フランス料理店でのシェフ経験もある人が、ホームレス状態になったのはなぜ? 大阪府立松原高校の「きずな」を学ぶ授業にビッグイシュー販売者が出張講義

ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、高校や大学などで出張授業をさせていただくことがあります。

今回の行き先は、大阪府立松原高校の「社会体験」の授業。体験学習の一環で、「ホームレスの襲撃事件」や「日雇い労働」などを生徒の皆さんでリサーチし、まとめて発表、その後にビッグイシューのスタッフと、販売者の小川さんが講師としてお話するという場に伺いました。

自分で調べて発表することで、社会課題を身近なものに

最初に生徒の皆さんは4つのグループに分かれ、今日のためにそれぞれ調べてきたことを発表。

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「野宿者の生活と人生」をテーマにしたグループは、野宿者の追い出し、襲撃、健康問題に取り組む「野宿者ネットワーク」という団体を取り上げ、“ホームレス状態の人と行政との橋渡しをボランティアがしているということがわかった”と話し、「非正規雇用と派遣切り」をテーマにしたグループや「ネットカフェ難民」をテーマにしたグループは、“非正規雇用が増えた背景には、政府の規制緩和があることや、ホームレスは常用型の派遣とは違い、登録型の派遣なので、仕事があるとは限らない”と話しました。

また、「セーフティネット」を取り上げたグループでは、“生活保護という方法もあるが、自分の手で金銭を得たい人の手段として「ビッグイシュー」が役割を担っている”と発表。
どのグループも「知らなかった課題について知ることができてよかった」と今回のリサーチについての感想が発表されました。

ホームレス支援の第一線で働くスタッフから、生徒の調べ学習の理解を深める講義

スタッフからは、「ホームレス」というのは「家がない」という状態であり、その状態になったからといって、性格や人格まで変わってしまうわけではないということ、ホームレス状態になる理由も「失業」「人減関係に躓く」「住居を失う」など人によって様々であることを解説。

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調べ学習の発表後ということもあってか、生徒の関心も高かった

今の日本は介護など人手不足の職もあり、空き家もたくさんあるにもかかわらず、住所も保証人もないという理由でホームレス状態の人が雇用されにくい状態です。それはホームレスの人だけの問題だと考えられがちですが、行き過ぎた格差社会は「どの階層の人にとってもストレスがかかり、お互いを信じられなくしてしまう」というリチャード・ウィルキンソンの説に言及しました。

「誰でもやりなおしができて、生きやすい社会を作ろう」というのが「ビッグイシュー」の理念であり、そのためにホームレスの人たちがその日からでもできる仕事を提供していると説明。

調理学校を出てシェフになるも、歯車が狂って路上生活になってしまった小川さんの話

解説が終わった後は、ホームレス状態であるビッグイシュー販売者・小川さん(奈良・王寺駅、火曜日のみ河内松原駅)の体験談を交え、さらに理解を深めていきます。

京都出身の小川さんは、中学卒業後、大阪の調理師専門学校へ入学。調理師免許を取得し、若くしてゴルフ場のレストランで働くようになります。しかし職場では先輩の料理人たちに強制され、ギャンブルやお酒を覚え、そのうち給料の3割くらいをギャンブル、残りのほとんどを周囲の人に飲み代を奢るようになるなど、生活が乱れていくようになっていきました。

次第に消費者金融から借金するなどして家賃が払えなくなり、病院のレストランやフランス料理店などで調理師として様々な職場を渡り歩いて12~13年ほど勤めていましたが、そのうちに調理師の仕事ではなく、建築関係で住み込みの仕事や、工場での日雇いの仕事をするようになっていきます。

それでも当時は仕事がいくらでもあり、たとえ所持金がゼロに近くても面接さえ受ければ即採用、寮に入って当座をしのいでいくことができていました。

事情が変わったのが2008年のリーマンショックの後。選ぶほどあった日雇いの仕事があっという間になくなり、路上に元派遣社員や日雇い労働者があふれました。小川さんも所持金が尽きてしまい、ホームレスの人に「衣・食・住」の提供を行い、就労などを支援する施設の自立支援センターに入所。そこで配られていたビラでビッグイシューと出会うこととなります。

2014年から販売者となり、今ではお客さんやスタッフといった社会とのつながりが感じられるビッグイシューの仕事を自分にとってなくてはならないものと感じるようになっているとのこと。

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熱心にメモを取る生徒さんたち

Q:販売での工夫や気をつけていることはありますか?

小川:ディスプレイで、人気のある号を目につく位置に持ってくるとか、
身だしなみは一応きちんとしようと、ひげ剃りは毎日しています。

Q:販売していて嬉しいことはありますか?

小川:お客さんのほうから、暑い中ご苦労さんと声をかけてもらったり。
あとは自立支援センターなどの施設と違って、食べたいお弁当を自分で選んで買えること。
普段はノリ弁当だけど、その日の売り上げによっては少しいいお弁当にできることとか。(笑)

Q:今後の目標はありますか?

小川:それはやっぱり一般的な仕事につきたいですけれどね。でもハードルが高い。
今年の11月で55歳になるので…。
子どもに関わる仕事か、趣味である野球に関わる仕事ができたらうれしいですね。

Q:生徒の皆さんへのメッセージありますか?
小川:
これから何かやりたいことが見つかれば、失敗を恐れずに挑戦してもらいたいとと思います。

授業を終えて

自主的な調べ学習・発表の後に、支援の現場で働くスタッフの言葉、そしてホームレス経験のある当事者からの実際の体験談を生の声として聴くという授業。
担当の先生からは「本当に貴重なお話をありがとうございました。こうやって実際にホームレス状態を経験した人の話を聞く機会というのはめったにないので、生徒はもちろん、私自身も大変勉強になりました。生徒も普段の授業以上に真剣に聞いていたと思います。河内松原駅も通るので、みかけたら是非雑誌を購入したり、挨拶させてもらえるとうれしいです」との感想も。

記事作成協力:中尾まり
サムネイル: cheetahさんによる写真ACからの写真

格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします

ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。

 

小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
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