NPO法人ビッグイシュー日本では、企業や学校から依頼を受け、ホームレス問題や格差社会、ビッグイシューの活動への理解を深めるため、講義をさせていただくことがあります。
今回の行き先は、兵庫県神戸市にある灘中学校。道徳の授業として、公民科教諭の片田先生にお招きいただき、ビッグイシュー日本大阪事務所長の吉田耕一と明石駅担当の販売者Mさんが伺い、2回に分けて187名の灘中生にお話ししました。
吉田からはホームレス状態に陥る理由は多種多様であることや、日本国内の路上生活者の推移や問題点、ビッグイシューの事業の役割や仕組みを解説し、その後、ビッグイシュー販売者のMさんから、ホームレス状態に至った経緯やビッグイシュー販売の仕事についてお話しするというスタイルです。
吉田は、講義でいつもこう力説します。
「ホームレスという言葉は、あくまで状態を表す言葉であって、その人の人格を表す言葉ではありません」
「ホームレスになる人は、やる気がないのでは」「本人に問題があるのでは」と思われがちですが、実際には、リストラ、介護、病気、ケガ、人間関係など、様々な問題が重なって、仕事、家族、住まい、お金、そして自己肯定感を失っていってしまうのです。
そして一度路上に出てしまうと、「住所がないから」「保証人がないから」などの理由で仕事にもつけず、結果、安定した住まいを持つことが難しくなります。ビッグイシューは、ホームレス状態の人でも、その日からできる仕事を提供することで、路上脱出を応援しています。
ギャンブル依存でお金と人間関係を失ったMさんの体験談
ビッグイシュー販売者のMさんは、現在JR明石駅南口で販売しています。

Mさんは宝塚市出身。5歳のときに父を交通事故で亡くし、母子家庭で育ちましたが、子ども時代については「ご飯が食べられないとか修学旅行に行けないとかはなく、普通に過ごさせてもらった」と振り返ります。中学時代はサッカー部に入り、高校、大学へと進学。バイトに励み、友達とも旅行に出かけるようないわゆる「普通」の子ども・若者時代を過ごしてきました。
大学卒業後、Mさんは段ボールメーカーに就職。穏やかで人あたりのいいことを買われてか、営業として働き始めます。しかし、想像以上の営業ノルマの重圧や、人格を否定されるような上司の言葉に耐えきれず、数年で退職。その後、「営業以外の仕事がしたい」と別の会社に入って工場での作業の仕事を得たものの、営業担当者が辞めてしまい「ちょっとだけやって」と頼まれてしまい、ズルズルとまた営業を任されるようになってしまいました。
嫌だと言ってるのに、また営業を任され、ノルマが課されていく―――営業のストレスを感じていたある日、小学校からの友人に誘われて行ってしまったのがパチスロでした。軽い気持ちで行った時に、大きく勝ってしまったのが人生の岐路でした――。
「それが気持ちよかったんですよ…」というと、生徒の皆さんが一斉に「あ~!(ダメだ~!)」「出た~!」と反応。
Mさんはこのことが強烈な体験として脳に刷り込まれてしまい、ストレス解消に…と通ううちにハマってしまったといいます。やがて給料をほとんどつぎ込むようになり、さらには借金までするように。2つ目の会社を辞め、借金が150万円に差し掛かる頃、家に督促状が届きました。
当然、一緒に住んでいた母親に借金がバレてしまい、口論に。自分が悪いとわかっていながらも、Mさんは家を飛び出してしまいました。
当時は住み込みでできる派遣の仕事も豊富にあり、名古屋で働きながら生活を立て直そうとしたといいます。でも、稼いだと思ったら次の休みの日にはまたギャンブルにつぎ込んでしまい、少し貯まると「毎日打ちたい…」と思って仕事をやめてしまう――自分の意思ではやめることができない――あと千円しかないのに、「この千円で、当たるかも」とつぎ込んでしまう――そう、Mさんは、ギャンブル依存症という病気にかかっていました*。そうこうしているうちに、リーマンショックの影響で派遣の仕事そのものが減ってしまい、仕事と住まいをなくしてしまいます。ネットカフェに泊まるお金もなく、初めて路上で寝ることになってしまいました。
*日本には、ギャンブル依存症患者が数百万人いると言われています。
参考:https://bigissue.or.jp/action/gambling/
「なんとかなる、と思ってしまっていたんです。でも、なんとかならないですよね」
Mさんは当時の心境をそう語りました。名古屋城近くの公園で、他のホームレス状態の人たちがいる場所を選んで寝たのだそう。食事は炊き出しなどでしのぎました。
