昨今話題に上がることが多くなった「子どもの貧困」。
なぜそのような状況が起こるのでしょうか?
子どもは子どもだけで生きておらず、一生子どものままではいません。

子どもの貧困問題解決には、その先に繋がる「大人の貧困」について知り、一緒に考える必要があると考え、このようなイベントを開催しました。
路上生活をしている方の自立を応援し続けてきた”ビッグイシュー”と、2年間の教員経験を通じて「教室から社会を変える」の実現を目指す “Teach for Japan”の話を通じて、一緒に考えてみました。


【日時】
 2017年3月22日(水) 19:00-22:00
【場所】
 まなび創生ラボ
【主催】
 有限会社ビッグイシュージャパン
 認定NPO法人ビッグイシュー基金
 認定NPO法人Teach For Japan
【協力】
 まなび創生ラボ(株式会社クリックネット)

まずは約30人の参加者がグループに分かれて自己紹介タイム。

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それぞれ、お名前とお仕事(活動内容)と何に興味があってきたのかをそれぞれでシェアしました。教育に興味のある人もいれば、ホームレス問題に興味のある人もおり、早速わいわいと情報交換が始まりました。

そして、Teach for Japan5期フェロー(プログラムを通じて教師になる)小林氏が、各グループに対して「子どもの貧困の原因には、どういうものがあるか考えてみてください」とお題を出しました。

各人がポストイットに思いついたことを記入していき、それを各グループでシェア・グループ化していきます。

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出てきた意見としては「親の離婚、シングルマザー」「親の育児放棄」
「外国籍の子ども」
「大人の無関心」「社会からの無関心」
「親の失業(倒産、リストラ)」「親の貧困・ワーキングプア」
など、参加者それぞれの関心から様々な原因が挙げられていきます。

最初のグループワークを終えたところで、小林氏がTeach For Japanの活動の紹介と、子どもが置かれた状況について説明をしました。

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Teach For Japan 小林氏:
Teach For Japanは、世界40か国以上で展開される「Teach For All」のグローバルネットワークに加盟ししながら、学校、教育の格差をなくす活動をしています。

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海外では学校の格差が広がっており、学校に拳銃持って来る子がいるところもあれば、ハーバードへの進学実績がバンバンあるところもあるような状態です。
そこへ、優秀な学生たちを2年間、学校に派遣し社会人にまた戻ってきてもらうという仕組みを取り入れることで、社会全体でよりよくなっていくということを理想に掲げています。

「Teach For America」は、2010年度には全米文系学生就職先人気ランキングで1位を獲得しました。

そして、Teach For Japanの場合は、文科省や地方自治体と連携し、学生だけではなく社会人も学校へ派遣しています。

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子どもたちに何か一つでもきっかけをつくって社会全体へ影響していけばと思っています。何かきっかけがあることで予測される未来と違うんじゃないかと。

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ここで、「相対的貧困」についてお話します。

貧困というと、食べるのにも困る「絶対的貧困」を思い浮かべそうですが、平均とどのくらいかけ離れているかというギャップを見るという意味で「相対的貧困」という考え方があります。 日本は貧困ギャップが大きいんです。ちょっと平均より下じゃなくて、本当に苦しんでいる子も多いのです。

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「必需品を2つ以上欠いている状態」も日本はけっこう高い。

(※)参考文献



それがさらに人的資本投資の少なさへとつながり、貧困の連鎖・次世代への貧困へとつながる状況になってしまっています。
大人の貧困が、次の世代の貧困につながっているのです。
ここで、ビッグイシューにバトンタッチしますね。

2017/04/12 ビッグイシューオンライン編集部より
当日使用したスライドにおいて、誤解を招く表現があったため一部削除のうえ、参考文献(※)を記載させていただきました。


――
ビッグイシュー基金の中原にマイクが渡され、ビッグイシューの事業の仕組みや雑誌の内容の紹介、そして雑誌「ビッグイシュー日本」を発行・販売しているのが有限会社ビッグイシューで、ホームレス状態の方への生活支援や政策提案をしているのがNPO法人ビッグイシュー基金である旨を説明させていただきました。

そして「ホームレス」について詳しく解説をしました。

――
ビッグシュー基金 中原:

人はなぜホームレス状態になり、そしてなぜ抜け出せないのでしょうか?

