「第3回大阪ホームレス会議~食のセーフティネットのいま~」のパネルディスカッションをレポートします。
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(4)利用者も参加のパネルディスカッション

■ディスカッションテーマ① 炊き出しやフードバンクを利用する側はどう思っている?-炊き出し、フードバンクを利用しているホームレス当事者の声

 高橋さんの基調講演をもとに行われたパネルディスカッションでは、まず、大阪市内で各支援団体が行う炊き出しやビッグイシュー大阪事務所でフードバンクを利用する3名のホームレス当事者の方が、利用した経験や感想、思いを語りました。
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パネルディスカッションの様子
 IさんとOさんは、路上で生活する際に現物をもらうことの意味など、まさに利用当事者ならではの具体的な内容を話されました。

Iさん
ホームレス状態だと外食が中心になるんですよね。そうすると(食費が)家にいるときの3倍くらいかかってしまうんですね。なので、現物を直接もらうというのは非常に助かるんですね。生活再建のための貯金ができるわけですから。
Oさん
自分とフードバンクとの関わりというと、炊き出しです。よくパンをもらうんですけど、たまにコーン入りのやつがありまして、あれが待ち遠しくてたまらないです(笑)。
 3人目のHさんは、初めて炊き出しに並んだ経験について話されました。その切実な内容に、100名を超える参加者が一層真剣に耳を傾けます。
食べることに不自由になって、炊き出しを食べなきゃいけないはめになりました。友達もいましたから、友達に「食うの困ってんねん、食べさせてくれ~」と言えば、食べさせてくれる友達はいたと思います。多分。でも自分は頼ることができませんでした。
それで、最後の最後、炊き出しに並んで、ホームレスと言われてるおじちゃんたちに交じって炊き出しを食べました。すごくおいしかったです。その時は、キムチ鍋に入ってる具を入れただけのおかゆだったんですが、ものすごく美味しかったです。本当に生きた心地がしました。
それを食べた時、本当に涙が流れました。「自分は自分で食べられない無力な人間なんか…」というのと、「何もできない自分に食べさせてもらった」というありがたさ、親に申し訳ないなっていう思い、「この先どうなるんやろう?」っていう色んな不安とか、色んな感情があって涙を流しました。最後に思ったのは、「これを食べた以上、どうしても生きていかなあかんな」っていうことです。それまでは死にたくてしょうがなかった。うん…。食べれないっていうのはね、本当…もう生きていくのが嫌になるんです。その思いは分かってほしいと思います。
 このような経験を経て、Hさんは助けを求めること、求められることについて次のように続けます。
今日来ていただいた方は、食とか貧困に関心のある方やと思います。どうしても…一番分かってもらいたいのは、食べさせてもらう、助けてもらうっていうのは、恥ずかしいことじゃないんです。食べれないって本当につらくて、生きてるのが嫌になるくらいです。そういう状況の人間を助けるっていうのはね、悪いことじゃないんです。で、助けを求めるっていうのも悪いことじゃないんです。助けてもらったら、その分、誰かを助ける、それでいいと思う。それだけは分かってもらいたいと思います。以上です。

■ディスカッションテーマ② 利益を生まない活動にモチベーションを維持できるのか

 当事者のHさんからは、支援活動をされているパネラーの方々に対し、「利益を生まない事業」を続けることのモチベーションについての質問が。
先ほど紹介させていただきましたHです。皆さんには我々…とてもお世話になってます。さきほど高橋さんも言われていたように、みなさんの活動は「利益を生まない事業」じゃないですか?そんななかで、みなさんはどのようなモチベーションで僕らのような者を助けていただいているのか、ご質問させていただこうかなと。
〇NPO法人フードバンク関西 理事長・浅葉めぐみさん「約20兆円の食べ物を捨てながら、食べ物に困る人がいる状況がおかしいと思った」 06
浅葉めぐみさん(NPO法人フードバンク関西 理事長)

日本は食品を半分以上輸入しているのに621万トン、お金に換算すると20兆円分の食べ物を食べられるのに捨てちゃってる国なんです。それなのに、今お話で次々と出てくるような大変なお暮しをされてる方たちがどんどん増えて行っているような流れです。これは絶対おかしいよ、というのがフードバンク関西の最初のモチベーションです。
意識しているのは、自分たちが相談事業とか就労支援をしているわけではないので、必ず行政やNPOと繋がる。ビッグイシューさんもそうだし、当事者のサポートをしておられる団体に食料を運ぶことで、この食料を使ってその方たちをサポートしてくださいね、という立場です。だから、食の中間支援みたいなかたちだけど、食べものをなるべくたくさん集めてたくさん配るということで頑張っております。
〇NPO法人炊き出し志絆会 理事・古市邦人さん「その活動のなかで我々も何かを得ているから、続いている」

