東京電力福島第一原発事故を巡り、業務上過失致死傷罪で強制起訴された3被告、元東電幹部の勝俣恒久元会長、武黒一郎元副社長、武藤栄元副社長の第二回公判が1月26日、東京地裁で開かれた。初公判から約7ヵ月、いよいよ今回から証人尋問が始まり、本格審理に入った。


当時の設備管理部部長代理が出廷
津波水位15・7mの試算
対策は先送りされた?

 前回の初公判で、検察官役を務める指定弁護人は、東電内部のサーバーから押収した社内外のメールを証拠として提出したほか、東電の子会社が想定される津波水位を試算し、原発の敷地の南側で海抜15・7mの高さに達する計算になった資料も提出。その後の社内会議で津波対策を見送ったとし、予見可能性を指摘した。これに対して被告側は「津波対策には時間がかかるため、責任はなかった」と罪状を否認し、無罪を主張した。

 そして迎えた第二回公判。検察側、弁護側双方の最初の証人として出廷したのは、東電の社内事故調査報告書の取りまとめを行い、地元自治体との対応役を担った原子力設備管理部部長代理(当時)の男性。「津波被害など事故を予見できたか。どのようにしたら対策が取れたか。社内で対策されたか」という点に尋問が集中した。

 さかのぼること2002年、政府の「地震調査検討推進本部(推本)」は福島県沖でも大津波を伴う大規模地震が起きるという長期評価を発表。これを受けて政府・原子力安全保安院(当時)が電気事業者に対し、耐震バックチェック(既存の原発が新しい指針に適合し安全であることを確認する作業)を指示。07年には新潟県中越沖地震も起き、柏崎刈羽原発も運転する東電は津波対策を迫られていた。社内の土木調査グループが調査し、いったんは津波への対策が検討されてきた。翌年6月10日の会議では「津波水位15・7m」の計算結果が武藤元副社長ら出席者に報告されたが、実際には対策が講じられず、この会議が対策先送りの重要なターニングポイントになったともみられている。

被災者や避難者らも裁判傍聴
事故の核心解明に期待

 証人の男性はその会議に出席しており、「それまでは5・7mとか6・1m程度の津波高とされていたので、15・7mという極端に大きい数値が出てきたことに違和感を持った」と説明。会議で配布された資料に「10mの高さの地盤に、さらに10mの高さで鉛直の防潮堤を建設する」という趣旨の記述がある点について「議論した記憶がない。実際に作ろうとすると基礎をしっかりする必要がある」と述べた。それに対して検察官役弁護士が、防潮堤建設の可能性について問うと、証人の男性は「配管などがあり工事は難しいが、不可能ではない」と、対策の可能性があったと述べた。

 裁判所は今後、20数人にものぼる証人尋問を予定。この中には、長期評価に携わった人や津波高の計算に携わった人なども含まれているとみられる。福島の被災者が最も知りたい「なぜ事故は起きたのか。防げなかったのか」という核心が徐々に明らかになることが期待される。

 公判後には、公判廷を開くきっかけになった告訴に参加する福島県民や避難している被災者ら、支援者が参加した集会が参議院議員会館で開かれた。福島から参加した女性らは「福島から東京に来るのは難しいことも多いが、できるだけ参加して、原発事故は防ぐことができたのかどうか、しっかり傍聴したい」と語った。

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公判後に参議院議員会館で開かれた福島県民や避難者、支援者らによる集会

 公判は2月以降、特に4月から6月は集中審理に入る。公判日程(予定)は以下の通り。2月28日(水、午前10時~午後5時)、4月10日(火)、同11日(水)、同17日(火)、同24日(火)、27日(金)、5月8日(火)、同9日(水)、同29日(火)、同30日(水)、6月1日(金)、同12日(火)、同13日(水)、同15日(金)。※開廷約1時間前から傍聴券抽選・配布。

(文と写真 藍原寛子)


あいはら・ひろこ
福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。
ブログhttp://ameblo.jp/mydearsupermoon/

*2018年2月15日発売の329号より「被災地から」を転載しました。

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