雨の日、ごった返しの中の販売体験
販売体験の当日はあいにくの雨。
当初予定していた新宿南口バスタ前での販売は断念し、ビッグイシュー販売者・ニシさんの誘導で新宿駅西口の小田急百貨店前の、雨を防げるカリヨン橋の下に移動することに。
道端留学の「講師」はビッグイシュー販売者。右側で笑顔の男性が販売者のニシさん。
新宿は通行で移動する大勢の人々に加えて、ストリートミュージシャンや、パフォーマンスをする人、「路上で何かをしている人たち」でごった返しており、学生さんたちは「この中で販売できるかな…?」と少々不安な様子が見られます。
小田急百貨店近くでニシさんから販売のコツや注意事項等の説明を受け、ベストと帽子などを受け取ったあとは、それぞれが自分の持ち場について雑誌の販売を開始します。
ストリートミュージシャンの演奏に声がかき消されそうと感じながらも人通りの多さに期待して信号前で販売してみる学生さん、皆と離れた場所でひたむきに孤軍奮闘する学生さん、小さく移動を繰り返し、道行く人たちの視界に入るようにアピールする学生さんなど、それぞれのスタイルで販売体験をしました。
1時間ほどの体験で、学生さんたちの売上は多い人で3冊、大多数は0冊という結果となりました。
参加した学生さんたちの感想
講義でホームレス問題の背景を、そして路上での実際の体験を通じて、学生さんはそれぞれ感じることがあったようです。
「この孤独感がずっと続くと思うと怖くなった」
「道端留学を通して、路上生活者の寂しさとつらさを身をもって体験することができました。この道端留学をする前は、ニュースなどで路上生活者の話が出てきても、自分とは関係のない世界の話だと考えていました。また、何も知らなかったからこそ、路上生活というものを甘く見ていたように感じます。
しかし、道端留学でビッグイシューを売るという体験を通して、路上生活のつらさ、心細さを知ることができました。
道端でビッグイッシューを売っていても、ほとんどの人は目も合わせてくれませんでした。外国人は私に呼び掛けてくださる人もいましたが、日本人は私と目が合うと目をそらし、さも自分には関係がないようにふるまっていました。
そのようなふるまいを見ていると、孤独感を覚えました。路上生活になるとこの孤独感がずっと続くと思うと怖くなりました。実際に体験したからこそ、佐野さんがおっしゃっていた“一度路上生活になると、そこから抜け出せない”の意味が理解できました。(後略)」
「自分とは関係の無いところで起きている問題では無い」
「私にとって今回の道端留学は、この授業全体の中でも特に印象に残る体験でした。多くの人が行き交う新宿駅で、1 人で立って販売を行う時間はやはり孤独感を感じました。単に雑誌を掲げているだけではそれを見た人は私が何をしているのか分からないと思い、途中から声を出すようにシフトチェンジしました。
視線を向けてくれる人の少なさや、私が声を発した瞬間にあからさまに迷惑そうな顔をする人もいて、このような活動をする人やホームレスの方の支援に対する世間の消極的な姿勢を肌で感じました。
とはいえ、そこに対して怒りの感情などはわきませんでした。それは私自身もそちら側の人間であるという自覚があるからです。(略)しかし、前回の授業で私たちにも関係のある社会問題としてトピックを捉え、実際に販売者として路上に立つことで、ここでしか得ることのできない学びを得られたと感じています。そして、自分とは関係の無いところで起きている問題では無いということを感じることができたのは今後の自分にとっても大きな変化であると思っています。」
「いつもは見過ごしがちな人のあたたかさに気づくことができた」
「(略)普段の生活で、道行く人と会話することなんてそうそうないと思います。
ビッグイシューの販売の間は、いつもよりストリートミュージシャンが自分にエールを送っているよう感じたり、雨で足元が悪くしりもちをついた方が心配になったり、“頑張って”という言葉や道を教えてニコッと返してくれる笑顔がとても優しく感じたり、いつもとは違う視野や交流がありました。いつもは見過ごしがちな人のあたたかさに気づくことができました。佐野さんが“隣の人の幸せを尊重することは、自分の幸せを尊重することだ”と仰っていましたが、販売者さんはまさにそんな気持ちで、日々生活しているのではないかなと感じました。
販売を終えて普段の生活に戻った今も、あの時感じたことは忘れずに生活していきたいで
す。(略)」
「道端留学」を体験した学生の行動や意識の変化
