Genpatsu

(2016年10月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 296号より)


中・韓・露・日をつなぐ風力発電の送電網計画、日本政府のみ消極的

自然エネルギー財団が設立5周年の記念シンポジウムを開催した。米国、カナダ、中国、ロシア、韓国などの国々からパネラーたちが参加し、参加者も1000人を超える超豪華な催しとなった。同財団は自然エネルギーを基盤とする社会の構築を目的に設立され、提言活動やビジネスモデルの研究、それらの情報提供などを行っている。設立者の孫正義氏は、設立の契機は福島原発事故で、事故の悲惨さを二度と繰り返さないために原発に代わる自然エネルギーの促進を決意したという。 


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財団の最近の取り組みは、モンゴルの砂漠に大風力発電地帯をつくり、中国、韓国、ロシア、日本を送電網でつなげるものだ。それぞれの国からも実現に向けたスケールの大きな抱負が語られた。3国の政府は積極的だが日本政府は極めて消極的だ。パネリストの一人、黒川清氏は福島原発事故後に設置された国会事故調査委員会の委員長としての体験から、こうした消極性の背景に組織内思考の弊害があると分析。たとえば、東芝に入社した人間は日立に転社しないし、経産省に入省した人間が文部科学省に移籍しないと、硬直した日本の組織構造を指摘した。


基調講演を行ったエイモリー・ロビンスは世界の自然エネルギーの思想的リーダーであり実践者でもある。彼は日本の電力需要がこの5年間で12%減少し、自然エネルギーが15%に増加した(水力を含む)こと、これは2010年の原発の発電量の56%に当たると指摘。米国の事例として、GDPあたりのエネルギー消費は2050年までには80%以上削減できるだろうと予想した。また、自然エネルギーのコストは化石燃料や原子力より下がり、投資額も火力や原子力分野への投資を遥かに凌いでいる。この結果、自然エネルギーの導入は急速に伸びていて、電力系統を連携することによって天候に応じた変動にも対応できるようになった。100%自然エネルギーで電力需要をまかなうことが可能となっていると具体的な事例を通して分析した。

日本の太陽光発電 世界第3位の伸び

観光地として親しみのあるハワイ州のエネルギー局長が、2030年までに同州の電力需要の40%を自然エネルギーでまかなう積極的な計画を語った。すでに23%に増えており、計画達成は確実と言えよう。日本からは、自然エネルギー協議会代表の飯泉嘉門徳島県知事、また指定都市自然エネルギー協議会代表の門川大作京都市長らが、それぞれ促進への多様な取り組み事例を報告した。 今や世界レベルでは、自然エネルギーの発電量は原発の2倍以上に達している。日本でも太陽光発電の導入は急激に伸び、世界第3位の伸び率を示し、設備容量として3200万キロワットに達している。世界で自然エネルギーがすばらしい急成長を示すものの、日本ではまだ発電電力量の5%程度だ(水力を除く)。ドイツの27%に比べればかなり少ない。

いっそうの伸びが求められるのに、風力発電も太陽光発電もここにきて導入が足踏みしている。既存の電力会社が自然エネルギーの購入を拒否しているからだ。優先的に購入することは法律(再生可能エネルギー特別措置法)に書かれているが、電力会社は経営を成り立たせるために、自社のすべての原発が再稼働することを前提に、購入余力がないと主張しているのだ。 現在、42基ある原発のうち運転中は3基のみ。その内の川内原発2基に対して、7月に当選した三反園訓鹿児島県知事が運転停止を九州電力に強く求めている。県民が原発推進に待ったをかけたのだ。熊本地震が知事の決意をいっそう強めている。

この5年、私たちは原発がなくても電力不足にならずに生活ができることを体験する一方で、いったん事故が起きれば事故の後始末もできず、長期化する避難や支援の打ち切り、健康悪化など悲惨な結果を招くことも体験した。原発への抵抗はますます強まるだろう。政府や電力会社の抵抗を乗り越えて、自然エネルギーを拡大させていきたい。

伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)







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