路上生活者および路上生活経験者のメンバーで構成されたダンスグループ、「新人Hソケリッサ!」。
10周年企画 東京近郊路上ダンス 「日々荒野」ツアーが行われている。
14回目の会場、国立奥多摩美術館でのパフォーマンスをレポート。
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新人Hソケリッサ! 10周年企画 東京近郊路上ダンス
「日々荒野」ツアー#14 国立奥多摩美術館
日時:2018年5月26日(土)・27日(日)16時~
会場:国立奥多摩美術館 東京都青梅市二俣尾5-157
料金:500円(入館料)
参加メンバー:アオキ裕キ、小磯、横内、山下、平川、西、渡辺
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ソケリッサ「日々荒野ツアー」#14の会場は、東京・青梅市にある「国立奥多摩美術館」。ちょっと変わった場所です。
駅からの道のりですれ違ったのは山伏の格好をしたグループだけ(写真:河原剛)
ここで、国立奥多摩美術館の館長でもあるアーティスト・佐塚真啓さんの個展「生きろ② 冬はさむい夏はあつい」が開催されました(2018 年5月4日~27日)。その最終週の企画として、ソケリッサの公演が行われたのです。
登山や川遊びに向かう人たちが多いJR青梅線に乗って、「軍畑」駅で下車。東京とは思えないほどの緑に囲まれた国道沿いを歩くこと15分弱。目的の住所に現れたのは、古い製材所を利用した、なんとも味のある建物でした。
会場のなかには、木材だったり、写真だったり、さまざまなものが置いてある
会場のなかには、木材だったり、写真だったり、さまざまなものが置いてある
受付では、まず「展覧会、作品鑑賞による危険実害事項に関する同意書」が渡されます。アトリエとしても使われているという建物では〈予測不可能な不可抗力によるけがまたは物品損害の可能性が、様々な場所に潜んでいます〉と書かれていました。なんだか少しびっくりしますが、実際には、きちんと椅子も用意されていて、木材や制作物などに囲まれた空間は美術室や図工室を思い出すような落ち着いた空間です。
右上のつぼにはいっているのが「おみくじ」。番号を伝えると、ひとこと書かれた紙が渡された
サインをして入館料を払うと、なぜかおみくじを引くようにすすめられます。そして、係の人によって受付横にある小さな暗室へと誘導されました(!)。おそるおそる中に入ると部屋は真っ暗。ソファに座ると、ぼんやりとした小さな電球の下に作業着で立った佐塚さんが、突然、叫ぶように全力で歌い出します。
「来た時よりも美しく……」「君はどこから来たの。帰るところは一緒だろう……」
不思議な言葉、独特の表情と雰囲気に、いきなり吸い込まれてしまいました。
これは佐塚さんのパフォーマンス。会場には、ほかにも下記のようなさまざまな作品が展示されています。
●木片5点。どこかで拾ってきたり買ってきた物
●カナヅチの絵30点。
●ひもの絵13点
●ひもの立体2点
●石1点。「真弾邪石」10年以上前拾ってきた物。
(※展示内容は公式SNS#https://www.facebook.com/moao.jp/から)
さて、ソケリッサの公演は16時~。会場の床には、すでに赤いカーペットが敷かれ、観客もその周りに自分の場所を見つけて思い思いに座っていました。
踊る場所と観客の距離はすごく近い。誰がスタッフで誰が観客なのか……?
