路上生活者および路上生活経験者のメンバーで構成されたダンスグループ、「新人Hソケリッサ!」。10周年企画 東京近郊路上ダンス「日々荒野」ツアー最終公演でのパフォーマンスをレポート。

 2017年6月に、テラススクエア エントランスホール(千代田区)での第一回公演から始まったソケリッサの「日々荒野」ツアー。それから1年以上にわたり東京近郊での公演を続けてきましたが、いよいよ今回がファイナル。会場は、東京・豊島区にある東池袋中央公園です。

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都会に埋もれ、木々に包み込まれているような東池袋中央公園

東池袋中央公園は、「日々荒野」の作品が誕生した場所。ツアーが始まる前の昨年3月に、初めてここで踊りました。その後、公園や広場、農園や寺、アートスペースなど、さまざまな場所とさまざまなアーティストとのコラボレーションを経て作品も踊りも変化していきました。

以前、アオキさんはこんな風に話しています。
池袋のサンシャインシティ横に公園があって、谷底みたいになっているんです。そこに路上生活のおじさんが静かに休んでいます。谷底のようでもあって、母の子宮のような空間でもある場所。そこに石ころが転がっていて、みんな普通にそれを蹴飛ばしている。だけど、その石ころは自分よりもずっと前からあって、自分よりずっと先まで世の中を見続ける。その石ころから見たら、この世の中はどうでもいいことに価値を置き過ぎていて、「日々荒野」のように見えているんじゃないか――そういう意味でこの作品が生まれてきました。
まさにツアーの最後を飾るには、ぴったりの場所なのです。

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メンバーとボランティアを中心としたサポーターが公演準備を進めていく

 多くの観光客でにぎわうサンシャインシティの裏にある東池袋中央公園は、特定非営利活動法人「TENOHASI」が定期的に炊き出しを行っている場所でもあります。ツアー最後の公演は、そのTENOHASI恒例の夏まつりの一環として行われました。午前中に沖縄・辺野古の新基地建設に反対するデモが行われていたため、午後の公園にはデモの参加者と夏まつりの参加者が入り混じっています。
 13時にはTENOHASIによるそうめんの配食が始まり、14時からは公園の片隅に備えられた祭壇で慰霊祭が執り行われました。この1年間に池袋の路上で亡くなった人を追悼して、地面に敷いたシートの上に多くの人が集まります。

公園の中央では夏まつりに協力している大塚モスクのイスラム教徒の人たちが、かき氷の準備をしていました。その近くで、ソケリッサのメンバーも輪になってストレッチを始めます。

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輪になっていつものようにストレッチを始めるメンバー

しかし、公演時間まであと30分というところで、降り始めた雨が段々と強くなってきました。開始予定の15時半になると、雷が鳴り響くほどの大雨に……! 

そういえば、全15回のツアーの間も、何度か雨に見舞われました。傘に囲まれた錦糸町の駅前広場、泥まみれで踊った井の頭公園、あまりの悪天候で山谷・玉姫公園での公演が中止になったこともありました。でも、雨も風も夜の闇も、そのなかでじっと佇む観客も、その場所にある何もかもが、いつもソケリッサの舞台美術のように見えてくるのが不思議です。大雨も、ツアーのファイナルらしいといえば、らしいのかもしれません。

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裸足で身体を慣らしながら、感触を確かめる渡邉さん(左)と伊藤さん(右)

ソケリッサの公演前に予定されていた別グループによるブレイクダンスと演奏は、この雨で中止が決定。ソケリッサも公演開始を遅らせて空の様子を見ていましたが、「お客さんも来ているから、いいタイミングでやりましょう」とアオキさん。メンバーたちも、水たまりに足を突っ込んでふざけたり、踊り出してみたり、まったく動じる様子はありません。

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あっという間に大雨に。雷も鳴り響き、観客もスタッフもテントに一時避難

