米国シアトルのストリートペーパー(ホームレスの人々が販売する路上販売の雑誌)「スペア・チェンジ」から、アマンダ・パーマーのインタビューが届きました。日本語版は、ビッグイシュー・オンラインの独占配信となります。どうぞお楽しみください。
たとえ1000人に1人でも立ち止まってくれる人、それがあなたの観客:パンクミュージシャン、アマンダ・パーマー
レコード制作のために120万ドルもの資金を集めたアマンダ・パーマーは、クラウドファンディングの申し子と呼ばれる。ツイッターで交流したファンの家を泊まり歩く、自分の裸体にペインティングさせるなど、ファンとの間にいっさい壁をつくらない彼女の生き様は、賞賛と非難の両方の嵐を浴びてきた。
ストリートペーパー『スペア・チェンジ』の取材に応えて、ボストンでの路上パフォーマー時代に培った彼女の哲学や、ストリートペーパー販売者に対する思いを聞かせてくれた。
(Laura Kelly/INSP, (c)street-papers.org)
[photo by Natasha Moustache]
TEDの視聴回数1000万回、ツイッターのフォロワー100万人
音楽業界がいよいよ本気を出し、現在の行き詰まりを打開して、苦難を伴うデジタル界での転生を果たした時、未来の教科書でアマンダ・パーマーをテーマにした章が設けられることは間違いない。
アマンダは、パンクユニット「ドレスデン・ドールズ」の元ボーカル&キーボードとして、貪欲なまでに感情に訴える「ブレヒト的パンク演劇キャバレー」の世界をつくりあげた。バンド、その後のソロの10年以上にわたる活動を、熱狂的でマニアックなファンに支えられてきた。
しかし、彼女が世界中の強い関心を集めた理由は、これまでの誰をもしのぐ規模で、ファンや仲間たちの力を実際のプロジェクトに変換させる方法を編み出したことにある。
アマンダが2012年に「これが音楽の未来だ」と宣言し、自身のアルバム『Theatre is Evil』のためにKickstarterを通じて120万ドル(約13億円)もの資金を集めた時、「ファンや仲間たち」を超えた世界中の人々が強い関心を示した。
クラウドファンディング、TED(彼女の講演の視聴回数は約1000万回を数える)、ツイッター(フォロワーは100万人を超える)、そしてフェミニズムの申し子となったアマンダは、一方で、非難にさらされ、インターネット上で最も嫌われている人物のひとりともなっている。
大切なのは、「いかに音楽の対価を引き出すか」ではなく、「いかに好きな音楽にお金を投じられるようにしてあげるか」だと説く。
アマンダは今、自身の音楽をベースにした『The Bed Show』というミュージカルを制作中だ。ボストンで化学療法を受けていた友人を見舞ったあと、上演準備のためニューヨーク北部に向かって走る車の中で、自身の哲学や非難に対する鈍感さは、ボストンでのストリートパフォーマー時代の賜物だと語る。
ハーバード・スクエアで「2メートル半の花嫁」という生きた銅像に扮して生計を立てていた時、彼女は「大道芸人やストリートペーパー販売者、新聞売り、ホームレス」から成る「ストリート・エコシステム(路上の生態系)」の一部を成していた。
いつも傍らにいたストリートペーパーの販売者
その中でも傑出していたのが、地元のストリートペーパー販売者だ。
「その人のことが大好きだったわ」と彼女は言う。「ハーバード・スクエアでスペア・チェンジ紙を20年売り続けてきた人で、しかも売り方が芝居がかっているのよ。私が銅像に扮してそこに立っている間、よく一緒にいてくれたわ」
「私が20代だったころ、人生の中でとっても大きなウェイトを占めていたその場所で、彼は風景に溶け込んでいた。そのとき路上にいた私たちはみんな、ちょっと違う世界(大気圏の中)に生きていた感じね。
私は人生の中でもあの時代が大好きで大好きで、自分が実際に街を構成している構造の一部だったと感じているほど。私たちはみんなでお互いに面倒をみあってたわ」
「音楽コミュニティについてや、ああいうエコシステムを築いてその一部となって維持することでどんなことが可能になるのかといったことについて、本当の意味で自分なりの哲学を確立するに至ったのも、ひとつにはあの時代があったから」
[photo by Pixie Vision]
非難されることは怖い。でも、だからこそ、この本を書いた
未来の研究者にとって幸いなことに、アマンダはこの1年間、世間から引きこもり、自分の世界観を改めて見直し、『The Art of Asking』という本を書き上げた。
体験記でもあり指導書でもある同書は、アマンダがストリートパフォーマーからデジタル界の草分けとなった経緯とともに、助けを求めることが、なぜ「親密さと信頼による行為」となり得るのかを説明する。
