「(前編)」を読む
-太平洋岸北西部では、極右勢力の台頭、ヘイトクライムの増加、ボツになったはずの化石燃料施設建設の動きが起こっています。気候変動と人種問題などそもそも分野が異なる問題を、批判も激化しているなかでどのように連携させていけばよいのでしょうか。
クライン:ともかくやることです。すべての社会活動が非難されているからこそ、この猛攻撃に個々で対抗しようとしてはダメだと皆が理解することです。トランプ陣営にとっては、我々が連携せず諸問題を結びつけない方がありがたいのですから。「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again)」というトランプの世界観は、あらゆるレベルでの支配に他なりません。人々、女性、有色人種を支配し、人間を容赦なく階層化し、その人間が地球を支配する。物事の限界をことごとく無視し、それができないときは、ただ現実を否定するのです。
進歩派が、根底では深く絡み合って関連している諸問題を分けて考えてきたのは大きな欠点だと思います。その理由は複雑です。今ある資金提供を受ける仕組みは、視野を狭めて短期で実現できそうな要求を打ち出すことを奨励するようになっています。助成金申請時に、「これこれを達成します」と記載し、数ヶ月後にそれらを実現できましたと言えるものが好まれるのです。そんな状況では、長いスパンの政治野心や構造変革はなかなか取り入れられません。
この状況はとても危険ですから、それぞれの殻を打ち破る道を探らなければなりません。9.11同時多発テロで得た教訓を実際に次の行動に活かすプロセスがあったと思うのですが、そのひとつは共感するお互いの活動に出向く必要性についてでした。渡航禁止令への反応は感動的でした。この街で実際に起きたこともそうです。(※)ヘイトクライムや嫌がらせを目にして介入しようとした人たちがいたことが、それをよく反映していると思います。そのために究極の犠牲を払うことになりましたが、われわれがすべきことを体現したことでヒーローと称えられています。
※2017年5月に、電車内でイスラム教徒の女性2人にヘイトスピーチを浴びせていた男が、止めようとした乗客男性3人を刺し、二人が死亡、一人が重傷を負った。この記事のインタビューが行われたオレゴン州ポートランドで起こった事件。
- 民主党はクリントンのようなネオリベラリズム(*3)から距離を置く、または放棄すべきと、2016年11月時点で書かれています。それからの数ヶ月で、何か期待できる政党が現れるなど、民主党が改革される兆しはありましたか??
*3 ネオリベラリズム:新自由主義。1990年代の米クリントン政権下で民主党が採用した経済政策。
クライン:私が目にしたのは民主党内での立場の硬化です。バーニー・サンダース支持基盤を敵とみなすような動きが起きているようなのです。彼らは一体何がしたいのでしょう? サンダースに票を入れた1,300万人を無視していいと思っているのでしょうか。20州以上で(ヒラリーに)勝利したというのに…全くもって理解できませんが、民主党の有力議員らはその方向性のようです。争いは党内どまりなのか、党外でも起きているのか、はたまたそのどちらにも及んでいるかまでは分からないのですが。
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英国での事例が興味深いです。ジェレミー・コービン(現在の野党である労働党党首)は、アメリカの民主党全国委員会(DNC)に相当する労働党組織から何かにつけ抵抗を受け、妨害され続けていました。彼が党首選を勝ち抜いたのは、若者が中心となった新たな勢力が労働党に参加し牽引役となったからです。これはうまくいきました。2017年6月の英国下院選挙で期待を大きく上回る実績を残した彼に、今後、党内の反応も変わってくるでしょう。
内部からの批判や抵抗は今後も起きるでしょう。決して逃げてはいけませんが、そもそも仕組みが違うのです。どっちつかずの無所属層にも言い分があるでしょうが。投票総数が割れてしまうのは大問題です。アメリカの勝者総取り方式(winner-take-all)のようなものではない小選挙区制であれば、連立であっても起こりえない構造上の問題なのです。ちゃんとしたシステムがあれば民主党を守ることも容易ですが、あいにくアメリカの制度はそうなっていないのです。これは実に複雑な問題です。そこまで複雑じゃないよと言う人がいたら、きちんと仕組みを理解できていないのだと思います。
- 次に「Racial Capitalism(人種的資本主義)」についてお聞かせください。オレゴン州の農業部門では、トランプ政権の移民政策によって、すでに起きていた移民労働者不足問題がさらに深刻化しているそうです。今年はサクランボの収穫に十分な人手が確保できないとか…
クライン: カラスが喜びますね。
- 資本主義と、全ての労働者を公正に待遇することは両立できると思いますか?
