part.1「脳研究者・池谷裕二さんに「脳のゆらぎ」について聞く」を読む


意識は飾り、インプットなしに勝手に活動する脳

コンピュータだったら、人間がメモリー保存したりして、書き替えますよね。でも、脳はインプットがなくても自分で勝手に活動する。で、活動したら自動的に書き替わる仕組みになっている。入力がなくても、常に書き替わっていて、同じ状態には絶対に戻らない。ふらふらとゆらいでいる。

 さらに興味深いのは、脳に同じ入力をしても出力が違うということだ。たとえば、あなたがある問題を解こうと集中していても、問題が解けるかどうかは、脳の〝ゆらぎ〟と関係がある。

本人にはまったくわからないのですが、簡単なテストをして、人の脳の状態を測れば、この人は〝今〟この問題に答えられるかどうかがわかるんです。具体的に言うと、誰かに、実験助手が問題を見せ、私がその人の脳の活動を見ていると、〝今〟だったら正解する、または失敗するとわかってしまう。脳の活動の状態、〝ゆらぎ〟がその人の成績を決めてしまうという感じですね。

 問題を解く時、脳のある特定の部分が働く?

課題によって違いますね。単語の問題だったら言葉に対応する領域を観察します。たとえば、顔に見えたり壺に見えたりする〝だまし絵〟に『ルビンの壺』という絵があります。誰でも、物の見え方に対応する脳の領域がよく活動している時に、この絵を見ると、必ず〝顔〟に見えるんですよ。

 自分の意思で集中しようと思っていても、それは無理?

それはできないですね。そういう考え方をされる方が多いんですけど、意識を特別扱いしすぎていると思うんです。むしろ、自分の意識とか心は飾り。それより、私たちは無意識のものすごく広い世界をもっています。無意識はけっこう賢くていろんなことがきちんとできますよ。

 意識を大事に思うのは?

はい、傲慢。人の傲慢だっていう感じですね。

勘を生む線条体、直感とひらめきは違う

 無意識というと、気になるのが直感だ。カン(勘)が鋭いとか、第六感が働くとか、それも脳の〝ゆらぎ〟と関係があるのだろうか?

そのものではないでしょうか。意識としてのぼること、意識にのぼらないことももちろん、脳がその環境の中で培ってきたものです。神からの啓示というようなものではなく、カンはすべて、その人の無意識の経験が生んだもの。カンを生む場所は線条体で、そこは直感を生む場所であるけれども、普段はもっと重要なことをやっています。方法を記憶する場所なんですね。

 線条体は、ピアノの弾き方、自転車の乗り方、コップの持ち方というような、手続き記憶を担っている。

「コップを持つのは無意識ですが、実際にコップを持つためには、何十という腕や指の筋肉が、しかるべき時に動いている。『おっ、このタイミングで上腕二頭筋を3ミリ弛緩させて』とか、脳が膨大な量の計算を正確にやらなければ、コップはつかめない。その計算をやっているのが線条体なんです。その計算過程を本人はわからないけれど、実際にコップはつかめている。で、直感はまさにそれと同じで、なぜだかわからないけれど答えだけわかるんです」

 さらに池谷さんは、補足する。

直感とひらめきってまったく違うんですよ。ふと思いつくというところまでは一緒です。でも、ひらめきは思いついた後に、『これこれ、こうなってる。だからこうなんだ』とその理由がよくわかるものなのです。

 そこで、池谷さんは2つの問いを紙に書いた。

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数字の列のほうは、答えとその理由(倍数)がわかりますね。これは、ひらめきで解いている。大脳皮質が働いているので、その理由がわかるんです

 次に、2つの図形。問いは、「この図形に名前をつけるとして、その名前が『ブーバ』と『キキ』だとしたら、『ブーバ』はどちら?」

この問いには、ほとんどの人が正解します。でも、その理由はいかがですか? 答えられないでしょう。自覚できる理由はないんですよ。そして、これがカンとか第六感とみんなが呼ぶもので、線条体などが働いているんです。
無意識ですが、答えだけがわかる。でも脳はしっかりと計算していて、しかも計算が正確なのでミスはしない。でも一番重要なのは、コップをつかむ時もそうだけど、実は『直感は、訓練によってでしか身につかない』ということなんです。訓練によってつかめるようになった後は、自分ではなぜつかめるのか、わからない。直感は生後の訓練によって身についたものなんです。

part3「直感は歳をとればとるほど、経験を積めば積むほど、正確になる」を読む






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