ひと昔と比べてLGBTへの理解も少しずつ浸透してきた昨今ですが、いざ我が子に、そして親しい友人や同僚にLGBTであることをカミングアウトされたらあなたはどういう反応を示しますか。
年LGBTコンサルタントである増原裕子さんの講義のエッセンスをレポートします。
※この記事は2017年11月に豊中市で開催された”LGBTを知っていますか?「いない」のではなく「見えてない」だけ”の講義内容をもとにしています。
LGBTについて…代表的な4つのセクシュアリティ
「LGBT」は「性的マイノリティ」のうちで代表的な4つのセクシュアリティ、レズビアンの「L」、ゲイの「G」、バイセクシュアルの「B」、トランスジェンダーの「T」をとったもので、「性的マイノリティ」を総称する言葉です。身体の性、心の性、恋愛対象の性、表現としての性
「性」というと、多くの方は男性と女性の2つを思い浮かべると思いますが、今日は性を4つに分解してみましょう。1つ目は「身体の性」という考え方。これは、生まれた時に男の子、女の子ですよと言われる性別です。2つ目は「心の性」。これは、自分自身の性別をどう思っているか、性の認識のこと。「性自認」とも言います。
3つ目が「好きになる人の性」。恋愛対象となる相手が異性なのか同性なのか、もしくは両方なのか。また、誰も好きにならないのか。これも人によって違うんですね。
参考)講義資料より。
※トランスジェンダーには男性→女性(MTF)だけでなく、女性→男性(FTM)もある。
この表はあくまで、いくつかのセクシュアリティの例示であることにご注意いただきたい。
さらにこれに加えて4つ目の「表現としての性」。服装や髪形、自分のことをどのような一人称で話すかということです。私は「わたし」と言いますが人によっては「わたくし」と言う人、「僕」と言う人、いろいろですね。そういった自分を表現するときの性別のことを言います。
では私は4つの性の要素のうち、どこに位置するでしょう。図を見ていくと、生まれた時、私は女性として生まれました。自認の性には幅があります。性自認は、自分は男なのか女なのか、あっちかこっちかというものではなくて、グラデーションのように幅のあるものなんですね。
このように、自分の性の要素を4つに分けて考えることで、これまで男と女しかないと思っていたけれども、性別というのはもっと多様なんだな、グラデーションがあるんだということが分かっていただけると思います。
性のあり方はグラデーション
性的マイノリティの総称として使われている「LGBT」。これを分かりやすく、「好きになる性」と「心の性(性自認)」で説明していきましょう。まず、自分の心の性別(体の性に関係なく、自認している性別)と同じ性別の相手を好きになる人は「同性愛」です。心が男性で男性を好きになるのであれば「ゲイ」、女性として女性が好きなら「レズビアン」。そして、自分の心の性と違う性別(異性)を好きになるのが「異性愛」ですね。
一方、男性も女性も好きになるのが「両性愛」。「バイセクシュアル」と言います。また、性別を問わず、男性、女性、どちらにも属さない性別も含めてあらゆる人を好きになることを「パンセクシュアル(全性愛)」、どの性別にも恋愛感情を抱かないことを「アセクシュアル(無性愛)」と言います。
日本の社会の中には、人は全て異性愛であるということが当たり前という考え方があります。けれども、それ以外にもいろいろな「好きのあり方」があるということが分かるでしょう。
それからもう一つ。自分の思っている心の性別と、もともとの身体の性別が合致していないと考えている人。これが「トランスジェンダー」です。
「性同一性障害」という言葉、ほとんどの方がご存じなんじゃないでしょうか。この言葉はもう10年以上日本の社会で使われています。これは、生まれてきた身体の性別と心の性別が一致していないトランスジェンダーの方が、特に医療のサポートを必要とするときにつけられる診断名です。例えば、ホルモン治療や性別適合手術をする、そういった人たちが病院でつけられる言葉です。
心の性と身体の性がずれていない、性別の違和感がないことを示す言葉もあります。これを「シスジェンダー」と言います。私はシスジェンダーといえます。
大切なのはこれらの名称ではなく、性のあり方にはいろいろあるということなんです。心と身体の関係でいうと、自分の心の性別は男と女の中間にある=中性的だと認識している人もいます。人の性のあり方はそれぞれ違い、100人いたら性のあり方も100通りあります。グラデーションで考えると、全く混ざりがないという人は少ないだろうと思っています。
13人に1人はLGBT
人口比として、LGBTがどれくらいの規模なのか。2015年に電通が行った調査によると、日本人口全体の7.6%に上るという結果が出ています。複数のソースで見てもだいたい5~8%となっていますから、7.6%で計算すると日本では13人に1人がLGBTということになります。そう考えると、けっこうたくさんLGBTの人とも本当は会っているはずです。でも多くの人は、自分の身近にはたぶん1人もいないと思っている。ということは、LGBTを周囲に明かしていない人がたくさんいるということ、LGBTと周囲に伝えていなくても皆さんの周りにもいて、日々大勢に会っているのだということを知ってほしいと思います。