ソケリッサの公演は、メンバーのソロからスタート。このツアーが進むにつれて、メンバーがソロで踊る機会も増えてきました。使う曲もそれぞれが自由に選んでいることもあり、一人ひとりの個性や隠れた内面が一層にじみ出るようです。
(写真:河原剛)
(写真:河原剛)
「日々荒野」の後半では、佐塚さんも参加。先ほどのパフォーマンスと同じ歌声が響くなかで、ソケリッサが踊り続けます。
(写真:河原剛)
「あいつらだって、必死に生きていて……」。展覧会の「生きろ」というテーマに、歌詞と踊りが結びついて、ソケリッサの表現がいつもと違った意味を帯びて見えてくるようです。これも、コラボレーションならではの面白さ。
(写真:河原剛)
(写真:河原剛)
とてもユニークな空間で行われた、今回のソケリッサ公演。共演者はもちろんのこと、その場所、その時間、そこに集まったお客さんによって、一つひとつの公演はそのとき限りのもの。そのことをあらためて感じる内容でした。
(写真:河原剛)
パフォーマンス後は、佐塚さんとソケリッサメンバーでのトークイベントが行われましたので、その内容も一部抜粋して紹介します。
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ソケリッサ!×佐塚真啓トークイベント「荒野」
(文中敬称略)
会場の床に座ってトークイベントがスタート。館長の佐塚さん(右端)とソケリッサのメンバー。(写真:河原剛)
佐塚:去年の冬から、奥多摩美術館では個展形式の「生きろ」という企画をやっていて、これが第二回目です。普段、この奥多摩美術館という企画では、僕は館長という立ち位置で、自分の作品を発表することはしていないんですが、今回はここで作家として作ったものをみてもらおうと。そして、この今日のソケリッサのイベントはアオキさんからコラボレーションしたいという連絡をもらって、ぜひやりたいなと思いました。
この企画のシリーズ名「生きろ」は、副館長、永畑と話をするなかで決まりました。この色々な所で使い古されたダサい感じ、でも、人間の普遍的なところに触れているような感じが僕はいいと思っています。
「生きる」だと、個人のなかで「がんばるぞ」みたいな感じがしますが、「生きろ」だと、生きなきゃならないというか、自分の意思というよりも大きな何かに動かされている感じがする。この「生きろ」企画は、「作るぞ」といって作っている人よりも、作らざるを得なくて作っている人を紹介する企画にしたいと思っています。
アオキ:自分たちは、路上生活者および路上生活経験者のメンバーで構成されたダンスグループです。自分は「生きろ」っていう意識をしなくても時が過ぎていくような状態で日々を過ごしていて、そういう身体で人前で踊っていましたが、そのことを疑問に感じていました。
そうしたら、あるとき街角で路上生活のおじさんが寝ていました。クーラーのきいたところで過ごすような環境ではないので、寒さや暑さを感じて日々生きることに向き合わざるを得ない。その身体から生まれる踊りは、僕にはないものがあるんじゃないかと思って、福祉的な考えではなくて、その興味からおじさんたちと一緒に踊るようになりました。
それから10年目になり、いまは都内近郊で路上ツアーをしています。いろいろな場所でやらせてもらって、そこで踊ることで何が生まれるのか、そこで出会う人たちとの関係性から何が生まれるのか、そういうことに自分は興味がある。佐塚さんの感覚に僕はすごく得るものがあると感じて、今回の企画に至りました。
(写真:河原剛)
佐塚:ソケリッサの踊りは、誰にも似ないですよね。一人ひとり違う。それは「身体」の大きなところ。身体ってすごい自分を構成しているものの要素として大きいなって思っています。
「ドランゴンボール」という漫画で、主人公の悟空とギニュー隊長というのが身体を入れ替えるシーンがあるんですね。悟空がすごく強いから、身体を入れ替えたら強くなるだろうと考えたんですけど、結局身体の使い方がわからないっていう描写があったんです。たとえば、そこに置いてあるものを自分の腕の長さなら立ったままとれるけど、ほかの人の身体だと屈まないといけないかもしれないですよね。自分を構成している身長とか体重とか、そういうものってすごく大きくて、それをソケリッサのみなさんは踊りに出しているような感じがしました。
アオキ:自分はおじさんたちに会うまで、美術と踊りなら美術のほうが自由だって思っていたんです。ダンスってどこかで型を求めて、不自由さがあって、もっと進化できるはずなのに止まっている気がしていました。でも、こうして違うアプローチに出会うことができて、その自由な美術に近い部分を感じています。
佐川:ただ「面白いね」ってことだけで、僕はいいと思っていて。見る人の心が動くから「面白い」と思うわけで、心が動かなければ面白いも何もない。逆に言えば、「イヤだ」って思わせるのも心を動かしたことになる。対極にあるのは、全然「無いもの」になってしまうこと。面白いっていう言葉だけで終わらせてしまうのは、ちょっと足りない感じもありますけど、そういう心を動かすものをソケリッサは作っている気がします。
(写真:河原剛)
