孤立しがちな人の人生の物語を記録する活動「ウォーク・オブ・ライフ」

孤立しがちな人の人生の物語を記録する活動「ウォーク・オブ・ライフ」

人は二度死ぬ、と言われている。実際に息を引き取るときと、自分の名前がだれの話題にものぼらなくなったとき。社会から疎外されてきた人々の物語を聞き取り、記録するオランダのプロジェクト「ウォーク・オブ・ライフ」を紹介しよう。

Photos by Eva Meylink

そのままでは誰の記憶にも残らない--人々の物語を記録する活動

ウォーク・オブ・ライフでは4年前から、ホームレス、依存症、深刻な孤立を経験してきた人々のライフストーリーの記録に取り組んでいる。それらミニ回想録をデータベース化し、その人が死を迎えたときに共有される(公式ウェブサイトにも掲載される)。

プロジェクトリーダーのズワニン・ジーデンブルグは、アムステルダムやその他地域で、70人以上のボランティアと物語を記録する活動をしている。そもそものきっかけは、彼女が家族旅行で訪れていたオーストラリアで手に取った『ビッグイシュー・オーストラリア』誌にある。不遇な目に遭って家を失った人たちの記事が、地元アムステルダムの風俗街の歴史を彷彿とさせ、胸に刺さったのだ。

プロテスタントの牧師として、薬物依存に苦しむ路上生活者の支援活動に携わってきた彼女は、あるとき、自治体主催の葬儀を依頼された。だが、彼女を含む全員が故人のことを知らなかった。 「故人には家族も友人もおらず、ほとんど情報もない中で、何か語るべきことを考えなければなりませんでした」

AnnaStills/iStockphoto

それ以来、ジーデンブルクが率いるチームでは、地元に詳しい人物のサポートの下、数百もの物語を手遅れになる前に収集している。 「誰だって自分のことを覚えていてもらいたいもの」と彼女は言う。 「誰だって自分が人生でしてきた選択について語りたいし、自分がどんな人間で、何をしてきたのかを伝えらえる葬儀を望むのではないでしょうか」

その人の人生に起こったこと、決断、気持ち…語りたい話を聞き、記録する

自分に興味がある人なんていない、とこぼす人には、ボランティアの牧師として、「いいえ、あなたは大切な存在。あなたが経験してきたことをどうぞ話してください。あなたから多くのことを学べる人たちがいるのです」と伝えてから、語ってもらっている。

チームメンバーがホスピスや避難所に到着する。取材対象者からいつもすんなりと信頼を得られるわけではないのだが、ジョアンの場合は比較的スムーズに事が運んだ。ヘロイン依存症に悩まされてきたこと、人生の終盤を迎えていることへの自覚について語るのを、ボランティアのリダ・ランゲナッカーが書き留めていった。ジョアンは死ぬことを恐れず、死は心に安らぎを与えるものと捉えていた。

写真を撮ってもよいかとジーデンブルグが尋ねると、50代後半のトランス女性であるジョアンは写りがよくなるようちょっと手助けしてくれないかと言った。「彼女のことをよく知っているわけではありませんでしたが、10分ほど会話すると、近くに来て、ひげを剃ってくれないかと言ったのです」。ジーデンブルグは、こうしたリクエストに喜んで応える。その人の優しさや威厳を感じる瞬間でもある。末期患者が一緒に踊ってくれないかと茶目っ気を見せることもあった。 「一緒に踊っていると、雰囲気がよくなるよう照明の上にスカーフをかぶせたりして…そうした経験が私の生きがいでもあります」

神学を学んできたジーデンブルグだが、話を聞かせてくれる相手に布教したいわけではない。「私は決して宗教を使って接触することはしません。相手が語りたいことについてだけ話を聴く、それだけです」。とはいえ、その人が生涯抱えてきたトラウマについて語るのを聴くことで心揺さぶられることも多く、自分たちのケアの任務がどこからどこまでなのか——とてつもない不幸についてどう語り合えばよいのか——を定義するのは容易ではない。

「娘からはいつも、『ママはすごくオランダ人っぽい。率直にズバッと言うよね』と言われている私ですが、死期が迫っている人と話すときには、不適切な質問をしてしまわないかと恐れる気持ちもあります」とジーデンブルグは言う。 「相手をこれ以上傷つけたくありません。大切なのは、ベースとなる信頼関係をしっかり築くこと。そうすると、いろんな質問ができるし、相手も多くのことを語ってくれます」

「多くのこと」とは、教訓的な経験談、子ども時代のエピソード、本音など、ずっと疎遠にしていた友人や家族にこれまで言えてなかったことたちだ。自分の差し迫った葬式に彼らが突然姿を見せるかもしれない、と期待する気持ちもあるのかもしれない。

「身の上は残したくないが、想いは残したい」という人も

娘と連絡が取れなくなったという病身の男性は、自分の痕跡は残しておきたいが、橋の下で野宿していることは知られたくないと語った。「『優秀な学校で勉強している娘が、こんな人生を送ってきた私のことなんて誇りに思っていないでしょう。でも、私が娘を大切に思っていることは知っておいてほしい。ぜひ書き留めておいてください」。「まるで遺言のようでした」とジーデンブルグは振り返る。

社会から疎外されてきた人々が、それぞれの人生の物語に登場する家族やコミュニティに再び迎え入れられたらとジーデンブルグは望んでいる。彼らが亡くなった後、彼らが語った物語に親族から反発の声が寄せられたことも何度かあったが、そんなときは、「故人にとってはそれが真実だったのでしょう。私がその場に居合わせたわけでもないのに、“真実じゃなかった”なんて言うことはできません」と言うようにしています。そこから話が始まるのです。

人生ライブラリーから見える、他者との類似性

語りを書き留め、追悼する。ウォーク・オブ・ライフが拡大させている“人生ライブラリー”には、二つとして同じものはないが、依存症、ホームレス経験、孤独にまつわる物語には多くの共通点があることにも気付かされる。両親からの虐待、家からの追い出し、恋人に引きずり込まれた薬物の道、風俗業への関わり、最後の手段として軽犯罪に手を染めた…。それぞれの人生の物語を読んでいると、それぞれの主人公が互いに助け合うことができていればとも思わされる。「いわゆる普通の生活と路上生活の境界線は非常に際どいもの」とジーデンブルグは言う。「実際に彼らが人生を語るのを聞いてみると、自分とあまり違わないことに驚かされるかもしれません」

「Walk of Life」公式サイト(オランダ語)
https://walkoflife.nu/

By Eliza Janssen
Courtesy of The Big Issue Australia / INSP.ngo

サムネイル:Hanafujikan/iStockphoto

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