10月25日(火)第25回FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品『サクラソウの人々』(制作:岡山放送)「弱者を守れ!熱血肝っ玉大家さんに密着」を受けて、2014/07/11公開の記事を一部編集の上再掲します。
<住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編 レポートpart.1を読む>
住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編 レポートpart.2
司会:続きまして、もうひとりのゲストスピーカーです。「民間借家活用の可能性」ということで、岡山で入居支援センターをされております、阪井ひとみさんにお話しして頂きたいと思います。阪井さんは今年3月に朝日新聞で3回ほど記事が掲載されました。全国的に注目されている活動家の方です。
民間借家の可能性
阪井:みなさんこんにちは。今日はこのような機会を与えて頂きまして本当にありがとうございます。私は18年ほど前に、精神障害の方をたまたま入居中にお預かりをしたというか、入居者にいたということから、少しこういった社会的弱者に目を向けることになったのがことの始まりです。
うちの事務所のすぐ近所には、○○金属というクズ鉄とか空き缶とかを集めるとても大きな会社がありました。そこへ空き缶を持ち込むために、うちの事務所の前を大きなナイロン袋に空き缶を入れたホームレスのおっちゃん、親子、おばちゃんが行き来していたんです。
そういう中、おっちゃんが脱水症状を起こしてうちの前でひっくり返っていたということがきっかけでホームレスの支援をしている岡山の野宿者支援「きずな」というところに出会うんですね。私は少しずつホームレスの方の支援のお手伝いができたらなと、思っていました。
そんな中で、私は炊き出しに参加させて頂くようになりました。みなさんから、おしかりを受けるかもしれませんが、なんで炊き出しって公園でするの?なんで外でしないといけないの?雨が降るのに、何でテントをわざわざ張って外なの?というところが私の疑問でした。これは見せ物ではないですから、どこでやってもいいのではないですか。
夏暑いのになんで外でするのか。冬寒いのにどうしてこんなテントまで立てて……私自身がよく分からないのでホームレス支援をされている方に聞きましたら、「別に外でなくても良いのかなぁ」というのが岡山の団体の方の思いと一致して。
「1万円じゃったら借りてもええぞ」
阪井:でも、「そんなに安く借りられるところあるのか」という話になったので、私は不動産屋ですから探してみようと言う話になりました。そうしていると炊き出しに来られている、おっちゃんたちが
わしはなぁ、毎月50000~60000円稼ぐんじゃ。でな、毎月30000円が食費じゃから。
あと20000円で生活できたら、わしゃ何もこげなホームレスなんぞしとーねぇ
と言われました。
「ほんならおっちゃん、家賃なんぼだったら生活できるん?」という話をしました。
そうしたところ、「まぁ10,000円かそれくらいだったらできるかなぁ。あと、水道ガス電気代があるけんなぁ」という話をされたので
「ほんならおっちゃん10000円の家賃じゃったら部屋入る?」という話をしたところ、
「おお。10,000円じゃったら借りてやってもええぞ」という話があったので
会場:(笑)
阪井:私は10,000円の部屋を探しました。岡山には、岡山大学のほかに、医学部を持つ川崎医療大学、理大、昭大いろんな大学がたくさんあるんですね。
昔は、岡大の大学生さんとかっていうのは下宿されていたんですね。その下宿屋さんで5年ぐらい空き家にされている物件があったんです。最初は「貸してください」と大家さんのところに行きました。
大家さんは「何に使うんでー」と言われたから、
「いやぁ、ホームレスの支援に使うじゃ」と言ったら
「はぁ?ホームレス」と言われて最初は断られました。
何回も断られ続けましたが、20回目ぐらいからちょっとそのおばあちゃんと仲よしになったんです。
「おばあちゃん、駄目じゃろうけど来たよ」っていうたら「もう、ほんまあんたしつけーなぁ」という話で……だいたい25、6回目くらいから私も提案を変えました。
「おばちゃん、もしかして私が一括で借りたら貸してくれる?」という話をしたら、
「うーん、そうじゃな、あんたはなんぼ収入があるん?源泉徴収票持ってこられ」と。それで見せたら、
「ちょっと少ねーなぁ」という話で……。
会場:(笑)。
阪井:「ほな、うちの会社が借りるいうたら貸してくれるかな?」って話をしたら、
「うーん、借りてくれるのなら話をしましょうかねぇ」と言った翌日にお金を持っていきました(笑)
で
「1人10000円がええんじゃわ」という話をさせてもらったら、現状でこのまま貸す。
