近年、戦時下での原子力関連施設への攻撃が相次いでいる。ロシア・ウクライナ戦争では、欧州最大のザポリージャ原発がロシア軍に攻撃・占拠された。チョルノービリ(チェルノブイリ)原発も一時占拠され、解放後の昨年2月にもドローン攻撃により外部シェルターが損傷した。昨年から今年にかけてのイスラエル・米国のイラン攻撃では、イランの原子力関連施設が攻撃され、原発の防衛設備も破壊された。
言うまでもないことだが、原子力関連施設への攻撃は、放射性物質を大量に外部に放出しかねないきわめて危険な行為だ。そのため、武力紛争時のルールを定めたジュネーブ諸条約は原発への攻撃を禁じている。だが批准していないなどの理由から、この条約が適用されない場合もある。また条約上は核兵器の材料を製造できる再処理施設(プルトニウム)やウラン濃縮施設(高濃縮ウラン)への攻撃は明示的には禁じられていない。特に問題となるのは再処理施設だ。なぜなら再処理施設では、核燃料の中に閉じ込められていた放射性物質を溶かしてプルトニウムを分離しているため、脆弱な状態となっているからだ。
若干古いニュースだが、英フィナンシャルタイムズ紙は2023年12月31日、入手したロシア軍の攻撃対象リストに茨城県東海村の再処理施設が含まれていたと報じている。Kh-101という巡航ミサイルの性能説明用資料の中にリストが記載されていたという。
東海、高レベル廃液360m3保管
風向きによっては首都圏直撃
では、仮に東海再処理施設が攻撃されたらどういう状況になるのだろうか。米NOAA(海洋大気庁)が作成したHYSPLITという大気中の物質拡散シミュレーションソフトを使って、セシウム137の広がりを検証した。
東海再処理施設には膨大な放射性物質を含んだ高レベル廃液が360m3保管されている。東海再処理施設を運営する日本原子力研究開発機構の計画では2026年度から2038年度にかけて安定化処理(ガラス固化)を実施予定だが、遅延を重ねている。そこでこの高レベル廃液の1%が外部に漏れた想定で、主要な放射性物質となるセシウム137の拡散をシミュレートした(4月1日から4日までの実際の気象条件を用いた/図)。

東海再処理施設での事故は風向きによっては首都圏を直撃する。このシミュレーションがまさにその事例で、追加で発生する被ばくが、平常時基準の年間1ミリシーベルト(mSv)以上となるエリアの居住人口は4600万人を超える。想像を絶する事態だ。

今回、ロシア軍の攻撃を前提にして事故シミュレーションを行ったが、別に攻撃がなくとも、地震や津波などでも同様の事故は起こりうる。東海再処理施設に隣接する東海第二原発でもそうだ。原子力を利用し続けるかぎり、私たちは途方もないリスクと隣合わせで生きていることを忘れてはならない。
(松久保肇)
まつくぼ・はじめ
1979年、兵庫県生まれ。原子力資料情報室事務局長。
金融機関勤務を経て、2012年から原子力資料情報室スタッフ。共著に『検証 福島第一原発事故』(七つ森書館)、『原発災害・避難年表』(すいれん舎)など https://cnic.jp/
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