少しだけ雨足が弱まった頃、公演がスタート。横内さんが踊り始めました。

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横内さんの踊り出しで最終公演スタート

テントや傘の下、木陰に入って雨をよけながら、円を描くように集まってきた観客がソケリッサの踊りを見つめています。配られたかき氷を食べながら、じっと眺める夏まつりのおじさんたち、携帯カメラを掲げて撮影する若い人たちの姿も。

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慰霊祭や炊き出しなど、他のお客さんもソケリッサの踊りを眺める

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雨にもかかわらず、多くの観客がソケリッサを取り囲んだ

水たまりに倒れこみ、びしょ濡れになりながら裸足で踊るメンバー。顔や身体から水がしたたり、シャツも泥だらけです。雨音にセミの鳴き声もまじって、やっぱりソケリッサには雨が似合う気がします。隣でかき氷を食べていたおじさんが、「おれ、上野でも見たよ」とつぶやきました。

音楽が途切れると、地面に敷いた赤いカーペットの向こうから、竹の棒を抱えた3人が現れます。

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路上に敷かれたレッドカーペット。日常が一変してダンスの舞台に

振り返ってみると、「日々荒野」ツアーが始まってから、メンバーも増え、それぞれがソロを踊る場面も増えていきました。コラボレーションする相手によっても、踊る場所によっても、同じ作品なのに違って見えるようでした。繊細さ、大胆さ、怒り、いびつだったり、臆病だったり、照れが見えたり、飄々としていたり……ソケリッサの踊りには、いろいろなものが現れます。

最初のうちは「踊りは特別なもの」と身構えて見ていましたが、ツアーが進むにつれて、誰のなかにも、その人の踊りがあるのかもしれないと思うようになっていました。

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観客目前でのパフォーマンス。見ている側とのコンタクトも表現の一部

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雨脚が激しくなる中で踊るアオキさん

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数年来、ソケリッサで使い続けてきた回転舞台を囲み、公演は佳境へ

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1年以上にわたるツアーを共にしたメンバーたち

踊るソケリッサを囲むのは、年齢も国籍も背景もまったく違う観客。これも「日々荒野」ツアーの魅力です。
フィナーレでは、ヘルメットをかぶって公園の奥へとメンバーたちが消えていきます。

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雨中で誰もいない広場、奥へと去っていくソケリッサ

さすが、と言うのでしょうか、ソケリッサの公演が終わった途端、雨は止んでいました。
大きな拍手を送る観客の前で整列したメンバーが、最後に一人ずつ挨拶をします。「みなさんのおかげで無事にツアーが終了して感無量です」と話す横内さんは涙声。ずぶ濡れのメンバーの身体からは、白い湯気がのぼっていました。

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ソケリッサの原点ともいえる路上から始まった「日々荒野」ツアー。公演を終えたメンバーたち

「ツアーはファイナルですが、ソケリッサとしては、これからまた始まる」と西さん。まだまだソケリッサの踊りは続きます。たくさんの出会いを経たソケリッサ。ツアーを終えて、どんなことを感じているのでしょうか。この先の公演も楽しみでなりません。

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この先の活動に向けてカンパの呼びかけ。公演料を取らないのは、誰でも観ることができるようにという配慮から

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最後の公演を終えて、ほっとした表情に

 (文:中村未絵)

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日時:2018年8月11日(土)
会場:東池袋中央公園(TENOHASI主催 夏まつり内)
料金:投げ銭形式
参加メンバー:アオキ裕キ、小磯、横内、伊藤、平川、西、渡邉
(写真はすべて河原剛)
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【次回 公演予定】

りんりんふぇす2018 出演
会場 東京都港区「梅窓院 祖師堂」
日時 2018年10月27日(土) 13:00~(開場)/14:00~(開演)
料金 2,500円(前売り)/3,000円(当日)
お問合せ・チケット予約(メールのみ)singwithyourneigobors@gmail.com
※梅窓院(会場)へのお問合せはご遠慮ください。

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