりやすいという懸念もある。既存の枠組みの中でしか問題解決できないチャットボットには監視が必要となるため、人間の行う事務作業の多くが、AIが出力した内容の誤りを修正・改善する作業になっていく可能性もある。

また、世界中の多くの批評家は、AIが職種間の賃金格差を拡大させるとの懸念を示している。企業経営の仕事やフードデリバリーの仕事が今すぐChatGPTに奪われることはないだろうが、人々の社会的流動性を支えてきた「ブルシット・ジョブ」の多くがAIに置き換えられる可能性はある。AIアシスタントは人間と違って、昇給や昇進を望まない。企業にとっては好都合だろうが、働く側にとっては厳しい現実である。

グレーバーが述べているように、この状況がベーシックインカムの導入につながり、人々が自分の興味や能力、やりがいにもとづいて仕事を選べる社会になるのなら前向きに捉えることもできよう。資本主義は誰の役にも立たない仕事を生み出したが、仕事とは単に労働者がお金を稼ぎ、生き延び、モノやサービスを購入して気の遠くなるような労働時間を正当化するための手段ではない。仕事とは本来、個人的な達成感、社会に貢献しているという実感、帰属意識などを感じさせてくれるものでもある。

生成AIの技術は、単調なスプレッドシートの入力や報告書作成に使われているが、詩を書くことや視覚芸術といったクリエイティブな作業に用いられることも多いのが、昨今の皮肉な現状である。2025年3月、ChatGPTの画像生成機能が大幅にアップデートされ、短いテキスト指示を与えるだけで高品質な画像を生成できるようになった。美術分野とインターネット分野の膨大なデータを学習したこの高度なボットは、複雑な視覚表現(人間の指、ピアノの鍵盤など)にも混乱しない。少し前によくあったAIアートならではのミスも改善されつつある。

写真をジブリ風に加工するAI技術が政治

イラストや写真を本物そっくりに生成することもできるようになり、ネット上の新しいトレンドを生み出している。とりわけ話題となったのが、写真を、『もののけ姫』や『となりのトトロ』など数々の名作アニメを輩出しているスタジオジブリ風のイラストに変換できる技術だ。このトレンドは瞬く間にSNS上で拡散され、AIアートの倫理感をめぐる議論を再燃させた。存命中の表現者の作風を、本人の許可を得ることなく無報酬でAIに学習させることには、法的にも疑問の余地がある。

AIの急速な普及により大量の電力を消費し、環境に大きな負荷がかかること。それに、表現者が独自のスタイルを確立するのに費やした年月と努力を踏みにじっているといった道徳的葛藤を脇に置いたとしても、依然、「パクリでは」という問題が文字どおりの意味で残る。一般人の結婚式の写真や自分の幼い子どもの写真を大好きなアニメ風に加工するくらいならそれほど害はないだろうが、これを政治目的で使用するとなると無害とは言ってられなくなる。

各国の大統領・首相たちのアニメ風画像が生成され、こぞってクリーンなイメージをアピールしてもいる。米国同時多発テロ事件(2001年9月11日)、ジョージ・フロイド殺害事件(2020年5月25日)などの悲劇を特定のアニメの作法に似せて描いたAI画像まで生成された。イスラエル国防軍は、パレスチナを攻撃中の兵士を同じくアニメ風にしてXの公式アカウントに投稿、ホワイトハウスも国外退去を命じられて涙を流すドミニカ人女性画像を生成し、投稿した(参考)。

テック業界を牽引する者たちが、AI技術の検閲をめぐる議論に意見し、政治的にも大きな影響力を持ちつつある。そして今や、スピード至上主義がテック業界のみならず、公共政策や外交政策の領域にまで入り込み、そのスピードのもと、数十年かけて培われてきた国際法、人権、ジェンダー平等、生殖に関する権利、連帯、社会的セーフティネットの原則が壊されつつある。

1909年、イタリアの詩人フィリッポ・トンマーゾ・マリネッティが新聞『フィガロ』で「未来派宣言」を発表し、前衛的な芸術運動の指針を打ち出した(参考)。“芸術は過去の継承ではなくエネルギーを爆発させるものだ”として、旧来の価値観を破壊するために、あえて過激なスローガンを掲げた。危険、攻撃性、戦争、軍国主義、スピード、技術、女性軽蔑などを称えるべきと主張したのだ。長文から成るその宣言は今日のSNS時代にはそぐわないが、ソーシャルメディア「X」を所有するイーロン・マスクのモットー「素早く行動し、破壊せよ」は、ある意味、「未来派宣言 2.0」と捉えることもできよう。

By Dunja Karanovic
Translated from Serbian to English
Courtesy of Liceulice / INSP.ngo

ビッグイシュー・オンラインのサポーターになってくださいませんか?

ビッグイシューの活動の認知・理解を広めるためのWebメディア「ビッグイシュー・オンライン」。
提携している国際ストリートペーパー(INSP)や『The Conversation』の記事を翻訳してお伝えしています。より多くの記事を翻訳してお伝えしたく、月々500円からの「オンラインサポーター」を募集しています。

募集概要はこちら