「仕事として受け止めてくれる」こと
その後、大阪に戻ったMさんは、ホームレス支援団体を通じてビッグイシューと出合います。それ以降、販売を始め、現在はアパートに入り、家賃を自分で払って暮らせています。
ビッグイシューの販売でうれしいことは何か。Mさんは、「買ってくださる方が、かわいそうだから買ってやろうという感じではなく、ちゃんと仕事として受け止めてくれること」だと話した。「頑張ってね」と声をかけて買ってくれる。その関係が、自分を支えているといいます。生徒の皆さんへのメッセージとして、「ネットで簡単にできたりする時代ですけど、ギャンブルはしないほうがいいです。趣味を見つけてくださいね」と伝えると、一同「おぉ~」と大きな反応がありました。
灘中名物、生徒からの質問シャワー
授業の後半は、質問タイム。灘中は、フランクな質問が日本で最もたくさん飛び出す学校の一つかもしれません。「何を聞いてもいいですよ」というと、遠慮のない質問が矢継ぎ早に押し寄せ、Mさんと吉田が回答していきました。当日の質疑応答と、授業後のアンケートで寄せられた質問への回答を一部紹介いたします。
▼ビッグイシューについて
Mさんは、「ホームレス状態でいると、運動する機会がない」と感じていたそう。ビッグイシューが主催するフットサルの練習会があるのを知り、参加してみたところビッグイシューの販売者やスタッフと出会い、販売することになりました。(アンケートで質問、回答:オンライン編集部)
参考:ビッグイシューのクラブ活動
https://bigissue.or.jp/action/club/
販売者や季節にもよりますが、1日平均13~17冊ほどです。月収でいうと月6万〜7万円程度です。(Mさん)
販売だけで生活を支えることは簡単ではないため、このような出張講義や、ビッグイシューの通販の発送、シェア本屋「希望をつむぐ本屋さん」での店番の仕事など、雑誌以外の仕事づくりにも取り組んでいます。(吉田)
販売を始めて半年ほどで、ビッグイシューが運営する「ステップハウス」*に入ることができました。期限付きですが、家賃は安く設定されていて、そこを足掛かりにアパートに入ることができました。(Mさん)
ステップハウス:ホームレス状態の人が初期費用や保証人不要で利用できます。 https://bigissue.or.jp/action/stephouse/
僕のお客さんは、40代から60代くらいの女性が7割くらいです。(Mさん)
過去の読者アンケートでも、女性の割合が高いです。(吉田)
2003年に有限会社ビッグイシュー日本として雑誌を創刊して以来、雑誌500号以上、1,000万冊以上を発行・販売し、働く販売者に17億円余の収入を提供してきましたが、ほとんどの期間で雑誌事業は赤字です。2026年4月からはNPO法人ビッグイシュー基金と統合し、市民メディア事業と仕事づくり・生活応援・政策提案・市民参加を一体的に進める体制へ移行し、理念に賛同してくださる方々からの寄付を活動に充てていきます。(アンケートで質問、回答:オンライン編集部)
▼ホームレス状態について
いろんな人がいて、変な人もいますけど、基本みんな「いい人」だと思います。質問したら親切に教えてくれる人も多いです。(Mさん)
お金がないから、食べるもの、飲み物がないことや、どこに頼ればいいのかがわかりづらいことです。(Mさん)
自分は経験ないですが、路上生活の人たちを狙った襲撃もあるので、周りにいくら他の人がいたとしても、夜寝るときが一番怖かったですね。(Mさん)
自分の周囲にはいなかったです。(Mさん)
路上生活の人は、冬の寒さで凍死することもあります。また、ビッグイシュー販売者のなかには持病を抱えている方や高齢の販売者も多いため、体調面のサポートも行っています。(吉田)
自分の周りにはいないのでわからないです。(Mさん)
※編集部補足:海外では一般的なこともありますが、日本では正当な理由なく不特定多数に金品を乞うことは法律に触れる可能性があるため、路上で見かけることはかなり少ないです。もし見かけることがあれば、支援につながるようビッグイシュー日本が発行している「路上脱出・生活SOSガイド」などを渡していただければと思います。
参考:https://bigissue.or.jp/action/guide/
名古屋にいたときは、朝起きると、公衆トイレで顔を洗ったり体を拭いたりし、近くの県立図書館で夕方の閉館まで本を読むなどして過ごしていました。
