アマチュアスポーツ界を中心に、パワハラや体罰などの問題が相次いでいる昨今。その多くが競争や勝ち負けを最優先される状況下の中で発生していますが、同時に不登校やホームレスの当事者など、スポーツとは無縁と思える人々にサッカーの場を開く取り組みが全国的に広がりつつあります。
2018年8月、ホームレスやひきこもりの経験者など多様な背景を持つ人が参加するフットサル大会「ダイバーシティカップ」を運営するビッグイシュー基金をはじめ、スポーツを通じた*社会包摂に取り組む3つの団体が集い、取り組みや活動ノウハウを広げるためのイベントが開かれました。その模様をレポートします。
*社会包摂とは、社会的マイノリティ(依存症や不登校、ひきこもり、ホームレス、精神障がい者、社会的に孤立しがちな女性)の人々をも含め市民ひとりひとりを孤独や孤立から救護し、社会の一員として支え合うこと。
プロスポーツとは別のスポーツの可能性
2018年8月25日(土)、上野で『社会(スポーツ)をあそぶガイドブック』の発行を記念して、スポーツで社会包摂を進めるための勉強会が開かれました。今回の勉強会は、「サッカー大会を通じて“マイノリティ”と呼ばれる参加者の強みや弱みを出せる居場所を広げること」が趣旨でした。登壇者は、ホームレスの人々やひきこもりの人などが参加する「ダイバーシティカップ」をコーディネートするビックイシュー基金の長谷川知広、宮城県で不登校やひきこもりの若者向けの大会「MKBカップ」を開催しているまきばフリースクールの中山崇志さん、沖縄のお母さんのためのフットサル大会「ダイモンカップ」の糸数温子さんの3名。加えて一橋大学大学院教授で「スポーツを通じた社会的包摂」を研究している鈴木直文さんがモデレーターを務めました。
参加者は40名ほど。途上国でサッカー大会のボランティアをしている高校生やダイバーシティカップ参加者の大学生。マイノリティのためのスポーツ活動をしようと考えている方。視覚障害、精神障害、ひきこもりや不登校などの人々をサッカーを通じて支援している団体の方や精神障害者サッカー日本代表選手など様々でした。またj-futsalをはじめとするメディアの方々も参加しました。
参加者は40名ほど。途上国でサッカー大会のボランティアをしている高校生やダイバーシティカップ参加者の大学生。マイノリティのためのスポーツ活動をしようと考えている方。視覚障害、精神障害、ひきこもりや不登校などの人々をサッカーを通じて支援している団体の方や精神障害者サッカー日本代表選手など様々でした。またj-futsalをはじめとするメディアの方々も参加しました。
第1部では、長谷川、中山さん、糸数さんが、それぞれの取り組みと大会運営の中で大事にしていることについて意見を交わしました。
長谷川からはダイバーシティカップの狙いとして、「ホームレスやうつ病など参加者の背景を忘れ皆がサッカーを楽しみながら他者と出会う場を創出することで、互いの良さや違いを認め合い、自分らしく生きられる社会へつなげていきたい」いった話がされました。加えて、大会運営で大事にしている10個のポイントについての話がありました。
そして大会運営では“「参加できない」のない大会”を意識されているそうです。若者の中には当然スポーツが苦手な人、対人関係が苦手な人がいます。ただ、一つの大会を開くことで、食事をつくるのが得意な人が芋煮をつくったり、仲間が頑張っている姿を見たりすることで、人と出会いやりたいことの幅が広がると言います。
沖縄のお母さんのためのフットサル大会「ダイモンカップ」を開催する糸数さんからは、「生活に困っている人のためのフットサル大会を開くので集まって下さい」では参加者も応援者も集まる人も限定的になるため、「日本一大きくて楽しい女子フットサル大会を開くので興味のある人集まって!」といった形で、広報や社会参加の形を増やしていくことの大切さについての話がありました。
ダイモンカップでは、沖縄のメイン通りである国際通りを使ったストリートサッカー大会も開催し、同時にチャリティコーナーをつくり、人々が単にサッカー大会を見に来たで終わらない仕掛けをつくっているそうです。
第2部のグループトークでは、6人1グループに登壇者も交えて行いました。グループごとに「“マイノリティ”と呼ばれる人を対象に、スポーツの場を開く際に気を付けるべきこと」をテーマに話し合い、グループトークの終わりに、各グループの発表を行いました。
参加者:「僕は精神障害者で子どもの頃からサッカーはずっとやっていましたが、入院をしたりしてサッカーができない時期もありました。そういった経験から、大会でプレーできない人もいることを前提に、参加の形としてフットサルをプレーすることだけに限定しないことが大切かなと。応援とか、食事を提供するとか、ただそこにいるだけでもいいと思います。大会を楽しそうにみせる工夫も大事です。そのためには、大会運営もするスタッフも楽しむことが1番じゃないでしょうか」
最後に総括として一橋大学教授の鈴木さんから「社会(スポーツ)をあそぶ」というタイトルに込められた意味についてお話がありました。
「通常サッカー大会は競技することが主な目的ですが、今回事例紹介のあった3つの大会は、プレー以外の多様な楽しみ方を設けることに力を入れている点が共通しています。試合ばかりではなく、時間や空間的な隙間が多く用意されていて、参加者がふらふらと多様な形で遊べるように設えてあるのです。
スポーツは本来、遊びの一形態なのですが、えてして真面目になり過ぎて『遊び』の部分がなくなってしまいがちです。そうするとその場に居づらい人も出てきてしまいます。競技以外にも、例えば大会と同じ空間で芋煮会をしたりアクセサリーをつくったりしてもいい。そうやって、多様な遊び方が用意されていれば、スポーツの得手不得手や好き嫌いにかかわらず、みんなが楽しめるようになります。
実はこれは社会全体にも当てはまることだと思うのです。社会のなかでもっと多様な遊びが許されれば、みんながもっと豊かに暮らせるようになる。なぜなら遊ぶって、自分らしさを表現することだからです。これが『社会もスポーツも、もっと遊んじゃおう』ということの意味です。スポーツの場に遊びの余地を作ることをきっかけに、社会のなかでも遊べる余地があらゆる人に担保されるようになっていってほしい。そうすると社会の固定化された価値観が揺さぶられて、みんなが安心して自分らしく居られる場になっていくのではないかと思っています」
ライター:石井綾子
サッカー(スポーツ)大会運営勉強会
主催:認定NPO法人ビッグイシュー基金
共催:ダイバーシティサッカー協会
平成30年度 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業
・ホームレスサッカー 10年間の軌跡~互いを認め合う社会の実現に向けて~
・「参加する」から「共につくる」へ進化するダイバーシティカップ
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ビッグイシューについて
ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。
ビッグイシューはホームレスの人々の「救済」ではなく、「仕事」を提供し自立を応援するビジネスです。1冊350円の雑誌を売ると半分以上の180円が彼らの収入となります。