ビッグイシューでは、ホームレス問題や活動の理解を深めるため、高校や大学などで講義をさせていただくことがあります。
今回、ビッグイシュースタッフと、販売者の勝俣潤一さんが訪れたのは、神戸学院大学ポートアイランドキャンパス、現代社会学部社会防災学科の「社会貢献実習I」の授業。
現代社会学部社会防災学科では、キャリア教育の一環で学生たちに通常の講義では得られにくい現場の生の声を聞いてもらい、自分で課題解決の方法を考えてもらうのだそう。
当日は、防災学習の専門家である、神戸学院大学の諏訪清二先生らにもお立ち会いいただきながら講義を進めていきました。 はじめに、ビッグイシューのスタッフが、事業や販売者が登場する映像をもとにビッグイシューを紹介。
・ビッグイシューはイギリス発祥の雑誌。
ホームレス状態からの自立を応援する目的で作られ、ホームレス状態でもその日から販売を始められる
・雑誌販売価格350円のうち180円が販売者の収入になる
・記事は世界約100カ国のストリートペーパーのネットワークで共有し、内容は貧困問題だけではなく多岐にわたる
といった説明の後、配られたビッグイシュー本誌に掲載の連載記事「今月の人」を題材にしたワークショップ。「今月の人」に登場する販売者が、なぜホームレス状態になったのか、原因を考えてから、その人がどういう性格で、どういう人物な可能性があるのか、意見を出し合っていきました。
グループディスカッションの結果、このような意見が出てきました。
ホームレスになる原因は?
「会社の倒産や失業」「親の介護にともなう離職」
「家庭内や人間関係によるストレス」
「ギャンブル」
スタッフからの補足:
「ほかには、災害で家を失ってしまった方もいます。ただ、ホームレスになる原因は、災害や失業のようなひとつの大きな要因だけではなく、本人の力ではどうにもできない複数の社会的な問題が折り重なってなる場合があります。」
ホームレス状態になるひとってどんな性格?
「真面目」「家族思い」
「ストレスをため込みやすい」
スタッフからの補足:
「ホームレスの人と一口に言っても、真面目だったり、いつもニコニコしてる優しい人もいます。つまりホームレスとは、そのひとの人格とは結びつかないということです。人間性を言い表したものではない、あくまでホームレスという状態にある人、としか言えません」
なぜ再就職できないのか?
「年齢制限に引っかかって採用されない」「保証人や連絡先の住所や電話番号がないと採用されない」
「採用されたとしても、給料が入ってくるのが1ヶ月以上後だと、無給の期間をやり過ごす余裕がない」
スタッフからの補足:
「皆さんが挙げたようなことのほかにも、職に就くためのハードルがたくさん存在します。
行き場を失ったひとがホープレスに、つまり希望を失い、ホームレス状態になっていく。生きていく意欲まで失ったひとにできる支援は、一歩ずつ自分で決めて自分で行動していただく機会を提供することです。ビッグイシューでは、それぞれの人格、人間性を持っている、個人としてのホームレス状態のひとたちに対して、自立のためのサポートをしています」
**
ビッグイシューの事業の説明の後は、「三宮オーパ2・ダイエー神戸三宮店前」と、「ポートライナー三宮駅改札前」の売り場に立つ販売者の勝俣さんに自らの体験を話してもらいました。
職場でのいじめにあい、命を断つため樹海でさまよった5日間
勝俣さんは関東地方の出身。
サラリーマンとして勤めていたときに、会社の上司や同僚からのいじめ、嫌がらせがエスカレート。転職を決意します。
しかし再就職先が見つからず、アルバイトとして働きますが、その職場でもトラブルがきっかけで辞めてしまい、だんだんと自暴自棄に。
そのときの精神状態はかなり深刻だったそうです。
この後、勝俣さんは自ら命を絶とうと、富士山麓の青木ヶ原の樹海へ足を踏み入れてしまいます。
「お酒で酔いつぶれ、このまま樹海に飲み込まれてのたれ死んでしまえば…」
もうそれしか考えることができず、樹海でさまよい続けます。
樹海の中を5日間、あてどなく歩き続けていたところに、突然どしゃ降りの雨が。
勝俣さんの意志をさえぎるかのように行く手を木々に阻まれ、足元も泥まみれに。
それ以上先に進めないと悟り、勝俣さんはようやく自殺を踏みとどまります。
幸いにも樹海を脱出できたあとは、駅から列車を乗り継ぎ、大阪へ。
しばらくのあいだ大阪で、ネットカフェを拠り所としながら路上暮らし。
そんな折にネットでビッグイシューのことを知り、すぐにビッグイシュー日本の大阪本社へと向かい、販売者となりました。
勝俣さんは現在、ビッグイシュー日本を母体に作られた、住宅や医療など総合的なサポートを行うNPO法人ビッグイシュー基金の紹介で、安く借りられる神戸市内のアパートに入居しています。
生死のはざまにいたときのことも淡々と話してくださった勝俣さん。
勝俣さんは40代。今後の目標はお金を貯めて、再就職を目指すことです。
そんな勝俣さんのお話を聞いた後は、学生の皆さんから質問が挙がりました。
Q:家族には頼れないのですか?