夕方以降は炊き出しに行き、夜中に何かないかと歩きまわり、深夜2時ごろに寝場所へ戻るような生活でした。(Mさん)
だいたい1日1食です。炊き出しのお世話になっていたので、お金を使って食べることはほとんどありません。お腹は空いていて痩せていましたね。(Mさん)
自分は路上生活をしていたときは病院に行くことはありませんでした。
ビッグイシューとつながってからは、無料低額診療の制度*を知り、診察を受けることができています。(Mさん)
無料低額診療を実施している病院があるので、必要に応じて紹介しています。手術など高額な医療が必要な場合は、生活保護を利用してからなど、別の支援も利用することもあります。(吉田)
持ってる人もいましたが、自分が路上にいた時期には携帯電話を持っていませんでした。(Mさん)
組織はないです。上下関係はあるのかな?とにかくみんないい人で、先にその場所にいた人が「これはやめたほうがいい」などと教えてくれたりしますね。(Mさん)
基本的にはなかったように思います。ただ毎日を生きてるだけで。
ただ、ビッグイシューを売り始めてからは、「ご飯を食べられるようになりたいな」「コーヒーを飲めるようになりたい」といった小さな目標が出てきました。(Mさん)
はい、います。路上生活に至るまでの過程や路上生活中に、人を信じることができなくなってしまった人、自己肯定感が著しく下がってしまった人などです。
時間をかけて少しずつコミュニケーションを取っていくことが必要です。(アンケートで質問、回答:オンライン編集部)
基本的に家がないので、投票用紙も届きませんし、行ってないです。(Mさん)
※編集部補足:選挙人名簿に登録されるには、基本的にその自治体に住民登録をして(住民票を得る)から3か月以上住んでいることが必要です。そのため、住民票が過去住んでいたどこかにあるかにもよりますが、住民登録を回復・新規登録する必要があります。ビッグイシューでは、希望する人には役所への相談に同行することも可能です。
最近は見た目だけではホームレスかどうかわからないかもしれません。販売中に何か嫌がらせを受けることがあれば、スタッフに相談したり、売り場に来てもらったりすることもあります(Mさん)
僕にはわからないです。(Mさん)
※編集部補足:ホームレスでカップルになる方はいます。海外のケースですが、結婚したカップルが記事にもなったこともあります。
https://bigissue-online.jp/archives/11027
99%が男性です。女性が路上で寝ていると襲われることもあり、路上にいる人を見つけたらできるだけ早く施設につなぐようにします。(吉田)
※編集部補足:女性は、かなり早い段階で相談に来て、適切な支援につながることが多いのですが、男性は切羽詰まってもなかなか誰にも相談せず、早期に支援に繋がれないことが多く、そのことが路上脱出を難しくもしています。
自分が路上にいたのは名古屋なので、現在はその頃の仲間と会うことが難しく、直接紹介する機会はあまりありません。(Mさん)
ビッグイシューのスタッフは夜回りなどを通じて、路上にいる人に声をかけることがあります。(吉田)
※編集部補足:路上のビッグイシュー販売者を見て、ホームレス状態の人から「それはどんな仕事か」と質問をされて販売につながるケースもありますし、ビッグイシュー販売者がホームレスの方に仕事として紹介することもしばしばあります。
直接助けになる方法としては、相談先の情報を渡す、必要に応じて水や食べ物、カイロなどを渡す、といった方法があります。一方で、相手の状況がわからないまま現金を渡すことが、相手にとって本当に必要な支援になるとは限りません。
住まい、医療、借金、障害、依存症、トラウマ、人間関係など、困りごとは人によって違い、現金を渡すことが解決につながらない場合もあります。「直接届ける」形と同じくらい、その人が必要な支援につながれる方法を考えることも大切です。
なお、寄付ではありませんが、ビッグイシュー販売者の場合、直接助けになる方法として、販売者から雑誌を買うというアクションがあります。購入代金の一部は販売者の収入になり、仕事の結果として本人に届きます。(アンケートで質問、回答:オンライン編集部)
▼ギャンブルについて
12万円ほどです。(Mさん)
今はインターネットで動画を見るのが趣味なので、パチンコに行かずに済んでいます。(Mさん)
▼Mさん自身について
赤川次郎の小説から本格的に読むようになりました。三国志、水滸伝などの歴史物も好きです。(アンケートで質問、回答:Mさん)
