子どもの数は減っているものの、働く母親の増加により、保育園に入園する子どもの数は2005年の199万人から、16年には245万人となり、10年で45万人増えている。
おのずと都心部を中心に保育園に入れない「待機児童」が増えて、多くの共働きの子育て家庭は保育園を「選ぶ」立場にはないのが現状だ。
最近の都市部に住む人の「保活」(子どもを保育園に入れるための活動)はだいたいこのような流れではないだろうか。
1) 近隣の通える範囲の保育園をリストアップ、保育内容や保育料金などを調べる世間で待機児童問題が騒がれていても、これまでしっかり働いてきた自分にはまさか関係がないのでは、と最初は半ば楽観的に考えている人も多いかもしれない。
2) 見学した保育園の評判を調べ、優先順位をつける
3) リストアップした保育園に見学の予約を取る(この時点で予約がとりづらい)
4) 自治体の保育園入園を扱う課と相談(適宜)
5) 希望順に保育園をリストアップし、保育園申込み
6) 自治体から入園希望者の利用調整の結果が来る
1)の頃にはまだ「子どもはのびのび過ごしてほしい」というほのかな理想を持っていても、 3)のあたりで「もしもダメだったら…」と嫌な予感がし始める。結果、希望する園には入れることはまれで、「希望順位の低い園」に内定すれば良いほう、多くの人が「不承諾通知」を手にすることになる。(その数、2万人以上)
「不承諾通知」を手にした人は焦る。子どもを預けられないことは、働けなくなることを意味するからだ。そこで「希望の園」「理想の園」などと贅沢は言うのはやめて、「どこでもいいからとりあえず預かってほしい…」という心理になってくる。
そうなると、一部屋にギュウギュウに子どもたちが詰め込まれる状態や多少劣悪な環境であっても「入れるだけマシ」というふうに考えるようになる人も少なくない。
働きたい人、働かなければならない人たちにとって、街中のこういった保育所が最後の拠りどころとなっているのだが、やはり「理想の保育」について忘れないでいたいし、社会全体で考えるという視点を持っていたい。
ビッグイシュー日本版317号特集「いま遊べ!―子育ての未来」では、東京都市大学客員教授でジャーナリストの猪熊弘子さんに保育の今と未来について語ってもらった。
「保育園は子どもたちが朝から晩まで思いっきり遊べる場所。本来は”子どもの権利”としての保育を考えるべき」
子ども一人の床面積も、今では自治体によりまちまちで、0歳児がハイハイできる場所の基準は国の最低基準では一人あたり3.3㎡だが、東京都認証保育所で2.5㎡。世田谷区や杉並区の認可保育所では5㎡とばらつきがあるなど、”子どもの権利”としての視点で猪熊さんが現状を解説してくれている。保育園を「女性の就労支援のため」と捉えている限りは、「現状を少しでもマシにするには、現状が精いっぱい」と現状を受け入れるしかない気持ちになりそうだが、そうはいっても「子どもにとって必要な保育をするための場所」かどうかという視点を忘れてはいけないと思わせてくれるインタビューとなっている。
猪熊 弘子 1965年、横浜市生まれ。ジャーナリスト、東京都市大学客員教授。 All About「子育て」ガイド。就学前の子どもの福祉や教育、女性や家族の問題を中心に取材・執筆。特に保育制度・政策、保育施設での事故に詳しい。 著書に「死を招いた保育」、共著に「保育園を呼ぶ声が聞こえる」など多数。 |
また、317号では、「うらら保育園」(東京)と「川和保育園」(横浜)という、「子どもの仕事は『遊ぶこと』」を体現した保育園を取材している。
担任ごとに疑似家族!?長男・次男・三男、長女・次女・三女・・・兄ちゃん、姉ちゃんが遊び伝える「うらら保育園」
うらら保育園は、木と紙と畳が昔懐かしい、とにかく居心地がいい場所だ。園のコンセプトは「大所帯。子だくさんの長屋暮らし」だという。“家族”のなかではお兄ちゃん、お姉ちゃんが下の子に遊びを伝えたり、絵本を読んであげたりすることで、わざわざ大人が教えなくてもいろんなことができるようになるという。
食事の時間はちゃぶ台で、3歳以上の子供たちは自分でご飯を盛り付けていく。