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これは、大阪を中心に支援活動をされている生田武志さんのご説明から引用したもので、ホームレスになるまでの段階を示した、カフカの階段と呼ばれるものです。

もとの仕事もある状態から、すぐに路上に出てしまうのではなく、ひとつひとつ階段を落ちるようにホームレス状態になってしまうのではないかということです。

たとえばですが、最初は会社をクビになる、倒産し、働けなくなる→家族との関係がなくなる→おうちがなくなる(家賃が払えなくなる)→ホームレス状態になってしまう、という具合です。

「階段から落ちやすい人」も存在します。低賃金、家族とのつながりがない、雇用期間が終われば仕事がなくなる不安定就労…などの状態にある方です。

「ホームレスは働けばいいのに」という意見をもらうこともあるのですが、ホームレス状態から元の状態に戻るには、ものすごい段差の階段を一気にのぼらなくてはなりません。

たとえば、たとえ就職しても給料日までの生活ができない。
そもそも住所がないとハローワークが利用できない。
保証人がいないとアパートには入れない。
資格や技術がないと低賃金の仕事しかない…。

特に大きな壁だと考えられるのは「自信と信頼の喪失」です。ひとつずつ階段を落ちていく過程で、自分の力ではどうにもならなかったり、周りに助けを求めても助けてもらえなかったりという経験を積み重ねて、自分への自信と社会への信頼を失っていくのです。

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人によって事情はいろいろですが、ホームレス状態になったとき、これだけの壁があるということは、本人の努力だけで元に戻るのはたいへん難しいのです。

以前、ビッグイシュー基金で「若者ホームレス白書」という冊子を作りました。
このなかで40歳未満の若者ホームレス50人にヒアリングをしたことを抜粋してご紹介しますね。

まず、若者のホームレスって、見たことがないのだけれど…と思われるかもしれません。

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これは、ヒアリングの結果、野宿だけでなくネットカフェや終夜営業の店舗などで仮眠を取っている若者が多いということ、そして、食べるものを削ってでも他の人と同じ格好を維持しようとしていること、炊き出しに行くとホームレスのように見られるから嫌だ、などの傾向があるため、一見してもわからないということから来ています。

FAQ2



次に、ホームレスになるくらいなら、実家に帰ればよいのでは?という疑問もよく出てきます。

FAQ4


主な養育者を見ると、両親がいた人は約半分。また、家族の縁が薄いというのも特徴で、家族との折り合いが悪い、家族がみんな貧困なので帰ると迷惑をかけてしまう…といった理由もあります。児童養護施設の出身者も割合的に高く50人中6人、これはヒアリングをした人たちの中の11%です。親戚に育てられた人も50人中3人(6%)います。

FAQ5


また、学歴が相対的に低く、自立を求められる社会人スタート時にすでに不利な状況にあるともいえます。


FAQ6

FAQ7


次に、「なぜ働かないのか?」という点について。


FAQ8



彼らはもともと働いていないわけではなく、正社員経験がある人も多いです。
ただし、この表からはわかりませんが、話を聞くとその多くが地方出身の人たちで、正社員といっても賃金がとても低く、実家を出て自立できるような金額ではない。しかも、自分の上司を見ても不況の中で待遇は悪くなる一方で、とても自分の将来像として希望を持てるようなものではないという状況があった。そんな中で「月収最低25万円」といった派遣会社の求人広告を見て故郷を離れて働きに出てきた、という人が多い。
だから、転職回数も多いのが特徴です。


FAQ9


どういう仕事をしてきたのかというと、製造業や警備などの派遣で働いたという人が多いです。

「転職」といってもキャリアアップしていくというよりは、派遣で働いていて、期間が切れて次…というケースを繰り返す方が多いようです。
また、この調査をしたのはリーマンショックの前後ですが、最初は「週5日、月収25万円」などといわれて就業したものの、生産調整などで週の勤務が4日になり、3日になり気づいたら月に数日しか働けず、寮費が払えなくなった、といったお話も聞きました。


FAQ10


正社員で働いていたけれどクビや会社の倒産になり…という話もありました。その後、派遣仕事になり、日雇い仕事が増え、になり飯場(※)で働くようになりました…というように、働く環境や条件がだんだんと劣化していくことが多いのです。

※飯場:地方の建設現場などでご飯つきの宿泊所がある現場なので「飯場」という。仕事がない日は収入はないが宿泊費はかかるため、滞在している間に収支がマイナスになる、もしくはそのように仕向けるような悪質な場所もある。

FAQ11

FAQ12


路上生活になるまでが階段であるならば、ひとっとびは無理にしても、階段を少しずつ登っていけるような状態があればいいのでは?と考えています。

例えば、最初は使える福祉の情報知ることができる…生活保護はこんな状態でも受けられるよとか、路上にいても救急車は呼べるよとか。

そして、制度としては、住宅費用の補助を増加してはどうかとか、新たな仕事に就くための技術が習得できる訓練やその間の生活支援を設ける、就職が決まった人には給料日まで期間が長いので最初の月の生活費を援助するなどが考えられます。


