ビッグイシューの販売者の多くは、長時間路上で立ちっぱなしの販売をしたあとも、路上生活またはドヤ・ネットカフェといったところで睡眠をとっています。路上で眠るときは、固い床の上に体を横たえ、さらに周囲の状況や襲撃に気を遣いながら眠ることになるので、なかなか疲労や緊張が取れることは少ないといいます。
そんな極度の緊張が続く販売者のために、様々なボランティアが販売者のサポートをしてくれています。(「ホームレス状態で困ること」例5つ&その解決をサポートするボランティアの人々)
長年ビッグイシュー販売者に寄り添い、コーチングなどのボランティアをしてくれている和氣裕之さんもそのひとり。和氣さんは普段は一般の企業で働く方のコーチングをするほか、トラウマや緊張といったストレスを解放し、リラックスすることを目的としたエクササイズも教えておられます。
今回はそんな和氣さんにインタビューをしました。
どういった経緯でビッグイシューと関わるようになったのですか?
普段の仕事としては、一般企業の社員の方を対象にカウセリングの一種である“コーチング”を使って、モチベーションの維持や向上、目標達成のための援助をしています。2009年頃から同じようにコーチングを行っている人たちとグループを作って、「ビッグイシューの販売者さんに、コーチングを受けてもらって元気になってもらおう!」と始まったのがきっかけだったと思います。その後2011年頃から、妻でありビジネスパートナーでもある和氣頼子と2人体制を組んで、だいたい月に1度、大阪事務所の方で希望する販売者さんにコーチングのセッッションを行っています。(左:和氣頼子さんと、右:和氣裕之さん)
ビッグイシューの販売者へのコーチングは効果が出ていますか?
実は結構初めの頃に挫折と言いますか、無力さを感じまして…(苦笑)さっきも言いましたが、コーチングは普段、企業で働いている方に向けて行っています。たとえば、仕事をする上でのストレスなどを、傾聴を通じて整理し、見つめ直すというプロセスがあるんですが、「もう何年も野宿をしています」といった人たちのストレスは半端ではないんですよね。コーチングの枠に正直おさまらないと言いますか。
ビッグイシュー販売者にはコーチングはあまりフィットしない?
いやいや、もちろん、ハマる人もたくさんいて、たとえばセッションを繰り返す中で、「今までの苦しい状況があったから、これからの苦しいことも乗り越えられる」という風に、否定的な過去に意味を見出し、物事に前向きな姿勢になった方もいます。ホームレスになる過程で、みなさん色々なものを失ってしまっていますし、騙されたり搾取されたりという経験から他人を信頼することも難しくなっています。ですので、モチベーションだけでなく、「安心して自分のことを話せる場」を設けること自体がとても大事なのではないかと思っています。
最近では、メンタル面だけでなく、身体的な部分でのサポートも行っていただいていますね。
先ほどの「コーチングの限界」みたいなことがターニングポイントで、コーチングは他者をサポートするいち手段であって、相手を応援するという目的に対しては、他の専門的な知識も持っているとよい、と良い意味で目的志向になったんです。そこで、体の緊張状態をほぐすことを通じて、精神的な困難を和らげるというエクササイズの講師の資格も取得し、ワークショップを行なっています。
--
エクササイズに参加した販売者からも、「うまく言葉に表せないけど、リラックスになった」 「終わった後は、体が重いんだけど、妙に力が抜けた状態」「終わった日の夜、路上で寝ていた時の夢を見た。それからは全く夢を見ず、快眠が続いている」などと好評でした。
--
最後にビッグイシューでの活動に興味のある方に一言お願いいたします。
ビッグイシューの販売者は“普通の人”です。状況はもちろん特別かもしれないが、決して特別な人たちではない。そんな“普通の人”に普通に接することは、普通のことですよと言いたいです。そんな人たちの生活を応援でき、どんな階層の人でも自分を大切にできる社会になればいいなと思っています。ーーーー
和氣さん、インタビューへのご協力、ありがとうございました。
ビッグイシューでは、プロボノとして技能を生かして販売者や事業を応援してくださる方を募集しています。
詳細、お問い合わせはこちら
--
2017年10月29日、記事内で紹介したエクササイズの開発者である、デビット・バーセリー博士の講演会が大阪で予定されているそう。当日は、和氣さんも司会として登壇予定なので、興味のある方はご参加ください。
詳細はこちら
過去記事を検索して読む
ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。