結果を出す人、偉大な業績を成し遂げる人というのは、自分とは遠くかけ離れた存在に感じるが、
その他大勢の人とは何が違い、どのようなマインドセットなのか気になったことはないだろうか。

心理学者のジョアナ・アマラル・ディアスはこう説明する。

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ジョアナ・アマラル・ディアス(心理学者)
困難を乗り越えるには、実際の難題に直面した時に「大きな自信」と「やる気」を持っていなくてはなりません。この二つは、もうひとつの心理学的特質「不屈の精神」と関係してきます。

事態を打開できる人、ありきたりな結果を受け入れず物事を克服する人というのは、自分の能力 に揺るぎない自信を持ち、士気にあふれています。

世界的登山家が壮大なゴールを達成するまで

困難を乗り越えた人物といえば、ポルトガル人登山家のジョアン・ガルシアがその一人だろう。彼は16歳の時にエストレーラ山脈(ボルトガル本土で最高峰の山脈)にある登山クラブでロッククライミングを始めて以来、情熱のおもむくままに世界の名だたる危険な山に命を賭けて登り続けてきた。

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 ジョアン・ガルシア(登山家)

2010年4月、彼は無酸素かつシェルパなしで8,000メートル級の14の山すべて(エベレストを含む)の登頂に成功した世界で10番目の登山家となった。同年12月にはオーストラリアのコジオスコ山に登頂、これをもって世界7大陸の最高峰に登る「セブン・サミット・プロジェクト」を完遂させた。

50才を迎えたガルシアは言う。
初めて8,000メートル級の山に登った時には、14の山すべてに登り切るなんて思いもしませんでした。

この目標を立てた時に思ったんです。必ず達成できる、そのために戦い抜けると自分を信じなければと。私自身、手の届かない夢を信じられる人間ではありませんから。
彼は自己啓発をテーマにした講演活動も行なっている。いわく、優れたパフォーマンスを達成するのに必要な要素は、「情熱」「誠実さ」そして「たゆまぬ努力」だ。

まず必要なのは、その行為に対する「情熱」。大きな困難や意志の弱さを乗り越える助けになってくれます。次に、自分自身に「誠実」であること。つまり、やり方を決めることが大事です。アスリートが自分に打ち勝つには、自分に素直でなければいけません。そして、しっかり準備を整えて「たゆまぬ努力」をすること。

幸運とは、チャンスと準備が揃った時に生まれるもの。しっかり準備していれば、やる気のある最適な人間のもとにチャンスは訪れてくれます。

しかし、誰もが自分自身を乗り越えられるわけではない。意欲や興味が足りないと、輝かしいキャリアを築く障壁になる。

ガルシアは言う。
私は目標を立てたら、それに向けて時間を区切り、ぼんやり夢見るようなことはしません。小さなゴールをいくつか設定し、その達成に向けてアクションを起こします。

大きな目標を達成することより、夢を見始め、計画を立て、準備を整え、遂行する、その全プロセスこそがとても楽しいのです。

「不屈の精神」は幼い頃から育むもの

情熱、プロとしての目標、個々人の境遇 - これらとは別に、逆境を乗り越えるにあたって自分ではどうしようもならない「外的要因」というのもある。

心理学者のディアスは述べる。
「不屈の精神」というのは、教育や良好な人間関係など、基本的ながら現代社会ではますます得難くなっている要素に関わってきます。家族と良い関係を築けているか、社会から十分なサポートを受けられているか、といったことです。良質な社会活動に参加する、親しく深い人間関係を築くための時間があまりない世の中ですから。
「不屈の精神」や「問題対処能力」は、遺伝的なものではなく幼い頃から育んでいくものなのだ。
子どもに心を砕く時間的余裕がない社会になってきていますが、生まれて最初の数年は、人としての基礎能力を確立させるうえで非常に大切な時期です。その能力には、言語、学習、運動技能や「不屈の精神」のような心理的なものまでを含みます。しかし、子どもの世話に十分に時間を割けない親が増えているなど、この努力が図りにくい社会環境となっています。

問われているのは、自分には何ができるようになるかを信じること

哲学者で人間運動技能開発学部の元教授、スポーツ関連で50冊以上の著書があるマヌエル・セルジオは言う。
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 マヌエル・セルジオ (哲学者、元大学教授)
生きるとは、自己を乗り越え続けること。どんな能力を兼ね備えていようと、人は常に発展途上にあるのです。生きるとは壁を乗り越えていくこと。それが人生の意味なのです。
何を信じるか、何がその人にインスピレーションを与えるかは、それまでの人生で培った価値観によって決まってくる。
それなくしては人間らしく生きられないという価値観があります。私たちはそれらを自らの存在に組み込み、忠実であらねばなりません。そうすることで、困難を乗り越える力が得られるのです。

信じることが私たちを存在させている、この点を忘れてはいけません。身体的にも精神的にも進化していける人というのは、自らの価値観から、「もっと力をつけられる、もっと速くなれる、もっと強くなれる」と信じるからなのです。

By João Martins
Translated from Portuguese by Dr Julier Attwater
Courtesy of CAIS / INSP.ngo







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