建物だけでエコを考えても、限界がある。建物の外へもエコ意識が共振する「エコアパート」の仕組み

Part1「「畑つきアパート」が提案するエコ意識とコミュニティ:平田裕之さんが語る「エコアパート」という試み」を読む

建物の外へ、エコ意識が広がり「共振」する仕組み

しかし、平田さんはこうも話す。

「建物だけでエコを考えても、限界があります。私がさらに提案したいのは、もっと建物の外へもエコ意識が広がっていく仕組みです」

アパートに畑がついているのは、そのためだ。しかも、畑と台所は玄関の土間を通してつながっている。台所から、畑の野菜の生育状況が一目でわかり、それを見て献立も考えられる。農作業と食、相互の充実がエコ意識を身近なところから外へ広げさせる。

「庭で育てたキュウリやナス、パプリカなどの採りたてを食べ、そのおいしさを知ると旬がわかります。蝶がきて、虫が出る。そうすると、自然に対して実感をもって接することができるようになるんです」

畑で土をいじりながら、自然を感じる生活。建物にそういった仕掛けを組み込んでおくことで、住む人のライフスタイルが変化していくと、平田さんは考えた。

また、畑と台所が連動することで、食物の循環が生まれる。1年中温暖な東京では、冬でも小松菜などを栽培できる。野菜くずを土に埋めて、肥料にすることもできる。畑の土は雨水を蓄え、都市の気温を下げるという効用もある。

さらに、自身のブログを通じ、畑仕事に関心がある人を募集し、エコアパートの畑でワークショップを開催。実際に一緒に庭をつくるなどして、自然に親しむ楽しさを人々に広げる活動をここを起点に行った。

平田さんがこのアパートで重要視するもうひとつのテーマは、アパートを中心とした地域のコミュニティづくりだ。

まず、住民同士が近い関係になれるように、畑の作物の成長や畑仕事をする互いの姿が見えるような位置に畑を配置した。すると、育てている作物の話から自然に会話が生まれるようになった。また、住民共有の畑もつくり、バジルなどのハーブやカキ、レモンなどを栽培。草刈りや収穫を通じて住民同士のコミュニケーションが深まるような工夫もした。

さらに、大量に採れるゴーヤやブドウの収穫時期には、地域の人にもそれらを配って歩く。そんなことから、近隣も含めた畑をめぐる人間関係が生まれているという。

「昔、下町の長屋とかで見られた、『おせっかいだけど温かいコミュニケーション』が理想なんです」平田さんは「共振」という言葉で、畑つきエコアパートがもつ効果の広がりを、期待を込めて語る。

<part3「エコアパートは持続可能な暮らしのモデルケース」を読む>

THE BIG ISSUE JAPAN107号2008-11-15 発売より