コロナ禍を受けて、各家庭の自炊の頻度が高まったが、その食材はどこで誰が生産したものか、意識しているだろうか。自炊に使う食材の購入先を地域の農家に切り替えることで、口に入る食材の鮮度が上がるだけでなく、地域農家の倒産が減り、人々のつながりも深まるのだ。
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シカゴの「プラント・シカゴ」は、“循環型経済(サーキュラーエコノミー)” を理念に活動する非営利団体。サウスウエストサイド地域を拠点に、生産・消費・廃棄に関する人々の考えを大転換させたいと活動している。
Courtesy of StreetWise
例年、プラント・シカゴが運営するファーマーズマーケット*1には、バラエティ豊かな新鮮野菜がずらりと揃う。しかし今年は、新型コロナ感染拡大を受け、3月以降、マーケットを開催できなくなった。
*1 地域の生産者農家などが集まり、自分たちのつくった農産物や加工品を持ち寄って、消費者に直接販売する市場
スモールビジネスが売り上げを確保し続けること、そして大変な時こそ人々が支え合うことの大切さを心得ているプラント・シカゴのスタッフたちは、関係者たちの協力を仰ぎ、「オンラインマーケット」に切り替えることにした。
他のマーケットや販売者たちと連絡を取ってリソース調達をすすめ、利用者は、指定の場所でピックアップ/宅配/地域支援型農業(Community Supported Agriculture: CSA)*2 から選べるようにした。
*2同じ地域に住む農家と消費者が、農業の恵みとリスクを分かち合うことを目指して生まれた“地域で支え合う”農業システム。地域の消費者が種の購入なども含めた生産コストを受け持ち、農家が生産した野菜などを分配する。農家は収穫分の販売先が確保でき、消費者は新鮮な野菜などが農家から直接届き、豊作であればあるほどお互いのメリットはより大きくなる。米国や欧州を中心に広まり、日本でも徐々に浸透しつつある。
プラント・シカゴの理事を務めるジョナサン・ペレイラは言う。「シカゴ市内にはファーマーズマーケットが一切開催できていないところもあります。何もしなければ、収入源が絶たれ、立ち行かなくなる農家も出てくる」
「唯一残された選択肢がオンラインマーケットでした。活動の基盤となるプラットフォームも、応援してくれる人たちがいることも分かっていましたから、それらを活用して情報発信を行いました」。
モットーだった対面式をすべてオンラインに切り替え
シカゴ市内にはこの他にもたくさんのファーマーズマーケットがあり、いずれも “地域の人に地元産の栄養価の高い食品を提供する” を理念としている。ならば互いに連携して共に目標を実現させようじゃないかと、2年前に「シカゴ・ファーマーズマーケット共同体*3」を設立した。約15のマーケット運営者が月に1回ペースで会合を開き、それぞれがぶつかっている問題について助言し合うなど、シカゴ市内の食システムを支え合う取り組みをすすめている。
*3 Chicago Farmers Market Collective
プラント・シカゴは8年間、バック・オブ・ザ・ヤーズ地域にある元精肉工場施設を転用した建物「ザ・プラント」を拠点としていた。この間、主催するツアーやワークショップに参加した人数は6万人以上、地域ビジネス支援に50万ドルをもたらした。しかし、より広域(サウスウエストサイド全域)に事業展開すべく、2019年11月に現在の拠点「ファイアハウス」に移転した。今はここで 、 “人々をつなぐ”さまざまなプロジェクトを運営している。さらに今年度は、アクアポニックス農法*4による屋内型ファームと菌の研究ラボを再整備する他、この建物を当地区のサーキュラーエコノミー中枢拠点として一新させる計画だ。
*4 水産養殖(Aquaculture)と水耕栽培(Hydroponics)を同時に行なう仕組み。魚のフンを水中のバクテリアが植物の栄養素に分解、植物が成長する過程で水を浄化。そのため、水を変えることなく又農薬を使うことなく持続可能な農業ができるとして注目を集めている。
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ファーマーズマーケット開催の他、料理教室や試食会、さまざまな世代向けの学習機会も提供している。社会見学プログラム「K-12 Programs*5」では、アクアポニックス栽培/サーキュラー・エコノミー/サラダのライフサイクル/ミミズ堆肥づくり等のコースがある。堆肥(コンポスト)の回収や、埋め立て処理されるごみを極力減らすことにも力を入れて取り組んでいる。
*5 https://plantchicago.org/learning/
「多様なプログラムを通して、さまざまな経歴を持つ人たちが出会う場を提供したいと思っているので、その多くが、一つ場所に集うことを大切にしていました」とペレイラ。それだけに、コロナ禍で人が集うことのできない今の状況は “障壁” ではあるが、この2か月で多くのプログラムをオンラインに移行させた。
教育担当チームは「バーチャル・サイエンスフェア*6」を開催。自宅でやってみたDIYアイデア、実験、サーキュラー・エコノミー実践事例(食べ物の残りでジャムを作る、使い捨てプラスチックの再利用方法など)を共有できる機会を提供している。
「対面式でやっていたものもすべてオンラインに移行させました。組織として、この大きな変化に適応中です」ペレイラは言う。
消費や廃棄の習慣を見直すとき。地元のスモールビジネス応援を
もちろん、このコロナ禍で大きな方針転換を迫られているのはプラント・シカゴだけではない。「今こそ地元の生産者やビジネスを支える時。できるだけ地元の生産者から購入することを心掛けていただきたい」と語気を強める。「そのことが本当に重要です。多くのスモールビジネスの運命を左右するときですから」
これを機に、自分の消費や廃棄物をめぐる習慣を振り返ってみてほしいとも。もっとも、プラント・シカゴがこうしたメッセージを発するのは今に始まったことではない。これまでもこれからも、彼らの活動の核であり続けるものだ。
その後、ファーマーズマーケットは6月から再開できるようにはなった(毎週土曜日)。コロナ対策で提供方法にはさまざまな制約があるが、ローカル経済の活性化を図ろうと懸命だ。
また7月からは、困窮者向け食糧品購入券「LINKカード」での支払いも可能に。ファーマーズマーケットでLINKカードで支払うと半額で購入できる(50ドルまで)他、焼き立てパンや地元産の卵の詰め合わせボックスを半額(40ドル→ 20ドル)で購入できる。
こうした取り組みはいずれも、コミュニティの支援なくしては実現できなかった。プラント・シカゴの理念に賛同する地域住民からの寄付、SNSでの情報発信に協力してくれる人たちの存在があってこそのことだ。
By Rachel Koertner
Courtesy of StreetWise / INSP.ngo
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