デ・フルクト教会の難民たち—オランダの難民政策とその行方(2/2)

前編を読む

オランダの難民政策

オランダでは毎年約6000人の難民申請者が拒否されており、受け入れを拒否された難民たちは、それぞれの出身国に帰還することとされている。しかし、難民たちが政治犯であることも多く、出身国から入国を拒否されることも多い。また、アムネスティ·インターナショナルは、彼らの出身国の治安が万全でないことも指摘している。

1998年には、 国外退去が困難である難民申請者に対して、母国に、個人の責任で帰還させるという方針を導入。しかしその結果は、不法滞在者、ホームレスを増加させただけだった。

そのため、オランダ政府は不法滞在者の数を減らすために、より厳格な方法を模索し始めた。
昨年2012年、政府は事実上、文書として明示されていない居住者に、入国禁止命令を導入した。
難民申請が拒否されてから、通常28日以内の国外退去を命じている。彼らは期間外にオランダで発見された場合、入国禁止命令が発行され、軽罪で起訴される。罰金130〜1200ユーロ (日本円で約16800円〜15万5000円)または最大6ヶ月まで拘留される。

オランダの新政府は、難民の存在をイリーガル(違法)ととらえている。しかし、難民が犯罪者のように扱われるべきではないという非難の声が、国民からも多数上がっている。

オランダの光と影

北欧並みの「社会福祉国家」と呼ばれ、難民や移民にも手厚い保護を行なってきたオランダは、現在、 社会福祉・医療・文化などの予算を大幅に削減。本年度のオランダ財政赤字は、3%とするEUの目標を超え、国内総生産(GDP)比3.3%、さらに2014年も3.4%となる見込みだ。
http://www.reuters.com/article/2013/02/28/dutch-economy-idUSL6N0BS41I20130228

さらに、オランダ国家統計局CBSによると、今年2月の失業率は7.7%にも達した。これは1984年以来の最も高い数値である。オランダの失業率は昨年12月に7.2%、今年1月は7.5%と上昇し続けている。
http://www.nrc.nl/nieuws/2013/03/21/werkloosheid-loopt-opnieuw-fors-op/

仮にオランダ政府が難民を受け入れると、入国者の収容に1人当たり1日200ユーロ程度の予算が必要となると試算されている。だが、母国に帰ることのできない難民たちを追い出す訳にもいかず、難民の不法滞在を容認しているというのが実態である。

前述したとおり、オランダでは毎年約6000人の難民申請者が申請拒否されており、推定10万人とも言われる不法滞在者、ホームレスが存在していると言われている。

一般のオランダ人には目につかない闇の中—パラレル・ワールドで生きている難民たち。
オランダのつくりだした「光」と「影」の世界。

「光」が強くなれば、「影」も強くなるというふうに、世の中のありとあらゆるものは、相対的関係を持って成立している。「光」にのみ関心を持ち、「影」に無関心を装えば、そのコントラストはますます強まるばかり。影の部分にも目を背けず、光を投じてきたユニークな「オランダらしさ」が失われていくのは、時間の問題だ。

「あいまいで不透明な問題などというものはない。あいまいで不透明と考えるのであれば、それを個々の課題に落とし込み、課題ごとの方策を考えていくことが肝要」 という、緒方貞子さんの言葉どおり、難民問題をあいまいで不透明のままにせず、問題に向き合うことができるならば、 ゲイやレズビアンなどのマイノリティ問題に積極的に取り組んできた、オランダらしい先駆的な解決法が編み出せるはずだ。

2013年4月5日:アムステルダムのデ・フルクト教会の敷地に植樹する難民たち photo by Manette Ingenegeren

滞在延長が認められた4月5日の夕刻、デ・フルクト教会の敷地に、教会の住人である難民の手によって、彼らの願いが込められた1本の木が植樹された。

まだ小さいながらも、天に向かって力強く伸びる枝々に生命の息吹を感じた。地中にしっかりと張り巡らせた編み目のように広がる根を想像しながら、オランダで普通の生活を営む、難民たちの未来の姿を思い浮かべた。

この小さな木がつくりだす「光」と「影」に、静かに思いを重ねあわせながら、1日も早い春の訪れを心待ちにしている。

2013年4月5日:アムステルダムのデ・フルクト教会の敷地に植樹 photo by Manette Ingenegeren

2013年4月5日:アムステルダムのデ・フルクト教会の敷地に植樹 photo by Manette Ingenegeren

2013年4月5日:アムステルダムのデ・フルクト教会の敷地に植樹 photo by Manette Ingenegeren

2013年4月5日:アムステルダムのデ・フルクト教会の敷地に植樹された木 photo by Manette Ingenegeren

タケトモコ
美術家。アムステルダム在住。現地のストリート・マガジン『Z!』誌とともに、”HOMELESSHOME PROJECT”(ホームレスホーム・プロジェクト)を企画するなど、あらゆるマイノリティ問題を軸に、衣食住をテーマにした創作活動を展開している。
ツイッター:@TTAKE_NL