修理は一切あなたが負担する。何があっても大家に文句は言わない。
そして家賃を私の会社が年払いするということを条件に、この物件をGetすることが出来ました。
これらの部屋は16部屋あるんですね。共同住宅共同便所となると誰も借りてくれないんですね。これ10、000円で、お風呂もちゃんとついています。これ炊き出しの風景なんですけど、炊き出しの部屋も勝手に私が作りました。「おばあちゃん、現状回復すればいいんじゃろう?」ということで(笑)
会場:(笑)
阪井:これは岡山市の本当中心街なんです。岡山市の文教地区。私はエアコンと給湯器を各部屋につけたかったんです。大家さんは「勝手につけてもいいけど原状回復よ」と言われたので「わかった」というて。
でもこのお金をどうやって捻出したらいいか私は一晩考えました。
そこで岡山に私と仲良くさせていただいている弁護士の先生を思い出しました。
「先生、弁護士会ってお金持ってねぇ?」という話をしたら、
「うーん、そうじゃなぁ」という話だったので、
「先生なんか看板出してくれん?」という話で
「岡山遺言相続センター」という立派な看板を弁護士の先生に作って頂いて、この建物に掲げる利用料を私がもらうことができました。この利用料でエアコンと給湯器の購入代をローンで組んで毎年返済をしているんです。
今日は不動産業者というか、宅建業者の方は何人かいると思うんですが、私たちはお客さんのニーズに合わせて物事を考えるんですね。だからこの建物もお客さんのニーズに合わせればいいかなと思っただけのことなんです。私は特別な事は何も考えませんでした。私はハコモノ屋なので、それ以上のことは何も考えていません。
このハコの中に魂を入れるのは支援をされる皆さんだと思っているので、ハコのことだけを私は考えています。ハコの中の人のことは申し訳ないですけれど、あんまり考えてないかもしれない。だけど、みんなの笑顔は私はいちばん欲しいなと思ってやっているところです。
今まで17、8年やってきて、いちばん思っているのは、みなさん自分で動こうとしないことが多いですね。支援をする人も、支援を受ける人も誰かがやってくれるだろうというところが、私は申し訳ないんですけど気にくわないところです。
自分の命は自分が守る。これが基本だと私は思っているんです。そのために楽しい生活を送るためには自分がそれだけのことをやればいい。それは絶対見返りがあるというふうに信じて今でもやってきています。その話はよくホームレスの方にもさせてもらいます。
草抜きで人生の勉強を
岡山のホームレス支援をしているところのシェルターで事故をおこした男の子がいました。その後、刑務所に入って出所後、その裁判の国選弁護人を担当した岡山の弁護士事務所の先生に「阪井、この子を何とかしてやってくれないか」ということでじっくり彼と3時間くらい向き合いました。彼は、今まで親御さんから汗水流して働くことも教えてもらっていない。
変な言い方なんですけど、親の背中というか、お父さんお母さんも楽なことをしてやってきた。本当に自分の力で汗水流して働いたこともない彼だったんですね。そういう中で私は今その子と向き合って家の管理物件の草抜きをしてもらっています。200坪ぐらいある畑なんですけど。そこは後見人から預かっている物件なんですね。でその土地の草を彼が抜いているんです。
草を抜くときに私は彼に言いました。「1週間経って自分が頑張ったところは草が生えていないでしょ。自分が頑張らずに簡単にやったところは1週間後にはきれいに草が生えている。これと人生は同じなんだよ」。
彼に今、人生の勉強をさせながら、生きることの勉強もしてもらっています。そうすると、彼は少しわかってくれたのか、週末になると耕運機を使って畑のうねをつくって、そこで野菜を植えているんです。
生活するための勉強をしたことがなくって、それで罪を犯したり、ホームレスになったりする人は、この子だけではないと思うんです。私は障害の有無より、汗をかくことをしてないために変な話もうこれでいいかぁという「なんちゃって人生」を送っているような子が多いのかなと、私は炊き出しに行って思うことも多いので、今はそれを何とかしたいというふうに思っています。
もう時間らしいので、私はたいしたことは言えませんけれども。やっぱり支援をする人、受ける人も、その人の立場になって物事を行う。それから他人事ではなくて自分の事と置き換えたとき、「我が子だったらどうしてやるだろう」ということをみんなが考えるようなコミュニティの時代を作らなければいけないかなと私は考えています。
きっと、ホームレスの支援もコミュニティが大切だと思っていますので「皆さん一緒に頑張りましょう」。これを今日の私の最後の言葉にさせてください。今日はどうもありがとうございました。
住宅政策提案書発表シンポジウム「市民が考える住宅政策」大阪編
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