今回道端留学のプログラムを導入してくださった、成城大学 キャリアセンターの勝又あずさ特任教授は、これまで道端留学に参加した学生の『行動の変化』の例として下記を挙げてくださいました。
- ビッグイシューでのインターンシップへ参加
- 成城大学図書館にて「ホームレス問題」に関する書籍の展示コーナーを開設
- 文化祭で出展(ビッグイシューを知ってもらうための活動)
- 卒論のテーマに「ホームレス問題」を設定する
- 放送局の系列のウェブページでの執筆活動に参加し社会問題についてとりあげる
- 研究サークルを設立したいと企画書を学生部に持参
また、『意識の変化』として、は2022年度・2023年度に参加した学生のコメントを紹介してくださいました。
「社会的な満足が、原動力や心の支えになる」
「(道端留学で)実際に販売をしてみると、金銭的な援助以上に、自分という存在を認識してもらいその頑張りを認められたという自信から来る社会的な満足の方が、活動における原動力や心の支えになりました。たくさんの人が行き交う新宿でも誰かは見てくれていて応援してくれていることを、販売を通して学び、「一人だけど独りじゃない」と感じることが出来ました」
「多くの人が小さな貢献をすることの方がずっと大事」
「数少ない人たちが多くの貢献をしてくれることも大事ですが、多くの人が小さな貢献をすることの方がずっと大事だと思います。なぜならすべての人が社会問題の当事者で、周りの人が暮らしやすい環境を作ることが自分の環境の暮らしやすさにも伝播するからです。親切の循環が巡り巡って、自分を含む誰もが取り残されない社会につながるのだと思います」
「周囲に相談できる人、精神面で支えてくれる人が必要」
「解ったのは、全体的に(どのテーマも)最終的には、人とのつながりが重要であり、周囲に相談できる人、精神面で支えてくれる人が必要だと思う。わたしは大学の制度でピアチューター(学生の相談にのる役)を担っているが、学習面だけでないサポートもしたいと思っている。クラスの友達や学校のカウンセラーに話すのもちょっと…といった学生の悩みをサポートしたい。わたしは人見知りで、相手の話を聴きだすことが苦手で、こんなことを訊いたら失礼かもしれないと躊躇してしまう。自分のような人は周囲にもいるはずだから、そういう人にも相談にきてもらいたいし、支えになりたい。」
担当教員から見た道端留学-「非常に意義があるプログラム」
担当の勝又教授から道端留学の意義についていただいたメッセージを紹介します。
「(『道端留学』は)履修学生の社会問題への当事者意識、ライフ・キャリア構築への自らのスタンスの変化等、キャリア教育だけでなく、シチズンシップ教育、サステナビリティ教育、キャラクター教育として、非常に意義があること、実施の度に再認識いたします。
履修学生が後輩に勧めたことや、学内の教職員の支持もあり、年々キャリア科目の中では大事な存在になってきています。
学生たちより毎回提出をしてもらっているレポートを読むと、学生たちの学びが伝わってきます。そして、それだけでなく、何よりわたし自身が成長をさせてもらっています。
『道端留学』ではわたしも路上に立たせていただくことも多く、その度に、生きていく上で(毎日の忙しさで忘れかけていた)大事なことに気づかせてもらっています。例えば、どことなく現れて購入され、控えめに去っていくお客様(購入者)の後ろ姿に、他人であっても繋がれている感を持つなど、うまく言葉にできない真心を覚えます。」
格差・貧困・社会的排除などについて出張講義をいたします
ビッグイシューでは、学校その他の団体に向けてこのような講義を提供しています。
日本の貧困問題、社会的排除の問題や包摂の必要性、社会的企業について、セルフヘルプについて、若者の自己肯定感について、ホームレス問題についてなど、様々なテーマに合わせてアレンジが可能です。
小学生には45分、中・高校生には50分、大学生には90分講義、またはシリーズでの講義や各種ワークショップなども可能です。ご興味のある方はぜひビッグイシュー日本またはビッグイシュー基金までお問い合わせください。
https://www.bigissue.jp/how_to_support/program/seminner/
参考:灘中学への出張講義「ホームレス問題の裏側にあること-自己責任論と格差社会/ビッグイシュー日本」
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