日本で難民申請する人が増え続ける中、東京に次いで申請者が多いと言われる名古屋地区で、難民の生活支援とともに、法的な側面からのサポートを行う「NPO法人  名古屋難民支援室」。コーディネーターを務める羽田野真帆さんと橋本暁さんに、難民問題の今を聞いた。

日本への難民申請、年間2万人。
認定数は7年連続で1%以下ー長い手続きは2次的迫害に

「難民」と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、どこか遠い国の難民キャンプの子どもたち、あるいは国を逃れて海を渡るボートピープルの姿を想起する人もいるだろう。実は日本にも毎年多数の難民が保護を求めてやって来ているのだが、その人たちのことをイメージできる人は多くないのではないか。名古屋で難民支援を行う羽田野さんと橋本さんは、日本にやってくる難民の背景を次のように語る。
難民というと子どものイメージがあるかもしれませんが、日本で難民申請する人は成人男性がほとんどで、難民として認定されたら母国に置いてきた家族を呼び寄せようという方が多く、ルートは空路が一般的です。ではなぜ日本に逃れてくるのかとよく聞かれますが、単にビザが最初に下りた国が日本だったとか、身の危険が少なさそうだからといった理由がほとんどです。

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コーディネーター 羽田野 真帆さん

 昨年、日本政府に難民申請した人は約2万人で過去最高を更新。申請者数は増加の一途をたどる一方、実際に難民として認定されたのはわずか20人だ。認定は各国が批准する難民条約の基準(※1)をもとに審査されているが、日本の場合、その認定率は7年連続で1%を下回り他の先進国と比べてケタ違いに低く、さながら「難民鎖国」とも呼べる状況が続いている。特に支援の現場では、ほとんどゼロに近い認定数の少なさもさることながら、認定手続きの長さが大きな問題と二人は言う。
日本では難民として認められるまでに平均2年4ヵ月、長い場合は5年以上かかるのですが、たとえばウガンダで政治的思想を理由に迫害を受けた女性は7年を要しました。政治活動をされるほど活力あるたくましい人でしたが、あまりにも長く不安定な生活を強いられたために精神的なダメージを与えられました。また別のアフリカ出身の男性は、母国に残してきた家族に迫害が及ぶという予断を許さない状況下で、いつ認定されるかわからない不安な日々を過ごされました。そうした人たちは本来、迅速に保護されるべきなのに、認定が必要とされる人ほど手続きが長くなってしまうというおかしな状況が存在し、2次的迫害とも言える環境が作り出されてしまっています。

法的・生活面の支援を行う団体設立、当事者の経験を丁寧に引き出す。
なぜ、メディアの“偽装”報道

 名古屋難民支援室の開設は2012年。それまでは地元の弁護士らが個別に支援していたが、近年の難民申請者の急増を受けて、組織的な支援体制が必要になったことが団体設立のきっかけだった。スタッフとして加わる二人は、いずれも学生時代から難民問題に関心を寄せていたという。「学生時代に難民認定を受けた方と出会う機会もあって、目の前の困っている人に対して自分が何か行動することでより良い方向に変えていける仕事に魅力を感じた」と羽田野さん。また、橋本さんは「命の危険もある厳しい状況に置かれた人たちが、日本に逃れてきて働くこともままならず、再び困難を強いられているのはおかしいとずっと思っていた」と話す。

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コーディネーター 橋本 暁さん

 同団体では、地域に在住する難民に対して法的支援と生活支援を実施。法的支援では、複雑な難民申請手続きをサポートするほか、本人からの聞き取りや母国の情報を集めるなどして、難民認定の判断材料となる迫害事実の証明にもできるだけ対応している。また、難民申請中は就労の許可が下りないことも多いため、彼らが生活困窮状態に陥らないよう専門の支援団体の協力を得ながら、食料、住居、医療などの支援を行い、セーフティーネットの確保に努めているという。直近では、就労を主目的とした偽装難民の問題がメディアで報道され、あたかも日本の難民申請者のほとんどが偽装であるかのようなイメージを持たれかねない状況に危機感があると話す。
就労が目的であることと、難民となってしまうことは、それぞれ別のことではあるのですが、同時になり得ることでもあるのです。というのも、たとえば特定の民族や宗教上の理由などで差別や迫害を受け、教育も受けられず、働けるところも見つからないので生きていけないという状況の方が日本に逃れてきて、審査官の前で『働きたい』と答えた場合に、その方を偽装難民だと切り捨てるようなことがあってはならない。難民の方全員が自分の経験を難民の定義にあてはめてうまく説明できるわけではないので、そこを丁寧に引き出すのが私たちのやるべきことでありますし、また審査官の仕事でもあると思います。

