日本全国に52ヵ所ある「少年院」。
ここでどんな少年がどんな毎日を過ごしているか、ご存じだろうか。
今回は大阪府茨木市にある「浪速少年院」を見学したレポートをお届けする。



※この見学は、「働きたいけど働けない」若者が「働く」機会を得て、「働き続けられる」よう支援を行う「認定NPO法人育て上げネット」が主催する「矯正施設スタディツアー」により実現しました。


JR茨木駅からバスで15分ほどの場所に浪速少年院はある。
何も知らされないで行くと、「私立の学校?」「文化ホールかな?」という落ち着いた文化的な印象の建物だ。

浪速少年院 庁舎写真2
建物外観:浪速少年院提供写真

少年院は、「適切な矯正教育と健全な育成に資する処遇」を行う施設
刑罰で入る刑務所とは異なる

よくある誤解は「どうしようもないような荒くれ少年たち」が「犯した罪の刑罰のために入る場所」、というものだ。
その誤解を解くために、スタディツアーの冒頭で各矯正施設職員による「少年院とは」という解説から始まる。

浪速少年院ではおおむね16歳から20歳(※)までの少年を収容している。
家庭裁判所で「保護処分」が適当と審判された「非行少年」のうち、処遇上必要のある少年が少年院に送致されるという流れだ。
大人と違い、少年を保護処分する場合、単に犯した罪の重さだけではなく個々の少年の「年齢やどの程度保護が必要か」で保護観察となるか、少年院や児童養護施設・児童自立支援施設に送られるかが決まる。
よって、少年院に入ったことは「矯正教育」を受けたという事であり、前科にはならない。

「少年院」を英訳すると「Juvenile Training School」(少年少女の訓練/養成学校)であることからも、「刑罰のための施設」ではないことがおわかりいただけるだろう。
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浪速少年院説明資料より

浪速少年院の少年たちの送致理由は「窃盗」が3分の1
成人の片棒を担がされる詐欺での送致は以前よりも増加傾向

浪速少年院では、現在80名ほどの少年が収容されている。
ここに来ることになった理由は、3分の1ほどが「窃盗」。あとは傷害、強盗、詐欺、わいせつ、薬物などが8~9%など。最近は「オレオレ詐欺」の「受け子」(金銭を搾取するために被害者と接点を持つ担当)など、成人による犯罪の片棒を担がされて犯罪に手を染めるケースが以前よりも増えているという。

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浪速少年院説明資料より

入院時の年齢は15歳~19歳。
一度の教育機関は11カ月が基本

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浪速少年院説明資料より。入院時の年齢は15歳~19歳。

また、刑務所の場合であれば、入所する期間は罪により人それぞれだが、浪速少年院の場合は11カ月という単位がベースとなる。
入院から出院までの流れは、3級から始まり1級を迎えると審査があり、出院となる。浪速少年院では、3級は「自己の問題改善への意欲の喚起を図る指導」として約1.5カ月、2級は「問題改善への具体的指導」として、職業指導なども含めた教育がなされるのが約7カ月、1級は社会生活への円滑な移行を図る指導として2.5ヶ月を過ごす。

問題行動を起こすことなく優良な成績で過ごしていれば各級の期間が短くなることもあるが、逆に問題行動があったり、社会生活への移行が懸念されたりする場合などは延長されることもある。

処遇の段階が3級、2級、1級と向上する際には、修了式を開催し他の少年たちの前で進級を示す「バッチ」が渡される。少年院に入るまでは、他者から「承認」されることが少なかった少年たちにとって、「みんなの前で頑張ってきたことを認められる」ということは彼らの自信、自己肯定感につながるのだという。

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浪速少年院説明資料より

少年院でのある一日の生活-「社会に移行するのに必要なスキルを身につける時間」

少年院の少年たちは、平日は下記のように過ごす(土日は指導等が原則ない)。
就職サポートや生活指導がかなり手厚い、全寮制の学校のようなイメージが近いかもしれない。

(一般的な例)
6:45 起床、役割活動(日直など)
7:40 朝食、自主学習等
8:50 朝礼(コーラス・体操)
9:00 生活指導、職業指導、教科指導、体育指導、特別活動指導、運動等
12:00 昼食、余暇等
13:00 生活指導、職業指導、教科指導、体育指導、特別活動指導、運動等
17:00 夕食・役割活動
18:00 集団討議、教養講座、個別面接、自主学習、日記記入等
20:00 余暇等
21:00 就寝

浪速少年院では、原則、4人が同室で過ごす。相性の問題もあるため、部屋割りにはかなり気を遣うとのこと。

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浪速少年院説明資料より

職業指導は、職業生活設計指導、パソコン実習などは共通科目としてなされる。
専門的なコースとしては「溶接科」「電気工事科」「木工科」「クリーニング科」に分かれ、それぞれの職能を身につけていく。

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(法務省Webサイト掲載のPDF資料より)

このコースは、本人の希望や、家庭裁判所での判断、保護者の希望などを加味して決定されていく。「電気工事科」の技術が学べる少年院は西日本ではこの浪速少年院だけなので、強く「電気工事科」に進みたいという希望を持つ少年は、名古屋や九州から送致されてくるということもある。エアコンの取り付けや配線などの技能や知識が身につくと就職に有利なため、浪速少年院のなかでも「電気工事科」は人気のコースだ。

