Genpatsu

昨年12月、福島第一原発を訪問。
むき出しの鉄骨、曲がった鉄筋-水素爆発の破壊力に圧倒された

東京電力福島第一原発が爆発し、広範囲に放射能をまき散らす最悪の事故が起きてから7年が経過した。今年も3月11日前後には、事故を忘れないように、また、原発ゼロを求めて、さまざまな催しが全国各地で企画されている。事故を起こした東京電力の当時役員の刑事裁判も始まり、注目を集めている(本誌329号)。





放射能汚染の強い帰還困難区域を除いて避難指示が解除されたが、戻った住民は1割程度、そのほとんどは50歳以上だ。避難継続を望む人たちに対する住宅支援は打ち切られる。被災地出身の子どもたちへの「いじめ」も深刻化している。また、福島県が実施している「県民健康調査」では、甲状腺がんまたは疑いのある人は調査回数を増やすたびに増加、17年12月時点で194人を超えた。全国平均よりも数十倍も多い割合だ。市民の手による支援も精力的に行われている。

筆者は昨年12月に福島第一原発を訪問する機会を得たので、今号では廃炉の状況について報告したい。主催したのは超党派の国会議員で作る「原発ゼロの会」だ。壊れた原発建屋の中には入れなかったが、間近に見る崩壊状態に改めて事故の凄まじさを実感した。圧倒されたのは破壊された3号機を間近に見た時だ。頑強に作られた建物が見るも無惨に破壊され、鉄骨はむき出し、鉄筋はくねくね曲がり、それにコンクリートの固まりがぶら下がっていた。改めて水素爆発の破壊力を思い知った。

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ドーム型の燃料取出し装置の設置が進む3号機建屋

その場の放射線量は毎時1・5ミリシーベルト! 東京などの生活環境(※)の3万倍も高い数値だ。建屋の中ではこの何十倍も高いに違いない。

(※)毎時0.05マイクロシーベルトとした場合

大きなタンク群も整然と並んでいた。循環水を除染した後の廃棄物のカートリッジが大量に並んでいるだけでなく、水の方もタンクに貯蔵されている。トリチウムという放射能が取り除けないからだ。その汚染水は100万㎥を超え、タンクは10日に1基ぐらい増設しなければならない。新しいタンクが運ばれてくる船着き場を見たが、メーカーによってタンクの大きさが異なるため、パイプの接続などでトラブルが起こらないよう目印がついていたのが印象的だった。この汚染水が海洋に放出されれば、漁業への被害(風評含めて)が予想されることから、地元の漁民は強く反対している。貯蔵を続ける必要があるのだ。

原発労働者は1日5000人以上
映像で判明、溶け落ちた原子炉底部

労働者の作業環境の改善は長期にわたる廃炉作業の継続には必須で、それなりに改善されているようだった(食堂は完備、しかも安価)。東電の説明では1日あたり5000人から6000人が働いている。しかし、広い敷地とはいえ、見学のバスから見える景色に人影はほとんどなかった。昼食時の人数も多くはなかった。被曝線量管理から一人あたりの1日の作業時間が非常に短いのかもしれない。

東電は、1月19日に2号機の格納容器に新しく開発したカメラを入れて中の様子を撮影したと発表。昨年2月に自走式のロボットを入れたが成果をあげないままに機能しなくなった。今回は手動でカメラを挿入し回収している。その結果、原子炉直下の様子を映像におさめることができた。映像には、破損した燃料集合体の上部のつかみや制御棒が映っており、原子炉の底部が大きく溶けて破損していたことがわかる。従来は溶融燃料の大部分は原子炉容器の内部に残っていると評価されていたが、今調査で覆った。また底部の溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)は露出、冷却のために振りかけている水は格納容器内には留まらず流れ出ていることもわかった。この燃料デブリの取り出しは非常に厄介であることが容易に想像できる。1号機では溶融燃料が床下のコンクリートを2m以上も溶かして固化しているとの評価がある。取り出し方法は19年度に確定するとしているが、時間が経てば経つほど、後始末の困難さが見えてくるようである。廃炉作業は政府と東電が掲げる40年ではとても終わらないだろう。(伴 英幸

(2018年3月1日発売、THE BIG ISSUE JAPAN 330号より)


伴 英幸(ばん・ひでゆき)

1951年、三重県生まれ。原子力資料情報室共同代表・事務局長。79年のスリーマイル島原発事故をきっかけとして、脱原発の市民運動などにかかわる。89年脱原発法制定運動の事務局を担当し、90年より原子力資料情報室のスタッフとなる。著書『原子力政策大綱批判』(七つ森書館、2006年)
http://cnic.jp/








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