「東京にいた頃の事情もあり、家族とは音信不通です。小さい頃団地に住んでいて、祖父がお酒を飲んでよく家族とケンカになったり、祖母に暴力を振るっていました。それで自分が働きだしてからは、家族とは疎遠になっていきました。」
Q:後悔してることはありますか?
「私は話し下手なんですが、昔いた会社で嫌がらせを受けたりイヤなことがあったとき、誰かに自分の気持ちをうまく話せたり、誰かに相談できてたらどうだったかな、とは思います。当時は、会社のなかで孤立したというか、誰にも見放された感じがして、辞める前に会社のひとや、会社以外のひとにでも相談してみようという考えがありませんでした。」
Q:これまででビッグイシューは1日最高何冊売れましたか?
「5年ほど前から販売していますが、1日最高70冊くらい売れたことがあります。」(1日で70部はすごい!学生からもどよめきが起こりました。)
Q:ビッグイシューの販売を始めて、これまでで嬉しかったことは?
「長い時間お客さんが来なくて、だんだん声も出なくなってきて、それでもやっと1人来た!ってときは、嬉しいですね。不思議とまた声が出るようになります。あとやっぱり差し入れは嬉しいです。以前は手作りのお弁当をいただいたこともありました。 」
Q:今はつながりを感じられていますか?
「ビッグイシューの事務所に雑誌の仕入れに行くと、同じ販売者の方に声をかけられたりしたときは嬉しいです。なかなか自分から声をかけられないですけど。」**
「やるべきこと」を「自分ごと」へ
課題のピックアップと実現への道を考える
次に、ビッグイシューの持つ問題や課題を考え、それに対してどんなアプローチで解決できるか?をグループで考えました。あるグループが考えた「課題」
・販売者の心と体のケアが必要
・販売者の再就職
・1人きりで売らなければならない、孤独な販売者
といった課題が想定されました。
それに対してのアプローチとしては、
・心理カウンセラーや医療関係者と協力する
・ビッグイシュー販売のための研修を定期的におこなう
・販売者の卒業後を見通したビジネススキルを合わせてつけてもらう
・お客さんの応対や仕入れなど、仲間とともに協力しながら販売してもいいのでは?
といったアイデアが出てきました。
編集部補足:
ビッグイシュー基金ではプロボノによるコーチングや、医療従事者による健康診断、月に1度の「サロン」交流会での情報提供・情報交換などを行っています。
卒業後のビジネススキル、については、現状「今日、明日を生き抜く」が精いっぱいの方も多いのでなかなか手が付けられていませんが、履歴書の作成や就労を支援するための機関につなぐなどのサポートを行なっています。
**
現状を知り、当事者の話を聞き、課題は何かを考える。
そのうえで、「案」を出していき、それを実現する方法を考えることが、「普段の学び」と結びついていっているようでした。
授業を受けての感想
「勝俣さんのお話を聞き、つらい思いをしたり、会社の環境や人間関係が悪くなって仕事を辞めてしまったことがわかりました。周りの人になかなか頼れなかったり、家族ともうまくいかずにホームレス状態になってしまったということを聞き、ホームレス状態に誰もがなってしまう可能性はあると思いました。それは社会環境の問題であり、みんなで解決しなければならないことであると感じました」
「グループワークの時に、ホームレスのイメージをみんなで言いあったが、ホームレスは家がないという状態のことを指すのに、人と話すのが苦手そうとか、意思が弱そうなどの偏見で人を判断していた。 また、ビッグイシューの記事は内容が濃いことや人生相談のコーナーで人気の人がいることなど、初めて知ることがたくさんあった。」
など、学生さんのなかにいくつかの「気づき」があったようでした。
▼他の販売者の講義でのメッセージもチェック!
・「野垂れ死のう」と思っていた元自衛隊員の販売者がインターナショナルハイスクールの高校生たちに伝えたこと
・小学生からビッグイシュー販売者へ鋭い質問!/大阪市立八幡屋小学校6年生の”キャリア教育”の出張講義
・「ホームレスになったのは誰のせいだと思いますか?」という高校生からの質問に、販売者が答えた内容とは/大阪府立豊島高校の道徳の授業
小・中・高校での人権・道徳・キャリア教育の授業
大学での貧困、自己肯定感、社会的企業について出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
まずは学校でビッグイシューの「図書館購読」から始めませんか
より広くより多くの方に、『ビッグイシュー日本版』の記事内容を知っていただくために、図書館など多くの市民(学生含む)が閲覧する施設を対象として年間購読制度を設けています。学校図書館においても、全国多数の図書館でご利用いただいています。図書館年間購読制度
※資料請求で編集部オススメの号を1冊進呈いたします。
https://www.bigissue.jp/request/
過去記事を検索して読む
ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。