街や職場にカミングアウトしていない人たちがどれほどいるか。本当はいても気づいていないんですよね。その人がどんな性自認を持っていて、どんな性の人を好きになるのかは、見た目では分かりません。
LGBTの課題取り組みを全国に、自治体議員連盟がスタート
2017年7月、LGBTの課題を市議会議員や区議会議員として考えていこうという「LGBT自治体議員連盟」が発足しました。世話人の5人を含め、メンバーは全国から120名以上。全国の議員さんが、この課題を自分の自治体でもやっていこうと集まったんですね。LGBT自治体議員連盟の発足メンバーの一人に、東京都世田谷区の議員さんで上川あやさんという方がいます。この方は男性として生まれた人で、2003年から議員をされていて今4期目。ベテランの区議会議員さんです。
この方は中学生のときに性のことで悩み始めたそうです。自分は男なのに男の子が好きになってしまい、どうしてなんだろうと思ったと。けれども、「自分は心が女の子なんだ」ということに気が付き、さらに大変悩まれたんですね。ただそこで、親御さんにカミングアウトして相談したら「別に人を傷つけなければ、自分らしくいていいんじゃないか」と言ってもらえたんだそうです。最初に親御さんから温かい言葉をかけてもらえたことは、その後の人生に大きく影響したとおっしゃっています。
その後、大人になり社会に出て働くなかで、上川さんは男性から女性性別移行していきました。ただ、今は一定の厳しい条件のもと戸籍の性別を変更できる法律(2003年7月制定)がありますが、当時は法律がありません。外見が女性になっても、パスポートや戸籍、保険証といった公的書類の性別は男性のまま。ですから、病院や銀行に行けなかったり、引っ越しで家を借りるときに説明をしても断られたり。
そういった本当にたくさんの困り事、不便があったことから、上川さんはトランスジェンダーとして声を上げて活動するようになり、そして議員になったということです。
議連発足メンバーには他に、埼玉県の市議会議員で、生まれたときは女性であったトランスジェンダー男性の方がいます。それ以外の3名は東京都の区議会議員で、皆さんゲイであることをカミングアウトされています。この後も北海道の市議会議員のお2人が、1人はゲイであることを、もう1人は生まれたときは男性のトランスジェンダー女性であることを公表するなど、カミングアウトが続いています。
社会の変化とLGBT当事者、見えない存在から見える存在へ
今、社会には、これまでの日本社会では見えなかった人たち、見えないけれども実は存在する人たちが大勢います。彼らは皆、「存在の不可視化」という問題を抱えていました。けれども、時代が変わり社会が変わり、当事者である私たちの意識も変わりつつあります。周りに本当の自分を伝える、初めてカミングアウトをする方が少しずつ増え、広がってきている。このような変化が起きているということをぜひ知ってください。
これから恐らく、まだ身近にいないと思っている人の周りでも、実はゲイです、トランスジェンダーです、レズビアンですとカミングアウトする人が増えてくると思います。そういったときどのように対応してほしいかということをお話していきます。
「人と違っていいんだよ」安心して言える相手に
好きになる人の性別が同性であると、同性愛に気づくのは初恋のときだったという人も多いです。時期でいえば、小学校高学年から高校生あたりでしょう。でも「からだの性」と「心の性」が一致していないトランスジェンダーについてはもっと早い段階で気づく人が多いですね。幼稚園の頃や小学校低学年、もっと早い人では幼稚園入る前からと、多くの人がかなり早い段階で違和感に気づくということです。そうすると何が起こるでしょう? 自分のセクシュアリティが他の多くの子違うと気が付いたとき、その時点ではLGBTについて、性の多様性について、社会の中に前向きな情報がほとんどない。これが大きな問題なんですね。
学校教育の中で見ると、前向きに書かれていることはほとんどありませんし、親の側に知識がなければ、やはり前向きに受け止めてもらえないなど、特に親御さんに打ち明けることが難しいという問題もあります。
では、実際に学校では何に困るのか、トランスジェンダーの場合と、同性愛や両性愛など好きになる人の性別で分けて説明していきましょう。 男女別の考え方が根本にある学校生活では、いろいろなことが、あらゆる所で男女に別れています。トランスジェンダーの場合、自分の身体の性別と心の性別がずれているわけですから、その一つひとつを苦痛に感じてしまうんですね。
例えば制服、トイレ、更衣室。水泳の授業では指定の水着を着られないことからプールに出られなくなり、それがきっかけでからかいが始まったり、いじめられたり、不登校につながってしまうこともあります。また、一人称が「僕」か「わたし」かということも問題になります。
©photo-ac
学校生活には、性別によって行動することがたくさんありますから、自分の性別の違和感に気づいたときに、そのことを親に言える、先生に相談できる、場合によっては保健室の先生が助けになってくれることもあるかもしれません。安心して相談できる相手がいるか、これがすごく大切なんですね。
