人口が減り、高齢化が進み、さらには移民受け入れへの反対意見も強まるなか、各国は先進的ロボット技術やアンドロイドに注目、この分野への投資を強化している。人型ロボットやアンドロイドは本当に人口減少や高齢化を解決するのだろうか。


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ロボット技術が期待される背景

現在、世界総人口の46%にあたる80か国以上で出生率が人口置換水準(一人の女性が一生のうちに出産する子どもの数を約二人とする)を下回っている。さらに、低出生率の状態が続くことで、2050年までには約50の国や地域で人口が減少すると予測されている。

高齢化が急速に進んでいる国も多い。先進国における年齢中央値は40歳を超えており、これは1950年より13歳も伸びている。 さらに2050年までに、約10カ国の年齢中央値は50歳を超えるだろう(日本は53歳に)。また、ギリシャ、イタリア、日本、ポルトガル、スペインなどでは2050年までに人口の3人に1人が65歳以上になる。その結果、潜在扶養率(65歳以上の人口を支える15歳〜64歳の人口の割合)も低下し、65歳以上の高齢者1人に対し、15歳から64歳の生産可能人口が2人未満になる予測だ。

加えて、移民受け入れに反対する声が強まっている。世論調査によると、ドイツ、ロシア、南アフリカ、トルコ、アメリカなど数十カ国で、移民受け入れは「非常に、またはかなり悪影響」という意見が多数を占めている。これを受け各国政府は国境警備を強化し、フェンス、壁、バリケードを築き、移民を厳しく取り締まっているのが現状だ。

身近になりつつあるアンドロイドがいる光景

このような背景から、各国は先進的ロボット技術やアンドロイドに注目し、この分野への投資を強化しているのだ。 労働力不足を補い、生産性向上、人件費削減、商品とサービスの改善を達成するために。

最近のロボット活用事例には、ピザ配達用自動運転車、一時間で1,000個のレンガを積み上げられるレンガ積みロボット(通常二人の男性が一日がかりで作業する量)、1時間で120杯のコーヒーを淹れるバリスタロボットなどがある。

労働者に対するロボット比率が高いのは韓国、日本、ドイツだ。世界のロボットの75%が、中国、ドイツ、日本、韓国、アメリカの5カ国に集中している。国際ロボット連盟(International Federation of Robotics)の予測によると、世界中で実装される産業用ロボットの数は2019年までに約260万体に増え、2015年のほぼ2倍になる見込み。

ロボット技術と人工知能(AI)の進化により、見た目も動きもまるで人間のようなアンドロイドが登場している。なかには、肉付きまで人間さながらのアンドロイドもある。そして、労働人口減少を補うだけでなく、一人暮らしの高齢者の話し相手になったり、簡単な健康管理サービスを提供したり、「3K仕事(きつい、汚い、危険)」をしたりなど、価値あるサービスを提供できると期待されている。

まだまだ開発途上ではあるものの、初期型アンドロイドを、工場、小売店、受付、案内所、病院、軍事施設、工業団地、テレビ放送などで見かける機会も増えた。 数年前、日本の科学者たちによって、完璧な言語能力だけでなくユーモア感覚も兼ね備えた世界初のアンドロイドアナウンサーが開発された。シンガポールの研究所で開発されたアンドロイドは大学の受付係として働いている。

かつては、人間社会にアンドロイドが登場するシーンなど、SF作家、映画人、未来学者が語るに過ぎなかったが、今や、科学者、イノベーター、産業界のトップたちが、AIを兼ね備えた人型ロボットによる変革の到来を論じている。

アンドロイドへの期待と脅威

そのメリットは、各国政府、企業、軍事機関、研究センターに広く認識されている。アンドロイドは単純な繰り返し作業だけでなく、人とのやり取りや会話ができ、カスタマーサービスや話し相手になり、人命救助など危険な仕事もものともせず、さらにはセックスの相手まで務まるのだから。

おまけに人間と違い、食料や金銭的報酬を求めない。疲れないし睡眠も必要ない。 ただひたすら指示に従い、恐れ、怒り、痛み、憂鬱など感じない。

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アンドロイドがより人間に近づくことで、社会への脅威となるかもしれないとマイナス面や危険性を懸念する声もある。高度な機械学習アルゴリスムによってロボットが自己学習し、自らの複製を作ることだって可能になるのだから。

ロボット技術の進化により大量の失業者が生まれ、タクシー業界から風俗業界に至るまであらゆる産業に打撃となると警鐘を鳴らす声もある。アンドロイドに過剰な愛着心を持ってしまう心配もある。初期型ロボットと違い、まるで人間のようにアンドロイドと接する人々がいることが、いくつかの調査で報告されている。 ロボットと「結婚」することを決意した男性のケースまで出てきた。

大量の失業者を生み出すことについては、過去にもラッダイト運動(19世紀初頭にイギリスで起った機械反対運動)が誤りだったように、結局はアンドロイドやロボット技術の発展によって雇用が増え、さらなる繁栄がもたらされ、これまでより上質で安価な商品やサービスが提供できるようになる、との主張もある。

近年のドイツとアメリカにおける事例では、ロボットの自動化プログラムが雇用の機会にプラスに働くことも証明されている。その一方、1990年以降、アメリカの工場に配備されたロボット一体につき、その地域の6.2人分の雇用が失われたとする経済調査もある。

求められるアンドロイドに関する法整備

これらの懸念に対し、「ロボット税」の導入が選択肢に上がっている。ロボット税によって国の歳入を増やし、職を失った労働者の再就職をサポートまたはベーシックインカムを提供するのだ。 人間の労働者枠を法制化すべきとの声もある。

また、アンドロイドの使用に関する法整備や基準策定が追いついていないことも懸念点だ。アンドロイドの登録、課税、法的責任、適用範囲、安全措置の取り決めなどはまだ序の口。実際の使用となると、ハッカー、サイバー犯罪者、テロリスト、ロボットを操って人・モノ・環境に危害を与えようとする者たちからの保護の方がよっぽど深刻な問題だ。

すでに40カ国以上がロボットプログラムを用いた無人爆撃機を所有している。まずはロボットおよびアンドロイド開発を軍事利用し、兵士の危険リスクを減らし、諜報活動、監視、偵察能力を強化させたいのだ。

ロボット技術の進化によってアンドロイドや武装したロボット戦闘員が戦場に現れ、より多くの国々が戦争に巻き込まれるのではないかと国際ロボット武器管理委員会(International Committee for Robot Arms Control)は危ぶんでいる。そこで、ロボット&AI関連企業116社(26カ国)が集まり、殺人ロボットや自律式殺傷兵器システムの禁止を求める嘆願書に署名した。人間を殺せるのは人間のみに与えられた権利であるとの主張だ。

アンドロイドは人口減少や高齢化の対策になるのか、それとも人間社会を脅かすのか。来たるアンドロイド変革時代に向けて、国際社会は今すぐアンドロイドの使用についてグローバル協定を結ぶ道を模索すべきである。

By Joseph Chamie
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo

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