「日々生きることに、目を向けざるえない身体」が踊りで表現するとき、何が生まれるのだろうか――そんな想いから、路上生活経験者によって結成されたダンスグループ「新人Hソケリッサ!」(以下、ソケリッサ)。
ビッグイシュー販売者も参加するソケリッサは、活動10周年を機に、東京近郊の公園、寺院、路上などでの「日々荒野」ツアーを続行中です(2018年9月まで)。ツアー#12となる公演は、南千住駅から歩いて十数分ほどの玉姫公園で行われました。そのときのレポートをお届けします。


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日時:2018年3月9日(金)18時~ 
会場:玉姫公園(東京都台東区清川2丁目13-18)
料金:投げ銭方式
出演:新人Hソケリッサ!/寺尾紗穂
来場者数:130名


玉姫公園があるのは、かつて大阪・釜ヶ崎、横浜・寿地区と並び、日雇い労働者の町として知られた地域。高度経済成長期には、全国各地から日雇い仕事を求めて多くの男性が集まった街も、いまでは高齢者が多くなっていると聞きます。玉姫公園をぐるりと囲むフェンスの向こう側には、ブルーシートのテントが小さな村のように並んでいました。
 
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「山谷」と呼ばれるエリアには、安い旅館やホテルが建ち並ぶ

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住宅地のなかにある広い玉姫公園

開演は18時ですが、まだ明るいうちからメンバーや設営スタッフが集合していました。メンバーがストレッチなどで身体を整える間、ボランティアの方々が会場で配るおにぎりを握ります。ソケリッサの踊りを見てファンになり、今回初めて手伝いに来たという人もいて、作業は和気あいあいとした雰囲気。

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「間に合わない!」と焦りながらも、笑顔のボランティアの方々

今回、共演するのは、シンガーソングライターの寺尾紗穂さん。寺尾さんの呼びかけで始まったビッグイシューを応援するイベント「りんりんふぇす」をはじめ、自身のPV撮影や全国ツアーをいっしょにまわるなど、ソケリッサとはこれまでに何度も共演してきました。

「楕円の夢」


出来立てのおにぎりをもって公園へ向かうと、リハーサルを行う寺尾さんのピアノと歌声が通りにまで響き、メンバーも歌声にあわせて自然と踊り始めます。それに惹かれるように公園を覗きに来て「夜の公演には来られないんだけど……」と、名残惜しそうに眺めていく人の姿もありました。

この日はあいにくの曇り空。暗くなるにつれて寒さが増しますが、公園にはどんどんと観客が集まっていました。ボランティアの方々がおにぎりといっしょに温かい飲み物を配ります。近隣の住人らしい高齢の男性は、最初は遠慮がちに入り口近くで立ち止まっていたものの、「あたたかい飲み物いかがですか?」と声をかけられると「ありがとうね」と笑顔に。

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この日は肌寒く、あたたかいコーヒーやおみそ汁が人気

辺りが暗くなり始めた18時、寺尾さんの演奏がスタートします。ピアノを囲むように置かれた折り畳み椅子はほぼ満席。立ち見のお客さんも多くいます。

歌にあわせて足でリズムをとるニット帽のおじさん、ソケリッサとは顔なじみの様子の若い学生、会社帰りにかけつけた風の人など、さまざまな人たちが暗い公園で歌に耳を傾けている光景は、外から見たらちょっと不思議かもしれません。でも、そこには静かでおだやかな時間が流れていました。



 寺尾さんがソロを何曲か歌い終わると、ソケリッサの登場です。メンバーの一人が中央に出て、ふと手をのばし踊り出すと、さっきまで歌の世界に包まれていた公園の空気が一変します。一人、また一人とメンバーが踊り、そして複数になり……。広い公園のなかを裸足で動き回り、服は土まみれ。ときに静かに、ときにユーモラスに、激しく、さまざまな感情を表現するような動きを観客もじっと見つめます。ふと見ると、見守る観客のなかに現役のビッグイシュー販売者の姿もありました。


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ソケリッサメンバーのアオキさんと伊藤さんの掛け合い(写真:河原剛)

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照明が次々に変化し、踊りにアクセントを加えていく(写真:河原剛)

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左から、横内さん、アオキさん、伊藤さん(写真:河原剛)

会場にいる子どもの声、周りの住宅の音、飛行機が飛ぶ音など、周囲の日常まで演出のように見えてくるのが、野外公演の面白いところ。昨年から続くツアーでは、基本的なプロットは同じなのですが、ネオン街であったり、お寺であったり、公園であったりと、その場所、その日の天気、そして共演するアーティストによっても、毎回印象が異なります。

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ソケリッサのパフォーマンスではお馴染みの、大道具を回すメンバー(写真:河原剛)