まさしく、深夜に友人とできの悪い赤ワインを飲みながら、世の中をよくする方法について夢中になって語り合っているような気持ちにさせる本である。とはいえ、ドレスデンドールが初めてイギリスでパフォーマンスをしたときにその場にいた私はあくまでも彼女の味方だ。
批評家らの反応が心配ではないのか。「ええ、ビクビクしているわよ」と、彼女は認める。「書き上げた本についてはものすごく誇りに感じているわ。でも、かなりつらい個人的なこともたくさん書いたから。特に、昔さんざん議論の的になったトラウマを振り返って、また掘り起こしてあれこれ書いてるし」
「この本を世に出すことができても、ビリビリに破かれるか誤解されるか、もしくは、私がいかに現実の世界を理解していないひどいナルシストであるかを示す例のリストに加えられるだけかもしれないと考えるだけで、ものすごい恐怖よ。でも、だからこそ、この本を書かなければならなかったの」
[photo by David Aquilina]
私も夫も、常に旅に出ている。お互いの芸術にとって、これほど力強い味方はいない
アマンダは、自身の人生を楽にすることを拒む。彼女は威勢のいいことを言い、体制に反抗し、いつでも猛然と討論に加わっていく。
ここで私は、ボストンマラソン爆弾テロ事件のジョハル・ツァルナエフ容疑者のために彼女が書いた同情的な詩を思い出した。彼女への批判のほとんどは、性差別主義者がもつ「女性がどう振舞うべきか」というイメージに彼女がそぐわないことに根ざしている。
信じないなら、彼女の夫であるニール・ゲイマン(英国出身のSF・ファンタジー家。『コララインとボタンの魔女』、『アメリカン・ゴッズ』、『スターダスト』などベストセラー多数。『もののけ姫』の英語吹き替え版の脚本も担当)が、アマンダとどれだけ違う扱いを受けているかを比べてみるだけでいい。(彼に対する殺害の脅迫の数ははるかに少ない)
アマンダが本の出版ができたのはニールのおかげであるとか、実はニールが代筆をしているといったうわさが流れたのは予想どおりだったが、それでも嫌な気持ちにさせる。
アマンダいわく、ニールからの意見をもらったのは、二人の関係と彼らがどのようにしてギーク(おたく)界のセレブカップルになったのかという部分をどう物語るかということのみだそうだ。
「私たち夫婦は変わってるの」と、アマンダは説明する。
「常に働いていて、常に旅に出ている。良い時もあれば悪い時もあって、夫婦間のトラブルもあるわ。でも、それが仕事のことなると徹底的にサポートしあう。たとえば空港からどちらかが誰かを出迎えるべきだったかなかったかといったことを公の場で口論していたとしても、お互いのアーティストとしての選択を支持し、理解し、擁護するとなると、これほどお互いにとって力強い味方はいない」
アマンダとニールは別々に旅することがあまりにも多いため、二人はツイッターをコミュニケーションに使うこともある。そして、多くのファンが、おとぎ話の幸せな結末の続きを見るかのように、二人のやり取りをフォローしている。「私たちの関係を美化している人たちに、改めて知っておいてもらいたいのは、一つだけ。みなさん、私たちはツイッター以外でもたくさん会話があるのよ!」と、アマンダは笑う。
ストリート時代の教訓に、何度でも立ち返る
世間の激しい愛情と非難の荒波をうまく渡っていくために、アマンダはボストンの路上で得た教訓に、何度でも立ち返ることにしている。
体を白く塗り、古着のウェディングドレスに身を包んで路上に立ったパフォーマー時代だ。
駆け出しのミュージシャンやアーティストも、レコード会社のお偉方やU2のボノも研究しているという“音楽の未来”に対する彼女の戦略は、当時のスペア・チェンジ販売者の戦術と同じだとアマンダは話す。
そして現在のストリートペーパーの販売者や大道芸人、そしてインターネット上でクラウドファンディングによって資金調達しようとしているすべての人たちに対するアドバイスも、まったく同じ。
「近くを通りかかってもあなたを無視するような人たち、つまり、あなたに対してひとかけらの関心も抱いていないような人たちは、相手にしないこと。目を向けるべきは、実際に関わってもらえそうな、ほんのひと握りの人たちよ。」
「通りすがりの99%の人間との、苦痛を感じるようなやり取りに流されないで。あなたと関わりのある人、立ち止まってくれる人、会話をする気のある人に集中すれば、冷静に行動できるわ。」
「最終的に自らに問うべきは、誰が味方なのかということよ。もしそれが1000人に1人なら、その1000人に1人の人があなたの観客。そういう人をとことん大切にすること」
(Laura Kelly/INSP, (c)street-papers.org)
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊450円の雑誌を売ると半分以上の230円が彼らの収入となります。