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古市邦人さん(NPO法人炊き出し志絆会)

私たちの活動は始めて20年くらいが経っていまして、毎月必ず一回、最後の日曜日にカレーを800食くらい配るという団体なんですね。
うちは路上生活者への炊き出しをするということと、活動に参加してくれた人の行動や意識が変わるとか、そういうことも活動の一つとして定款に入れています。だから参加してくれた方に何か感じて頂くというのも価値があるんじゃないかなと思っています。 利益を生むものがないので全員持ち出しなんですけども、損してると言う感覚は多分なくて、その活動のなかで何かを得ているから、多分続いているんだろうと思います。
〇にしなり☆こども食堂 代表・川辺康子さん 「本当に頑張ってたら背中押してくれる人が出てくる」
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川辺康子さん(にしなり☆こども食堂 代表)
こども食堂を始めてもう4年になるんですけど、最初の2年は持ち出しでした。そこで苦労してるのを見かねてフードバンク関西さんに繋げてもらったりしたんです。最初の方は誰かに助けてもらうのが後ろめたいような気持ちがありました。だけど子どもに「しんどかったら人に助けてもらったらええねんで」って言ってる自分が「助けて」って言われへんのやったら、子どもらに言われへんわ…と思って。そこからちょっと言えるようになったんです。今は個人や企業からご寄付をいただいてなんとかやってるんですけども…。本当に頑張ってたら背中押してくれる人が出てくるな~というのが実感です。

■ディスカッションテーマ③時代の変化と「SOS」を出せる環境づくり

 続いて、支援者である炊き出し志絆会理事・古市邦人さんからは、当事者の方に対し、路上の様子の変化について次のような質問がされました。
うちは20年やってきて、当時の話を創設者に聞くと、結構、服がぼろぼろだったりとか、「ホームレス」と分かる方が結構並んでいたと。今は生活保護を受給されている方とか、身なりもある程度きれいな方が並んでいて、そうすると「炊き出し必要ですか?」っていう声も出てくるんですね。僕たちとしては、「いつ誰がきても毎月ここでやってる」っていうのが価値だと思っているんですが。ここ20年とか…何年でもいいですけど、変わってきていることとか、皆さんが感じてらっしゃることがあれば教えてください。
 こうした古市さんの質問に対し、当事者のHさんは「SOSの出しやすさ」という観点から炊き出しの意義について話されました。
メディアとかで一部言われるように、生活保護の人でお金を使っちゃって炊き出しに並んじゃう人たちもいます。でも、そんな人たちだからって食べられないっていうのはどうかなって思うんですよね。炊き出しで出されるものって本当に最低限のお腹を満たすだけのものなので、そこまでもその人たちから取り上げることもないかな~という気持ちもあるんです。
世間の人から我々当事者が「何もせんでも食べられるなんて甘い状況や」と、そういう目で見られてるっていう実感はあります。だけど、そういう風に見られると「助けて」って言えないんで、そこはちょっと大目に見てほしい。助けてって言わないといけない人たちが助けてって言える社会。それを僕らは訴えていきたいと思うので。

 Hさんからの、「『本当に困ってるのか?』と疑った眼差しを向けられると、当事者はSOSを出しにくくなる」という指摘をうけて、浅葉さん(フードバンク関西 理事長)からは、母子世帯を例に子ども食堂の可能性についての言及が。
母子世帯を支援している時にいつも思うんですけど、私たちが子どものころはみんな汚い恰好をしていたから困っている家庭の子も目立たなかったんです。だけど今は、子どもが悪く言われないように親が必死に子どもの衣服にお金をかける。そしたらお母さんは少ない収入で食費を削ってるんですよ。だから、「助けて」って言えない人も行けるような敷居の低い場所をたくさん作る必要があって、それには子ども食堂はいいな~と思っています。「誰でもおいで、友達連れといで」って。そうやって大きく誘いをかけて、自然と本当に必要な子たちを助けていこうっていうのが、子ども食堂の大きな役割だと思っています。
当事者のIさんも、見た目だけで判断することの問題を、携帯電話を例に次のように話しました。
見た目ではわからない、という話がありましたけれども、実は私、自分名義ではないアップルのiPhoneを持っているんですね。なぜかといいますと、清掃なんかの仕事で、雇い主の方から「お前、携帯なかったら使い物にならない」と持たされている。携帯もってないと仕事にならないんですよね。
その3に続く(3/27公開予定)



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THE BIG ISSUE JAPAN276号
特集:子どもの貧困 生まれる「子ども食堂」
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https://www.bigissue.jp/backnumber/276/ THE BIG ISSUE JAPAN321号
特集:食SOS!フードバンクのいま
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本イベントに登壇したフードバンク関西とフードバンクかわさきを掲載。
https://www.bigissue.jp/backnumber/321/







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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

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