かつて自治体が用意したものの、今は遊休状態などで赤字を出し続けている施設は全国に数多くある。
スポーツ施設、キャンプ施設、保養所、観光施設…人口が増え、税収が増える時代に数多くの施設が計画・設置されたが、少子化や市民の選択肢の増加などにより、毎年多額の赤字を出している施設も珍しくない。


兵庫県伊丹市が運営していた「伊丹市立野外活動センター」もそのひとつだった。
昭和40年(1965年)7月に、伊丹市民に自然を感じてもらう機会をつくろうと兵庫県三田市にオープン。山小屋を作った後、テニスコートやハーブ園、体育館などを増設されたが、近年は山小屋の利用者はピーク時の3割まで減少、施設の稼働率は15~20%となり、年間約6千万円の赤字が常態化していた。

そこで市は、民間事業者へ資産譲渡し、事業運営を行ってもらう判断をくだす。

今後10年間運営する特約(条件)を付け、公募型プロポーザル方式で事業者を募集。
そこに手を挙げたのがキャンプや野外活動を主に行っている一般社団法人「プラス・ネイチャー」で、準備期間を経て「神戸三田アウトドアビレッジTEMIL」として運営を開始した。
今回はその「プラス・ネイチャー」代表の山崎 清治さんに、赤字だった公共施設を民間で運営することの醍醐味と大変さを伺った。

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「プラス・ネイチャー」代表の山崎 清治さん

なぜ野外活動センターを民間でやってみようと思ったのでしょうか?

もともと私は青少年キャンプを通した育成・教育事業を長年やってきました。
なぜキャンプが育成・教育に効果的だと考えるかと言うと、野外活動は様々な「体験」が伴うシーンだからなんですね。

今までの社会と違って、これからは学力や専門知識ではない、非認知能力や社会人基礎能力として主体性・メンタル&ストレスコントロール・内面的な力・人と関わる力…といった力が必要になると言われています。だけど、そういった力はこれまで通りの教室での授業では学びづらい。

人に共感したり、自分の役割を見つけたり、チームビルディングをするといった体験は、自然体験などの「不便を感じる」という体験を通じて培われていくと考えているからなんです。

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電気・水道・ガスのない「無人島一週間体験」を主催して10年(SHOSAPO提供)

そういう経験をしてきたなかで「野外だけじゃなくて、子どもだけでもなくて、若者や大人向けの教育もやってみたい、そのための施設があればチャレンジしてみたい」と思っていました。

ところが、野外活動センターは、全国でどんどん減っていて、閉鎖されて廃墟になったり、取り壊されていたりします。

なぜそういった社会教育施設が潰れていきやすいかというと、「社会教育は安く。なんなら無料であるべき」という感覚が一般的で、行政の運営である限り、事業収入は上がりにくい。そうすると、利用者から苦情が来ないようにすることが重視され、支出を抑えなきゃ、というマインドになりがち。そうすると事業としては新しいことをしづらくなって…というデフレスパイラルに陥るからだと思っています。

でも私は、こういう社会教育がこれからさらに大事なると思っていますから、社会教育に関わる人の仕事を作りたい。子どもに関わる人、社会に関わる人が低賃金、苛酷労働であっていいはずがないし、そうでなくてもやっていけるということを示したい。やり方によってはプラスになるのでは?ということにチャレンジしてみたい。だからここの場所を持続可能な運営で成立させてみようと思ったんです。

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民間でやってみて、苦労することはなんですか?

ビックリするくらいお金が足りないということ(苦笑)。
譲り受けた時にはすでに使われていない廃墟で、あばら家のような状態。蜘蛛の巣が張り、使えない物が散乱していたので、まずはそこを掃除し、不用品を処分。そして自分たちででできる範囲で、壁の補修、障子の張替え、カーペット貼り換え、内装大工。机を手作りしたり、商業施設で不要になった椅子をもらい受けに奔走したり。

親しみを持ってもらうために、様々な人を招いてリノベーションのワークショップなども行いました。

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子どもも一緒にリノベーションに参加:TEMIL提供

完全にすべてきれいになってからお客さんに来てもらったのでは赤字が膨らむ一方なので、動かしていきながら改修していこう、ということで、2017年の4月にキャンプエリアを、9月には研修宿泊施設を、と順次プレオープンし、2018年4月から本オープンさせています。

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手づくりのリノベーションが好評なフロント


ところが、整備していったと思った矢先に巨大台風で類を見ない風が吹き、敷地内の大木が倒れまくりました。
敷地が広いので整備をし続けていかないといけないのに、何十本と木が倒れてチェーンソーで切り拓かなければならない。

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破損した屋根:TEMIL提供

そして豪雨。道はえぐれる、屋根は飛ぶ、雨漏りはする、水道管は破裂する。そういう「50年に一度」と言われるような災害が頻発しては、その都度数百万円単位でお金と人手があっという間に飛んでいってしまっています。

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台風や豪雨で崩れた道

実際に民間としてオープンしてみてどうですか?

市運営の時と比べて利用料は2倍にしましたが、利用者数は4倍くらいになっています。
民間が運営したせいで高くなった、と感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、社会教育施設がなくなるなかで、質・付加価値を高めていかなければ生き残れません。

親はアウトドアが苦手で、虫がダメ、火が起こせない、テントも無理…というファミリーでも、子どもは自然のなかで遊びたい、遊ばせたいという家族もいる。
そういう家族向けには、単なるテントの場所貸しではなく、親の宿泊+子どもの野外体験プログラム付きにするとか、企業やNPOの研修合宿に使えるよう講師付きのプランを用意するなど知恵を絞って、業界の価値が高まるように努力しています。

例:アウトドア社員研修


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TEMIL提供 手づくりでリノベーションした客室とセミナールーム


お客さんの喜びはもちろん大前提なんですが、お客さんの喜びにかかわるスタッフが喜んでいるということが私にとってはとても大きいことで、働く人たちもしっかり楽しめる、イキイキする職場にしたいと必死です(笑)

遊休公共スペースを民間でやってみようという人に必要なものとは

もちろん言い出しっぺの情熱も大事なんですが、いろんな力を持った仲間、前向きな仲間を見つけることに尽きると思います。一人ではとても無理。(笑)
私自身、台風や豪雨、その他トラブルが起こって何度も心が折れそうになったんですが、一緒に腹をくくってくれている主力メンバーがいて、とにかく迷わず前進してくれるんです。「悩んだらなんか変わるんですか、悩んだらなにかすること変わるんですか」って言いながら。(笑)

この場所で働いてる人たちがイキイキする職場として長く続ける覚悟をもって、走りながら改善しつづけていきます。


「神戸三田アウトドアビレッジTEMIL」
http://sanda.shosapo.jp/



やまさき せいじ
一般社団法人「プラス・ネイチャー」代表、NPO法人生涯学習サポート兵庫(SHOSAPO)理事長。「無人島一週間自給自足」や「リアカー縦断の旅」などの教育プログラムをプロデュース。教育やチームビルディングなどのテーマで講演・講座を全国で年間200件以上行う。
2012年、『TSUTAYA全国講師オーディション』で全国1位のグランプリ受賞。
https://yamasan.works/


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