ホームレスの人々に無料住宅を提供 – こうした対策に懐疑的な人たちがいる。税金がもったいない、家賃を稼ぐため一生懸命働いてる自分たちは何なのだ、という発想だ。しかし、路上生活者を放置しておくと結局はよりコストがかかり、その負担は社会全体で負わざるを得なくなると、カナダのストリートペーパー「Alberta Street News」が指摘している。
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カナダのアルバータ州の州都エドモントンでは、ホームレスの人々のためにあるはずの無料住居こそが非常に敷居の高いものとなっている。ホームレス問題解消を目指した10カ年計画も今年で9年目を迎えるが、何かしら抜本的対策を打ち出さなければ全く終わりが見えない状況だ。
防水シートやショッピングカートなど手当たり次第の道具で仮住まいする人々。
北部に位置するこの街のホームレスの人々は、凍傷(指や足の切断に至ることも)や肺炎など寒冷地特有の症状や疾患に悩まされている。しかし、彼らの死にまつわるコストは報告書類には出てこない。
「〇〇さんはどうしたの」と誰かが聞けば、「車椅子が雪にはまって凍死した」とか「▽▽は肺炎を患っていたけど、退院したその日の夜、氷点下のなか野宿していて突然息を引き取った」という具合に路上の噂話どまりだ。
そんな極寒期のためにシェルターや防寒施設が存在するわけだが、肝心の当事者らが施設への立ち入りを禁止される事態もあるという。以前、私の自宅の裏庭でひとりの女性が寝ていたことがあった。なぜ女性用シェルターに行かないのだと尋ねると、出入りを禁止されたからと言う。アルバータ市内で80年以上の歴史を持つホームレス支援団体「ホープ・ミッション(Hope Mission)」への出入りも禁じられていると言うから驚いた。たとえ彼女が扱いにくい人であろうと、厳しい寒さの中に放り出すことになるのにどうして追い返すことができるのか。
エドモントン市が策定した新5カ年計画
2017年秋、エドモントン市はNPO「ホームワード・トラスト(Homeward Trust)」とともに新5カ年計画を策定した。そこには、市内に4,000人いるとされるホームレスの人をひとり残らず保護するには6年間で2億3千万カナダドル(約193億円)の設備投資が必要となること、この公約が実現されれば2022年までに市内の慢性的かつ一過性のホームレス問題に決着をつけられるとしている。
この新5カ年計画では、住居関連の支出拡大に加え、運用資金やホームレス問題介入への財源確保も要求している。具体的には、現行の年間3,500万カナダドル(約29億円)に加え、年間3,000万カナダドル(約25億円)の上乗せだ。さらには、「2020年までにシェルター入居者や路上生活者が長期的にホームレス状態とならないこと」、支援を必要とする者は誰でも「21日以内に住居やサポートを得られる」など、具体的な数値目標も設定されているのが特徴だ。
エドモントン市内の空き地で野宿する人々
計画どおりに実施すれば、今後10年で約2億3千万カナダドル(約193億円)の経費削減になります。警察、医療サービス、緊急時システムの利用を減らせるからです。
「ホームワード・トラスト」のCEO、スーザン・マギーは当計画による財政的メリットを強調する。
適切なサポートならびに施設建設にかかるコストは、そうしない場合の75%で済みます。長期間ホームレス状態にあった人も、自分の住まいを持てれば、多くの場合は再び身を立てていけることが我々の活動からも分かっています。
2016年、エドモントンでは市民の約1%がホームレス状態を経験したと推定されている。その多くが心の病にかかっていたこと、48%がカナダの先住民(編集部追記:ファースト・ネーション、メティス、イヌイット等)だったことも判明している。
ホームレス支援の3大要素
2013年度の報告書「カナダにおけるホームレス問題の現状(The State of Homelessness in Canada)」によると、カナダ全体のホームレス問題対策費は年間70億カナダドル(約5,800億円)に及んだ。これは、問題の根本原因に積極的にアプローチせず、場当たり的な対応に終止していたためだ。
対症療法ではコストが高くつくのだ。警察、裁判所、刑務所、緊急治療、長期入院、非常用シェルターなど緊急時サービスに依存することになるからだ。また、ホームレス状態が慢性化することで、心身の健康問題、依存症、障害に苦しむ可能性が高くなり、長期的コストも発生してくる。
積極的な対応(アファーマティブ・アクション)を取らないとコストが高くつく、報告書にはそう明記されている。
例えば、ひとりのホームレスの人を施設に収容した場合にかかる平均月額は以下のとおりだ。
(単位はカナダドル)
– 病院のベッド代:10,900ドル(約91万円)
– 州刑務所:4,333ドル(約36万円)
– シェルターのベッド代:1,932ドル(約16万円)
– 家賃補助:701ドル(約5万8千円)
– 公営住宅:199ドル(約1万7千円)
カナダのホームレス問題について情報提供をおこなう「ホームレス・ハブ(Homeless Hub)」が2017年夏に各都市ごとのホームレス対策費を正確に算出した。
(単位はカナダドル)
モンクトン: 29,000ドル(約240万円)
トロント: 59,000ドル(約495万円)
バンクーバー: 53,000ドル(約445万円)
ウィニペグ: 45,500ドル(約382万円)
モントリオール: 53,000ドル(約445万円)
各都市とも、資金の大半が「医療サービス」(薬物治療、救急医療、心のケアを含む)に当てられていたのは想定どおりだ。(バンクーバーで48%、モントリオールとトロントで40%)
二番目に大きいのは「法的コスト」で、収監、警察とのやりとり、裁判所への出頭などを含む。(トロントが一番高く25%、他の都市では15%〜20%。)またエドモントン市内では、ホームレスの人々が存在するだけで罰金を科されることがある。例えば、公共空間で飲酒すれば違反切符を切られ、立ち小便して「ポイ捨て」の罰金が課された者もいる。もちろん電車の無賃乗車も罰金対象だ。罰金が払えないと逮捕令状が出され、拘置所に収容される。
三番目に大きいのは、「シェルターや支援住宅コスト」だ。これも都市によってばらつきがあり、モントリオールで約18%、他の都市は10〜14%程度だった。
エドモントン市内の空き地で野宿する人々
都市によって問題が異なるため地域別対策も必要となってくるが、総じてホームレス対策として支出ニーズが高いのは、「医療」「法的コスト」「シェルター」の3要素であることは明らかだ。
By Linda Dumont
Courtesy of Alberta Street News / INSP.ngo
写真:Linda Dumont
Hope Mission
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Homeward Trust
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Homeless Hub
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