孤立する難民と市民をつなぐ。日本語教室などの継続運営が課題

 2018年からはファイザープログラムの助成を活用し、「孤立する難民と地域社会の市民をつなぐ関係構築プロジェクト」をスタート。これは従来の法的および生活面の支援に加え、難民当事者が地域に溶け込めるような定住支援も必要との判断から取り組んでいるプロジェクトだ。まずはアフガニスタンやウガンダ出身の難民の方を講師に招き、料理教室を開催した。当日は10~15人の近隣市民が参加して、郷土料理を通じ親交が深められ、会話に花が咲いた。参加者からは「講師の出身国をより身近に感じることができた」と好評だったという。

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難民当事者が講師を務める料理教室

 加えて、プロジェクトでは料理教室などのイベントにとどまらず、調査も実施している。支援を必要としている人へのアウトリーチ(※2)などを目的とした外国人コミュニティの訪問調査や、難民向けの日本語教室運営に関する調査も行っている。
難民に対する行政からの支援が整わない中で、彼らが孤立することのないよう、地域の人にも難民の存在が身近にあることを伝えていきたい。そのためには顔の見える関係性をどれだけつくっていけるかが大事なので、料理教室も日本語教室も、継続的かつ自主的に運営できる仕組みをつくっていけたらと思っています。
 日本において難民問題は、社会課題の一つとして捉えられているとは言い難い。しかし、難民が暮らしやすい社会は日本人にとっても良い社会になるはずだと二人は言う。
今は経済が優先で、外国人の受け入れというと、どうしても単なる労働力として考えがち。でも、彼らにも祖国で身につけた技術やスキルがあるので、難民を含む外国人が自分の能力を日本で活かして生きていけるような社会になれば、それは日本人にとってもプラスになると思う。それに難民の人がより良い生活ができる社会というのは、他者への想像力を持ち、一人ひとりを大事にする思いやりにあふれる社会であって、ひいては日本の社会的弱者の人たちも暮らしやすい社会になるはずだと確信しています。
※1 難民として保護されるのは、「人種、宗教、国籍若しくは特定の社会集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受ける恐れがあり、出身国に帰れない人」などと定めている。

※2 予防的な支援や介入的な援助が必要な場合、支援者が被援助者のもとへ直接出向き支援すること。


(団体情報) 
NPO法人 名古屋難民支援室 
名古屋を中心とした地域での難民申請者の急増を受けて、12年に設立。翌13年に法人格を取得。国際保護を受けるべき難民が法的に保護され、安定して自立した生活ができるよう、一人ひとりへの法的および生活面での支援を行っている。
連絡先 070-5444-1725

※寄付のお申込み先

・郵便振替での寄付
郵便振替
口座番号:00810-5-214832
加入者名:特定非営利活動法人 名古屋難民支援室
三菱UFJ銀行
支  店:名古屋市役所出張所
口座番号:普通0017380
口座名義:特定非営利活動法人 名古屋難民支援室

・不要になったノートパソコンの寄付
メール(info@door-to-asylum.jp)か電話(070-5444-1725)でご連絡下さい。

【ファイザープログラム~~心とからだのヘルスケアに関する市民活動・市民研究支援】

製薬企業ファイザー株式会社が、2000 年に創設した社会貢献プログラム。
医薬品の提供だけでは解決することのできない「心とからだのヘルスケア」にかかわる様々な社会的課題に取り組む市民活動・市民研究への助成により、“心もからだも健やかな社会”の実現を目指す。創設以来、300 件以上のプロジェクトを支援。特定非営利活動法人市民社会創造ファンドの企画・運営協力のもと、市民活動のさらなる発展を応援している。
https://www.pf izer.co.jp/


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『ビッグイシュー日本版』の「難民」「市民ネットワーク」「国際交流」関連号

THE BIG ISSUE JAPAN340号
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日本で暮らす難民の人々が置かれている状況や、その支援活動について、NPO法人「難民支援協会」の石川えりさん、ラジオ番組「難民ナウ!」の宗田勝也さん、弁護士の駒井知会さんに話を聞きました。
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THE BIG ISSUE JAPAN295号
特集:「国境こえ、ともに生きる 市民の国際ネットワーク」
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