今日はぜひ、アクションプランということでみなさんもこの階段を増やすために何ができるかを考えてもらえたらと思っています。

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―――
ここで再びワークの時間。
それぞれの関心やスキル、立場に応じて「自分ができること」を考えていました。

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「落ちてからではいけない」「根本は教育と共育」といったプラン。

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落ちてしまった人のためには、情報がいきわたるための方法や、住まいの問題として空き家、シェアハウス、レンタルスペースなどのアイデア…。

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びっちりと1~10まで自分のアクションプランを立てる人もいらっしゃいました。

ワークを終えて、それぞれのグループでシェアした後、周りのグループでどんな意見が出てきていたかもぐるっと見て回り、それぞれの立場から出てきたアイデアが、刺激になっていたようです。

――
次に、ビッグイシュー販売者を始めて半年ほどのKさんと、東京事務所長の佐野未来が参加者の皆さんに掛け合いの形でお話しました。

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Q:ビッグイシューを売る前は何をされていましたか?

A:もともとは大阪で働いていました。そこでの仕事がなくなって東京に。
いわゆる「孫請け」での派遣だったのですが、2年、3年でいろいろ仕事を任せられるようになったんです。その時はやりがいもあり楽しかったんですが、親会社と子会社でそれぞれ違うことを求められ、どちらのいう事を聞かないといけないのか…親会社のいうこと聞くと子会社が怒る…という2つの会社のプライドの板挟み耐えられなくて辞めてしまいました。

Q:仕事を辞めた後はどのような経緯でホームレスに?

A:そのあともいろいろな仕事をしました。
借金を作ったり、生活保護も受けたりしてたのですが、新しいところに行くと人間関係をイチから作るのがしんどくて…。
仕事を探すにも経験がないしやれることは限られていくわけです。
自立支援のにもいました。最長で6か月いることができるので、仕事が決まるとお金を貯めるように指導されました。
でも、たばこやお酒もだめ、夜も門限があるなど、制限が多すぎるように感じ、家を借りようと貯めていたお金があっても、外に出てしまうとストレスの反動で発散してしまう…そして家を借りられずホームレスに戻る…というような状態でした。
団体行動や制限を押し付けられることが苦手なので、また施設に入れたらどうしますかと聞かれたら遠慮します。
(※施設は相部屋なので、コミュニケーションが苦手だったり、精神疾患があったりという場合はうまく機能しないケースがあります。とはいえ、この施設があることで助かった人たちもたくさんいらっしゃいます。)

Q:頼れるご家族はいないのですか?

A:父と兄がいます。
困ってからすぐに連絡を取ればよかったんでしょうが、いったん自分で東京に出てきてしまったので、連絡は取ってないんです。

Q:ビッグイシューはどのくらい売れますか?(参加者)

A:(佐野未来)東京事務所販売者ひとりの平均が1号あたり200冊くらいです。 月2回発売なので、1か月400冊が一応サポートの目標としておいています(=180円なので72000円)

Q:ビッグイシューはホームレスの方のみが売れる、ということにしないで大学生など一般の方も売れるようにするのはどうか?子ども食堂の「誰でも参加していいですよ」、みたいな状態は?

A(佐野未来):販売地域でやってしまうと、本来支援したいはずの販売者さんがシェアを奪われてしまうということがありますが、販売エリア外で販売量が増えるのは確かにありだとは思いますね。
(ここで質問者の方から「売っていいなら僕が売ります!大学生がそういう立場になったらすごく変わると思うし」と心強い提言をいただきました)
A:(佐野未来)ビッグイシューでは、「道端留学」というプログラムで販売者さんと一緒にビッグイシューを売ってみる、というプログラムもあります。 大学の授業や企業の研修などで実施していますので、興味があれば大学や企業などの団体でお申し込みください。

   その後も、女性のホームレス問題や、生活保護受給の話など、様々な質問や意見が出てきてあっという間に3時間が経ち、会は終了となりました。
それぞれの心に、子どもの貧困、大人のホームレス問題に対する「自分の宿題」「自分ができること」を見つけた会となったようです。


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▼若者ホームレス白書
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ビッグイシュー基金で発行しています。PDF版は無料で公開しています。
http://www.bigissue.or.jp/activity/info_12041501.html








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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。