同性愛の人はどんなことで困るか
最初に直面する大きな問題は性教育です。保健体育の教科書に、「思春期になると異性を好きになるのは自然の気持ちです」というようなことが書いてあります。私は自然に同性を好きになっていたので、「じゃあ、私のこの気持ちって何なんだろう?」「私はおかしい? 異常なのかな」と、そういったメッセージとして受け取ってしまいやすいのです。そうなると、ますます友達にも誰にも言えないし、自分にも自信が持てない。自己肯定できないまま思春期を過ごすということにもなってしまうわけです。
また、男の子は女の子を、女の子は男の子を好きになるという前提でいろいろな会話が進みます。恋愛の話、恋バナも多いですよね。女の子なら「どんな男の子が好き?」と男性対象が前提で、それに対して「違うんだよ」とはなかなか言えません。
学校でのいじめはささいなことで起きてしまいますから、打ち明けたことでいじめのターゲットになるかもしれない。それが不登校に、ひどいときには自殺を考えてしまうことにもつながりかねないんです。
大人が「おかしくないよ」と毅然と話す必要性
子どもは感じたまま、自分とは異質なものに対して「気持ち悪い」とか「信じられない」とかいろいろなことを言います。ある子がそう言われたときに、例えば先生が、親御さんが毅然とした態度で「おかしくないよ」と言ってあげる。「世の中にはいろんな人がいるんだよ」ということを伝えてあげる。そういったことは、いつでもどんな状況でもできると思うんですね。小中学校の教科書には、まだLGBTについて書かれていません。けれども、家族の話、結婚の話などいろいろな話をするなかで、
「今は同性婚ができる国もあるよ」
「日本ではまだ同性婚できないけれど、パートナーシップという制度はあるよ」
「街中で同性のカップルを見かけることも珍しくはないよ」
そういった前向きな情報を大人が語っていくことはできます。これは、学校の先生だけでなく、子どもにかかわる全ての大人の人にお願いしたいと思います。
子どもはいろんな人の考えや言葉をメッセージとして受け取って、それらの考えがすり込まれていきます。
・(本当の自分については)言っちゃいけないんだ
・人に知られたらいじめられる
・(みんなと違ったら)友達がいなくなってしまう
そんなメッセージを受け取り続けながら、本当の自分のことを公言するのはなかなかできることではありません。ですから、(子どもの周りにいる大人が)「いろんな子がいていいんだよ」「困ったことがあったら相談してね」というメッセージを出してあげてください。
そして、性の多様性に関しても、これと同じスタンスを取ってほしいのです。
例えば、今はLGBTや性の多様性に関する本でも子ども向けのものが出ています。絵本にも、同性カップルや同性愛者が登場するお話は多くはないけどあるんですね。いろいろな本の中の一つとして、こういったものも一緒に入れておく。そんなことも周りの大人ができることの一つじゃないかと思います。
常識が社会生活の壁になる
日本の社会の中に(LGBTの人たちにとっての)困難があるという話をしました。その一つが、社会に存在するいろいろな常識です。(社会常識というものは、)生まれたときからシャワーのように浴び続けているさまざまな言葉――親の言葉、学校・先生の言葉、友達の言葉、メディアが伝える言葉――の中にあります。人はいろいろなところから、これが常識なんだというメッセージを受け取り続けているんですね。社会常識自体が悪いことなのではありませんが、その中には、間違ったもの、人を傷つけるもの、時代とともに変わっていくものがけっこうあります。そして、性の多様性やLGBTのことというのは、実際はTVの中にしか存在しないんじゃないかとか、遠い世界の話と考えていて、一緒に住み、一緒に学び、一緒に仕事をし、日々暮らしている街の中にもいるというイメージではあまり語られてはいません。そんな中で、偏見を恐れず本来の自分を公言するのは大変なことで、家族の反応を考えるとさらに難しいのです。
では、それを変えていくにはどうしたらいいか。普段の生活の中で、お母さんやお父さんや家族との会話の中で、多様性について話をしてみてください。
例えば、子どもが「アイツはオカマっぽくてキモい」みたいなことを言ったとしたら、親御さんが「そういうことを言われたら傷つく人がいるんだよ」「人はいろいろなんだよ」「人と違っていいんだよ」と言ってあげてください。
例えば子どもが、「女子なのに男子の格好をしている子がいて、それって変だよね」と――純粋にそう感じたことかもしれませんが――言うことがあれば、「いろんな子がいるんだよ」ということを、自然に伝えてあげてください。
後編はこちら
記事作成協力:立石彩子
講師:増原 裕子 LGBTコンサルタント。 慶応大学大学院フランス文学修士課程、慶応大学文学部卒業、パリ第3大学留学。ジュネーブ公館、会計事務所、IT会社勤務を経て現在株式会社トロワ・クルール代表取締役。 |
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