参考:浪速少年院で取得できる資格等

第二種電気工事士免許、消防設備士免状(乙種第4類)、危険物取扱者免状(乙種第4類/丙種)、ガス溶接技能講習修了証、アーク溶接・半自動溶接適格性証明書、アーク溶接特別教育修了証、小型車両建設機械運転業務特別教育修了証、クリーニング師免許証、締固め用機械特別教育修了証、刈払機取扱作業者安全衛生教育修了証、日本漢字能力検定合格証書(2~6級)、珠算能力検定(1~6級)、暗算能力検定(1~4級)など
※スタディツアーの参加者からは「溶接科」「電気工事科」「木工科」「クリーニング科」という4つの科の編成について「現在の社会のニーズと合っているのか疑問。今の世において就職につながるのか」という質問があった。
施設側の回答としては、「中卒程度の教育レベルの少年たちでも取得できる資格であることが条件になることを考えると、難易度が高すぎるものは適切でない。また就職先のニーズとしては、技能よりも“基本的なコミュニケーション”“ルールを守る”といった基本行動が身についている方が大切であり、そうした就労生活の基本を学ぶ指導も同時に行っている」とのこと。

また、各科の技能を教えるのは、法務省の公務員である。
数年ごとに他の少年院への異動があるが、各少年院により開講している科も異なる。「配置されて初めて教えることになり、急きょ自分でも第二種電気工事士免許を取得するための勉強をした」という職員もいることを考えると、少年たちの矯正教育に心を砕きつつ、時代のニーズに合ったスキルのキャッチアップと、その職能を教えるスキルを常にアップデートしていくというのは、部内外の援助者から技術的な指導を受けてはいるが、なかなか困難であるように思われた。
現場とニーズのギャップを埋めることはどの教育機関においても悩ましいところだと思うが、少年院のこの悩みは他機関も巻き込んで考えたい問題だ。

情操教育や季節のイベントも

職業指導以外にも、美術、書道、合唱、茶道、生け花といった情操教育や、観桜会、花火大会などの季節のイベントもある。(観桜会は敷地内にある桜の木の下でレジャーシートを敷いて食事をし、花火大会は、近隣のお寺で行われる花火大会を施設の中庭に椅子を置いて鑑賞する)また、少年院にいる間に誕生日や成人を迎える場合も多いため、院内で誕生会や成人式も行われる。

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浪速少年院説明資料より

なかには「罪を犯した少年たちにそのようなものは贅沢だ」という人もいるかもしれない。繰り返しになるが、少年院は「刑罰」の場ではない。それまで受け損ねてきた教育の機会のなかで、また、日々の生活のなかで培われる心こそが、少年院を出た時に必要になるのではないだろうか。

収容されている少年による「僕たちの心の叫び」

そもそも、収容されている少年たちは、どのような環境で育ってきたのだろうか。
浪速少年院の場合は、およそ半分は、ひとり親家庭、1割は父母が再婚している家庭、両親がいる家庭は3割だ。

「だから何だ?」「家庭環境を非行の言い訳にするな」という厳しい声もあるだろう。
ひとり親家庭でも、非行に走らない少年・少女ももちろんたくさんいる。だが、少年たちの過ごしてきた環境や境遇が、「少年院に入ることになった彼ら」を形づくる要因になってはいるであろうことを考えると、「どういった環境や境遇にいたのか」ということに思いを馳せることはとても重要だ。

スタディツアーでは、少年たちの職業指導の成果物の展示や、書道や絵画などの文化活動の展示スペースも見学する。そのなかに、少年の「僕たちの心の叫び」という展示があった。

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ここでは、「現在の心境」を「心の叫び」として作品にしたものが展示されている。胸に突き刺さる作品が多いが、たとえば下記の作品を見てほしい。

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父の気分だけで殴られ育ちました。いつか殺されると思い、生きてます。いまだに父が怖くて出院が不安です。
「殺されるかもしれない不安」がある家庭に、居場所や安心があるわけもない。
この少年が、もし「殺されるような不安」に囲まれた環境でなかったなら、彼はどのように育ったのだろうか?

「家庭環境を非行の言い訳にするな」という人は、親の気分ひとつで殴られるような、安心して過ごせるはずのない環境で育っても、「誰でも腐らず曲がらず意欲的に生き、清く正しく行動できる大人に育つべき」、「そのために適切な支援に自力でたどり着けるよう、人脈とリテラシーを身につけてしかるべき」だと考えるのだろうか。

“必要なものが欠落”した環境において育った人間が、「あるべき市民」でいることは難しいことだ。特に少年時代においては、「欠落」を埋めることで、少年たちが「安心」や「自信」を感じることで「あるべき市民」に近づくことはできるのではないだろうか。

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家族のぬくもり知りません いつかきっと味わいたい

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少年院・女子少年院は見学できる

少年院・女子少年院は見学可能なので、興味のある方は下記から各少年院に問い合わせてみてほしい。

法務省 全国の矯正管区・矯正施設・矯正研修所一覧

市民に開かれた「矯正展」

また、全国の刑事施設(刑務所等)では、刑法に定める所定の作業として改善更正を目的とした刑務作業を実施している。
「矯正展」では刑務作業の現状と重要性を広く周知するため、刑務作業の広報、刑務所作業製品の展示・即売のほか、少年院や少年鑑別所の広報も行っている。

法務省:矯正局の「その他 お知らせ」で各地の矯正展の開催スケジュールがわかる。
http://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei_index.html

「少年院・少年鑑別所」関連のビッグイシュー・オンライン記事

少年鑑別所・少年院を経た少年が「働き続ける」ようになるまで-矯正施設スタディツアー資料より

少年院を出所した子どもは、就職できるか否かで「再犯率」が大きく変わる。若者支援における「出口」の重要性

オンライン編集部オススメ映画『プリズン・サークル』
 








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