ちらっとは考えますが、自分のことで精一杯でした。(Mさん)
連絡は取ることもあります。少し前に一度会いはしました。でもまだ関係は修復できていない感じです。(Mさん)
ないですね。仕方がないかなって。(Mさん)
大阪で支援につながったあと、債務整理の制度を利用しました。一定の条件のもとで、返済について整理する手続きを行いました。(Mさん)
コロナ禍のときの給付金10万円を使って、タブレットを買いました。(Mさん)
出張講義への登壇を打診する際、話したくない、話せないと断る販売者ももちろんいます。生徒の皆さんの前で話そうと思う動機は販売者によってそれぞれです。
ビッグイシューが事業として出張講義を行っている理由は、「ホームレス問題」を単なる統計の問題としてではなく、ある人の体験として知ってほしいからです。
その人がどんな子ども時代を過ごし、大人になってどんな困難が重なって安心して住める場所を失ったのか。その体験や思いを知ることは、将来、困難を抱えた人を「自己責任の結果」として切り離さず、同じ社会に生きる人として受け止めるための土台になります。
差別的な社会であればあるほど、一度ホームレス状態になった人は、そこから抜け出しにくくなります。一方で、「失敗や不運は誰にでもある。でも、再チャレンジできる社会のほうがいいよね」と考える人が増えれば、社会のあり方も少しずつ変わっていきます。そうした寛容な社会の一員になってくれる人が一人でも増えてほしい。そんな思いから、販売者に協力してもらい、出張講義を行っています。(アンケートで質問、回答:オンライン編集部)
「共感の基盤」を育てる授業
ホームレス状態とは何か。依存症とは何か。仕事を失うこと、住まいを失うこと、社会との接点を失うことは、人の生活にどんな影響を与えるのか?
片田先生は、同じ社会に生きる人間として、社会に出た時の“共感”の基盤をつくり、民主的な市民、行動する市民を育てていきたいという思いから、これまでも何度もビッグイシューを招いてくださっています。
授業後のアンケートでは、多くの生徒さんが「ギャンブルはしないでおこうと思った」と回答。他にも、“共感”の基盤が芽生えているように見受けられる回答をたくさんいただきました。
- 今まで思ってたホームレスの印象からガラッと変わりました
- 固定観念がひっくり返されたように感じました
- 僕は「ホームレス」と言う言葉で偏見を抱いていたので、格差社会を知らず知らずのうちに助長させていると考えると恐ろしかった
- 選挙で投票できないと聞いて、人権がないように感じて悲しくなった
- コンビニの廃棄弁当をホームレスの人にあげることを許可する法律をなぜつくらないのか疑問に思った
- ・本主義は経済が成長するのに大切な考えですが、行き過ぎた格差社会では誰にとってもメリットがないと感じました
- ビッグイシューのメリットは、収入を得るだけではなく、目標を立てることができることでもあることを知った
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- 灘中学・高校では「道徳」や「公共」をどう教えているか~灘中学校 社会科教諭 片田孫朝日先生に聞く~(ベネッセ教育総合研究所/ビッグイシュー・オンライン編集部が取材協力)
- 「灘中生が視野を広めるためにすべきこととは何ですか?」/ビッグイシュー販売者に灘中学の3年生が質問(2022)
- 灘中生からの率直な質問「ビッグイシュー販売は、ホームレス問題の根本的解決になりえるのですか?」/灘中学校出張講義レポート(2023)
- 灘中生に「学生時代にやっておくべきこと」をギャンブル依存経験のあるビッグイシュー販売者が語る/兵庫県灘中学校出張講義レポート(2024)
- 灘中の道徳の授業「貧困と社会保障」でビッグイシューが講義。灘中生から30の質問(2025)
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学(兵庫県)への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
人の集まる場を運営されている場合はビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。
図書館年間購読制度
※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/