クライン:この「Racial Capitalism」という言葉は、故マルクス理論家のセドリック・ロビンソン教授が用いたことばで、白人優位主義と近代資本主義は切り離せないこと、近代資本主義は産業革命と共に誕生したことをいっています。産業革命で莫大な資本を生み出した二大要素は、先住民族から奪った土地と、アフリカから連れてこられた労働力です。そのために人類の階層をつくり、土地を盗み人間を搾取することを正当化する必要があったのです。
そうして、産業革命とアメリカ経済の誕生が同時に発生したのです。この現代版ともいえるのが、ネオリベラリズムがこの国で受け入れられてきたやり方です。事あるごとに、計画的に人種で人々を分断し…
ポートランドでの刺殺事件については、犯人が被害者の女性たちに浴びせた暴言があまり注目されていないと感じています。「国に帰れ!」の他にも「バスから降りろ。税金も払ってないくせに!」と言ったそうです。まさにこの考え方がトランプの経済政策を後押ししているのです。
「有色人たちが制度に付け込み、システムを悪用している」とはあらゆるところで言われてきました。ロナルド・レーガンがねつ造した「福祉女王」(*4)、シカゴやニューヨークの財政が苦しいのは移民が悪用しているとのジェフ・セッション司法長官の発言…ネオリベラリズムは、このように白人対有色人種の対立構造を作ることで、この国で支持を伸ばしてきたのです。ですから犯人の発言にもっと注意を払うべきです。「Racial Capitalism」が何たるかをよく物語っています。
*4 福祉女王(welfare queen): 政府から福祉予算をだまし取り、キャデラックに乗って裕福な生活を送っている黒人の「welfare queen」がいると真偽不明のイメージをねつ造し、世論をアンチ福祉に仕向けた。
- 最新作の中で、「トランプ弾劾」「民主党に投票」といった低俗な大衆志向に便乗すべきではないとも書かれています。
クライン:私の主張を誰も聞いてくれませんけどね(笑)
- 著書やこのインタビューの読者、あるいは「リープ・マニフェスト」を知った方々が賛同したいと思ったら、まず何をしたらよいでしょうか?
クライン:「リープ」の賛同グループが各地で立ち上がっているようです。名前は「リープ」でなくてもよいのです。例えば、「ポートランド・ジャスト・エネルギー・トランジション・イニシアチブ(Portland Just Energy Transition Initiative)」のように、人種的公正と気候変動運動を巧みにまとめて考え、「公正な移行」を目指す取り組みもあります。このような活動はとかく、移行に含まれる労働者や有色人種コミュニティへの予算配分など「公正」面にだけ着目し、その裏側、つまり気候危機を起こしている人々ができること、相応の負担を求めていくということにはあまりエネルギーを注がない嫌いがあります。大手環境団体などが、対立を避けたいために曖昧にしたがるのです。
「公正な移行」において重要なのは、最大の被害者だった人たちが一番に利益を享受できること、そして危機を作り出した人たちが最大の負担を負うべきという2点です。「ポートランド・ジャスト…」が優れているのは、この2つをしっかり検討し、大手企業に相応の負担を強いている点です。ですから、このような地域レベルの動きに参加していくとよいと思います。
ポートランドは100%再生可能エネルギーの実現を目指す、大変勇気ある移行政策を実施しています。「リープ」でも同じことを目指していますが、問題はどう実現していくかです。
「リープ・マニフェスト」の起草段階では、ベイエリアで活動するグループ「ムーブメント・ジェネレーション」に大きな勇気をもらいました。彼らのスローガンは’Transition is inevitable. Justice is not.’(移行は必然、公正は必然でない)。「公正」を得るには闘わなければならないのです。
化石燃料を止めるという「移行」が、非人間的な方法で進められる可能性もあります。現在、受刑者の労働で作られている太陽光パネルもありますから。組合を組織し、これらをきちんと生活費を払える仕事にするには闘わなければなりません。移行によって正しく分担されないのなら、闘わなくては。
ぜひ、「リープ・マニフェスト」のホームページをチェックしてみてください。投獄されている若者、郵便局員、市議会、学生などによる、未来の社会に向けた多くの活動事例が紹介されています。
Street Rootsのご厚意により転載/INSP.ngo
文:Emily Green
翻訳監修:西川由紀子
リープマニフェスト
https://leapmanifesto.org/en/the-leap-manifesto/
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