ビッグイシュー販売者の濱田進さんが主宰する街あるきクラブ「歩こう会」が100回目を迎え、2018年5月27日、記念イベントが開催された。ホームレス当事者が読者や応援者らとともに歩いた11年におよぶ活動を振り返りつつ、初夏の大阪の街を歩いた。


DSC09700_kakou

地元なのに知らないことに驚く
時空を超えた船場ビルディング

え、なにあれ!! 斬新すぎでしょ!!
日曜の朝、人もまばらな北新地の歓楽街。連れだって歩く参加者の列から驚嘆の声が上がる。一行の行く手に現れたのは、高層ビルのそばに鎮座する巨大なミラーボールのごとき構造物。1400年の歴史があるというお堂、堂島薬師堂だ。すかさず案内役の濱田さんが解説する。「聖徳太子が四天王寺を創建する際、木材を積んだ船が暴風雨で難破して流れ着いた島に建てたのがこのお堂。昔はこの辺一帯は川に挟まれた中州でして、お堂が建つ島だから堂島という地名になったそうです」。奇抜なUFOさながらの外観からはおおよそ見当がつかないお堂の由緒ある歴史に、一同は興味津々。未知との遭遇よろしくモダンすぎるお堂をしげしげと眺め回していた。

syugo


 この日、濱田さんが選んだのは、堂島にあるビッグイシュー大阪事務所前から淀屋橋・北浜周辺まで、中之島界隈を歩く約5㎞のコース。特に大正時代から昭和初期にかけて建てられたレトロな建物を巡る街歩きだ。コース一帯は梅田に隣接する大阪の中心地で、関西の人間にとってはなにかとなじみ深い場所。だが、濱田さんが案内する先々では、時代を感じさせる建造物はもちろん国産ビール発祥の地や米市場の跡地など、知られざる大阪の風景や歴史がぽっかりと口をあけていた。
arukoukai_map


 初めて参加したという30代の男性は「大阪在住なのに知らないことばかりで、驚きの連続」と楽しげな様子。また、10年来の読者という夫婦は「中之島公会堂で息子が結婚式を挙げたこともあって参加したが、妻のテンションが高すぎて明日が心配です」と語っていた。

koukaidoumae

 なにより参加者のテンションが最高潮に達したのは、船場・淡路町にある大正モダン建築の船場ビルディング。外観はいたってシンプルだが、ひとたび中に入ると、広い木製レンガのスロープの先にレトロモダンな吹き抜けのパティオが姿を現し、まるで時空を超えた別世界に舞い込んだよう。参加者らは、思わずうなるほどの魅力ある空間にしばし見入っていた。

案内人として頼もしい濱田さん
根っからのウォーキング好き

学びを目的にした堅苦しさもなければ、ただのブラブラ歩きでもない。ひとりで歩いている時には見過ごしていた意外な風景や思わぬ発見に出合えるのが「歩こう会」の魅力だが、会を主宰する濱田さんも根っからのウォーキング好き。ホームレスになる以前は銀行や公立図書館、製菓会社などに勤める一方、北海道から九州まで全国のウォーキングイベントに参加。最長で一晩50㎞を踏破したこともあるという。そんな経験から、健康増進と大阪の街の再発見、そしてなにより「販売者やビッグイシューを応援してくれるみなさんと交流できる場にできたら」との思いで2007年1月に会を発足。以来、ビッグイシュー読者や応援者、スタッフ、ボランティアを巻き込み、大阪市内を中心に年9回のペース(7・8・12月を除く)で街歩きを開催してきた。

____1


 歩くコースも、街歩きのホームページや歴史出版物などを参考にしながら自ら企画。参加者が気持ちよく歩けるよう事前にひとりで下見をして、トイレや休憩できる場所を予め確認しておくほか、2~3時間で無理なく終われるようコース設定しているという。

lunch

 今回の記念イベントでは、街歩き後に茶話会と「歩こう会」の足跡を振り返る時間が設けられたが、配布された小冊子には100回のコース記録がずらりと並ぶ。そのなかでも特に思い出に残るコースとして濱田さんが挙げたのは、1回目の大阪七福神めぐり、50回目の池田市、そして昨年の高槻市摂津峡の3つだった。「僕は普段から街の片隅にある自分しか知らない発見をするのが楽しみで歩いていますが、歩こう会を11年も続けてこられたのは喜んでくださる参加者がいてくれたからこそで、僕ひとりでは到底できなかったこと」と濱田さん。

IMG_0275

 09年から会に参加する常連メンバーの山根洋子さんは「濱田さんの鋭い方向感覚や距離感覚は超能力のようで、喜連瓜破のかつての環濠集落の面影を残す迷路のような道でもスッと迷わずに出てこられたのが特に印象的だった。コース選びも含めて濱田さんについて行けば安心して楽しめる。感謝の一言に尽きます」と話した。

 100回記念となった今回は、実に約50人もの人が参加。数人規模の普段のアットホームな雰囲気とは違ったが、参加者からは「ゆるくて気を遣わないでいられる居心地のよさがあった」との声が多く聞かれた。初参加の60代の女性は、「入念な準備とよどみないガイド、それに無理なく歩けるちょうどよい距離で、会が100回も続いた理由がわかったような気がした。濱田さんは中身を知れば博学でユニークかつ人にあたたかい、まるで船場ビルディングみたいな人だと思った」と感想を聞かせてくれた。

 そして、会の最後には、ビッグイシュー基金の佐野章二理事長より濱田さんに感謝の言葉が贈られた。「ビッグイシューは仕事をつくるだけでなく、クラブ活動を通してみんなで楽しみを共有し、会と時間を重ねることで、ひとつの独自の世界、“ホーム”をつくった。100回の時間を重ねつくった空間、その先をも味わえる幸せをともにつくり続けたい」

sanosanto

 今後も、歩こう会は大阪府下に範囲を広げながら参加者とともに歩き続けるという。
(稗田和博)


<この記事は2018年7月1日に発売された『ビッグイシュー日本版』338号からの転載です>

次回は9月24日の予定

日時:2018年9月24日(月・祝)午前10時~13時
集合場所:京阪本線守口市駅東改札口
コース:駅~文禄堤~江戸川乱歩住居跡~一里塚跡~瓶橋の跡~盛泉寺~難宋寺~大塩平八郎ゆかりの書院跡~守口宿本陣跡~松下記念館~西三荘駅
※小雨決行です
※かさ、帽子、おやつなどは各自ご持参下さい。

「歩こう会」についてはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://bigissue.or.jp/event/145/

ビッグイシュー・オンラインの『歩く』『濱田さん』に関する記事

▼濱田さんの歩こう会の他の回の様子をレポート。

歩こう会・祝!50回「一人ではここまで続けるのは無理だった。 何気なくあるものに気づく楽しみを参加者の方々と共有できたらうれしい」

・ 「歩く」ことで生まれるコミュニケーション・アイデア/ビッグイシュー販売者が100回企画してきた「歩こう会」とは

▼台風などの悪天候の日、野宿している濱田さんはどう過ごしているのか?
大雪、台風、ゲリラ豪雨…そんな日、ビッグイシューの販売者はどうしている?


『ビッグイシュー日本版』「歩く」関連号

THE BIG ISSUE JAPAN269号 
特集:ゆっくり歩く、旅― ロングトレイルをつくる!
pic_cover269
https://www.bigissue.jp/backnumber/269/


THE BIG ISSUE JAPAN331号 
特集:てくてく。あるき旅
331_01s
https://www.bigissue.jp/backnumber/331/






過去記事を検索して読む


ビッグイシューについて

top_main

ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。