〈会場からの質問〉
●「作品について」
アオキ:今日の作品は「日々荒野」というもの。池袋のサンシャインシティ横に公園があって、そこは谷底みたいになっているんです。そこに路上生活のおじさんが静かに休んでいます。谷底のようでもあって、母の子宮のような空間でもある場所。そこからスタートしています。そこに石ころが転がっていて、みんな普通にそれを蹴飛ばしているけど、その石ころは自分よりもずっと前からあって、ずっと先まで世の中を見続けます。その石ころから見たら、この世の中はどうでもいいことに価値を置いて過ぎているような、「日々荒野」のように見えているんじゃないかと。そういう意味でこの作品が生まれてきました。
(写真:河原剛)
●「普段はどこで練習していますか?」
アオキ:「四谷ひろば」という廃校を改修した施設で、週2回は集まって3時間くらい練習しています。今日の振りは、メンバーそれぞれが自分でつくっています。みんな身体つきも違うし、個性的な部分がたくさんあるので、「この人の何が見たいか」を自分は大事にしています。
ただ「歩いてください」というんじゃなくて、たとえば「月の上を歩いてください」とか、想像を掻き立てるものをプラスして伝えると、自分のなかにあるものをふくらませるような、より特徴のある歩き方になる。そこには、自分の身体の記憶や、自分がやりたいこととかが出る。だからメンバーそれぞれに振りをつくってもらう形がすごくいいと思っています。
(写真:河原剛)
●「ソケリッサに入った経緯やメンバーになったことでの変化など」
小磯:私はソケリッサを始めたのが64歳のとき。それまで自分の人生を振り返って、積み重ねてきたものが何もないと感じた。あるのは身体ひとつ。いつも何かあると逃げてきたけど、もう64歳になって逃げる場所は天国しかない。そうなる前に、と思いました。いちばん最初は、ビッグイシューの販売をやっていて身体がつらくなったときに、販売仲間からソケリッサの練習でストレッチでもやれば身体が楽になるよって言われて始めたんです。それが5年前。
平川:メンバーになったことでの変化は……とくにないです。別にないです(笑)。
あまり多くは話さないメンバーですが、トークはなごやかな雰囲気で進行(写真:河原剛)
西:自分は路上で生きていたけど限界がきて、そのときに、たまたまビッグイシューが発行している『路上脱出ガイド』のコピーを持っていたんです。そこには、緊急シェルターの場所や生活保護の申請方法とかも書いてあるんですけど、もう人生をあきらめていたので助けてもらうことには興味が湧かなかった。緊急シェルターに避難したって、そのあとにやりたいことがあるわけでもないし……。
ただ、ビッグイシューは自分で雑誌を売るという感じだったので、これだったらと思いました。もともと自分は踊りをやっていて、その世界で壁にぶつかったので、二度と踊らないつもりで路上に出た。だけど、ビッグイシューの事務所に行ったら、その日のうちにスタッフの人からソケリッサを紹介されました。アオキさんが書いた文章に感動して、手伝いたいと思ったんです。最初はもう踊るつもりはなかったから、ただ手伝うつもりで。でも……気づいたら踊っていました(笑)。
(文:中村未絵)
ソケリッサは活動継続のための寄付を集めています
ビッグイシュー販売者や路上生活者を中心に活動の幅を広げてきたダンスグループ「新人Hソケリッサ!」では、活動継続のための寄付を集めています。ソケリッサを支える一般社団法人アオキカクでは「シンカブル※」内に応援ページを開設しました。マンスリー寄付や、クレジットカードによる寄付が可能になり、500円より受け付けております。ほか、公式HPからは銀行振込もご利用いただけます。寄付いただいた方にはお礼として、アオキカクよりメンバーの様子や公演のレポートなどを掲載した活動報告メール(年1回) をお送りする予定です。
※「シンカブル」とは、ソーシャルグッドな団体と個人や企業同士との繋がりを生みだすためのWEBプラットフォームサービスです。
―寄付お手続きの流れ
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みなさまの応援とご協力をどうぞよろしくお願いいたします。
〇「シンカブル」応援ページ
https://syncable.biz/associate/sokerissa/
〇ソケリッサ公式HP
http://sokerissa.net/
2018年の「東京近郊路上ダンスツアー」日程については、上記をご確認ください。
【次回 公演予定】
東京近郊路上ダンスツアー #15 「TENOHASI夏祭り」出演
会場 東池袋中央公園(東池袋駅より徒歩7分)
日時 2018年8月11日(土)15:00~
釜ヶ崎芸術大学ツアー in大阪
会場 太子老人憩いの家
日時 2018年8月13日(月)・14日(火) 13:00~15:00
釜ヶ崎芸術大学ツアー in京都
会場 京都芸術センター
日時 2018年8月17日(金)・18日(土)
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。