「日々荒野」の踊りがラストを迎えたあと、今回はさらに粋な演出がありました。メンバーそれぞれが好きな寺尾さんの一曲を選び、生演奏でソロを踊ります。「九年」「私の怪物」「柿の歌」など、メンバーによって選曲もさまざま。「この人は、どうしてこの曲を選んだのだろう」と考えながら、個性あふれるソロの踊りに引き込まれます。

 ソロが終わるたびに寺尾さんは、「最近、小磯さんは新作落語をつくっていますか?」「山下さんはソケリッサに参加してどうでしたか?」と、メンバーひとりずつと会話していきます。
 
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ソロを踊り終えた小磯さんと寺尾さんの会話(写真:河原剛)

「もともとダンスをやっていたんですよね?」と尋ねられたメンバーの西さんは、昨年からソケリッサに参加。メンバーでは珍しいダンス経験者です。「ずっとダンスをやっていたんだけど、カタチ、カタチばかりで嫌いになってしまった。ぐちゃぐちゃして、気づいたら路上に出ていて……」と西さん。再び踊り始めるきっかけとなったソケリッサは、どんな意味をもっているのでしょうか。

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メンバーの西さん(写真:河原剛)

いつの間にか小雨が降り出し、気づけば時間は20時近くになっていました。

 そろそろ公演も終わり……と思ったとき、思いがけないことが起こります。どうやら少し酔っているらしい男性が、ある歌謡曲を寺尾さんにリクエスト。寺尾さんがそれを受けてピアノを弾き始めると、マイクをもって隣で熱唱し始めました。すると、前列で見ていた別の男性から「引っ込めよ!」と、怒鳴るような野次。会場に一瞬、緊張感が広がります。

 しかし、落ち着いた様子で寺尾さんが一緒に歌い始めると、その歌声であっという間に寺尾さんの世界に。野次を飛ばしていた男性までもが、途中から「おじさんも歌いたいなあ」と言い出していました。

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歌い終わり、笑顔の寺尾さん(写真:河原剛)

最後に二人が「ありがとう! 楽しかった」と寺尾さんにお礼を述べると、会場からは大きな拍手が。嬉しそうな男性の顔に誰もが温かな気持ちになり、なんだか奇跡のようなひとときでした。

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公演、最後のパフォーマンスはお客さんと一緒に(写真:河原剛)

 最後は、外国人労働者を題材にした曲「アジアの汗」で締めくくります。ソケリッサのメンバー全員が踊り始めると、さきほどの男性も輪のなかに飛び込んで踊り出しました。さらにほかのお客さんたちも加わって、いったい誰がソケリッサのメンバーなのかわからないほど! まるでお祭りのようなにぎやかで楽しい雰囲気に包まれて、この日の公演は終わりました。


ソケリッサは活動継続のための寄付を集めています

ビッグイシュー販売者や路上生活者を中心に活動の幅を広げてきたダンスグループ「新人Hソケリッサ!」では、活動継続のための寄付を集めています。

路上をベースに山形や金沢など各地の芸術祭への出演のほか、2016年にはブラジル・リオ五輪公式イベント「With One Voice」に招待され、2017年からは、多くの人たちの力を借りながら東京近郊路上ツアー「日々荒野」公演を開催しています(2018年9月末まで)。

ツアー「日々荒野」は、路上にいる人、普段アートに触れる機会のない人など、誰もが観に来られるようにと料金は基本的に投げ銭形式。こうした活動を継続させていくために、ソケリッサでは活動趣旨に賛同してくださる方からの寄付のご協力をお願いしています。

この春より、ソケリッサを支える一般社団法人アオキカクでは「シンカブル※」内に応援ページを開設しました。マンスリー寄付や、クレジットカードによる寄付が可能になり、500円より受け付けております。ほか、公式HPからは銀行振込もご利用いただけます。寄付いただいた方にはお礼として、アオキカクよりメンバーの様子や公演のレポートなどを掲載した活動報告メール(年1回) をお送りする予定です。
※「シンカブル」とは、ソーシャルグッドな団体と個人や企業同士との繋がりを生みだすためのWEBプラットフォームサービスです。

―寄付お手続きの流れ

①こちらのURLより応援サイトにアクセス
https://syncable.biz/associate/sokerissa

②「支援する」→「クレジットカードで寄付する」を選択

③「継続寄付する」又は「今回だけ寄付する」タブのどちらかをお選びいただき、寄付金額の指定後、「次へ」を選択

④エントリー情報にご登録いただき、応援団体への寄付が完了となります(手数料が差し引かれた金額が寄付されます)
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みなさまの応援とご協力を
どうぞよろしくお願いいたします。

〇「シンカブル」応援ページ

〇ソケリッサ公式HP

【次回 公演予定】
・「カフェ潮の路 感謝の集い」出演
日時 4月29日(日)13:00~
会場 カトリック徳田教会 信徒ホール(沼袋駅より徒歩15分)



*メンバーの西さんは、2018年4月15日発売の『ビッグイシュー日本版』333号「今月の人」に登場しています。
https://www.bigissue.jp/vendor/333/






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ビッグイシューについて

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。