記事を読んでいるだけで、自分自身もこの場所で家族と暮らしたいと思ってしまうような保育園だ。 誌面ではここで20年間、保育に関わってきた齊藤真弓さん(うらら保育園園長)に、その保育の真髄を語ってもらっているので、園での様々な写真とあわせてぜひご覧いただきたい。
うらら ほいくえん 「社会福祉法人清遊の家」が運営。1978年、「太陽の子保育室」設立。 87年に認可。「葛飾太陽の子保育所」となり98年「うらら保育園」と改称、今に至る。 保育時間:午前7時から午後8時まで(延長保育含む)。乳児保育 (産休明け)・延長保育・障害児保育・緊急一時保育・育児相談・トイライブラリー・ビデオライブラリー・絵本ライブラリー・保育所生活体験事業・子育てひろば事業などを行っている。 〒124-0025 東京都葛飾区西新小岩 電話:03-3696-2637 うらら保育園の設計をした設計事務所の本「11の子どもの家」 |
このジャングルが保育園?説明会で「遊びの中で、骨折までは許してください」と伝える。 保護者たちとともに一緒に園を作っていく「川和保育園」
ふたつ目に紹介するのは横浜の「川和保育園」。夏になると保護者と保育士が50~60人がかりで地面を掘り、豊富な地下水で「じゃぶじゃぶ池」をつくる。園庭で一日の9割以上の時間を過ごすという保育園だ。
登園後、「遊んでよいよ」と言葉をかけられてからは、そこから何して遊ぶかは本人次第。本人が遊びたいところで遊びたいだけ遊べる、子どもの楽園だ。
保育者たちは少し離れたところから子どもを見守り、子どもの中に入っていくことはしないという。危険回避も、それぞれが自分の体験の中で学ぶ形だ。
入園前の説明会でも、「遊びの中で、骨折までは許してください」と伝え、保護者に園の考え方を知って共感してもらい、園を一緒に作っていくという。
今回の誌面では、46年間、「自分が子どもだったら遊びたくなる園庭を作りたい」と考えてきた川保保育園園長の寺田信太郎さんに「保育園のあり方」を聞いている。
かわわ ほいくえん 1942年、農繁期託児所として創設。71年に寺田信太郎さんが延長を引き継ぐ。「自分で考え、自分で遊べ 子どもたち」をモットーにした保育を実践。 保育時間:午前7時~午後7時まで。木々の生い茂る園庭には、重層的な遊具が設置され、3歳児以上は1日の90%を園庭で過ごす。保護者も円の行事に積極的に参加、ともに子どもの保育環境を支える。社会福祉法人共に生きる会が運営。来年度、深淵社と園庭に引っ越しの予定。 〒224-0057 横浜市都筑区川和町665 電話:045-932-5933 http://www.kawawa-hoikuen.ed.jp/ |
興味を持った方は317号の特集をぜひご覧ください。
ビッグイシュー317号ではこのほかにも、
・スペシャルインタビュー:アダム・ドライバー
・池内了の市民科学メガネ ・滝田明日香のケニア便り(野生キリンとの信じがたい交流の後編)
・ビッグイシュー・アイ「主権なき“無法”平和国家」日本―伊勢崎賢治さん
・ワンダフルライフ:6万冊の蔵書を誇る少女まんが館――大井夏代さん&中野純さん
など盛りだくさんです。 ぜひ路上でお求めください。
特色ある幼稚園・学校に関心のある方にオススメのバックナンバー
201号特集:生きる喜び あふれる学校子どもの主体的な活動を大切にする教育に興味がある方は「生きる喜び あふれる学校」を特集した201号がおススメです。
学年も、宿題も、チャイムも存在しない。小・中学生の子どもたちは、授業でセルフビルドを学び、喫茶店を建て、お米づくりに挑戦する「きのくに」の学校などを紹介。
http://www.bigissue.jp/backnumber/bn201.html
254号:「市民がつくる希望の経済 ― シビックエコノミー」
「都会の多世代共生ユートピア」として雑木林の中に老人介護施設や幼稚園などを意図的にくっつけて作り、運営している長久手市の「ゴジカラ村」を紹介。
http://www.bigissue.jp/backnumber/bn254.html
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