動物は私たちをより健康的で、幸せな人間にしてくれる。ペットを飼っている人なら、動物が与えてくれる大きな喜びや安らぎをよくご存知だろう。悩みがある時などは特に。ペットの多くは、大切な「家族の一員」とみなされている。

「動物の世話」というととかく人間に主体があるようだが、人と動物の結びつきというのは双方にとって建設的かつダイナミックな関係性が築かれる。そのために取る感情的・精神的・身体的な交わりは、動物と人間どちらもの健康と幸福に大きな意味を持つ。


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活動家として性的虐待の犠牲者や社会の片隅に追いやられた人たちの活動に関わっているホープ・フェルダウジアン医師(参考)は、エッセイ『なぜ今、動物の権利を求める社会運動が起きているのか – Why Justice for Animals Is the Social Movement of Our Time』の中で、「人間と非人間の権利共生」について鋭い洞察を示している。

特に印象的なのが、「動物は私たち人間と同じで、とても脆弱な生き物である。事実、人間の弱さの主たる部分は “私たちも動物である”という事実に集約される」という一節。これは非常に本質的なことを突いている。人間も動物も基本的な特徴は同じ、「生存する」という最も重要な部分において「似たもの同士」であるという事実を言っているのだから。

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彼女のエッセイは「人間 - 動物 - 環境」の関係性を活かすには、各分野間(人間、動物、環境)の連携が必須であることを確証している。と同時に、私たちの社会が、この関係性がもたらすメリットをおろそかにしていることを思い出させる。あらゆる場や手段にその関係性が活かされることを、そもそも期待すらしていないのではないだろうか。

次々に実証される「動物との絆」の医学的有効性

「人と動物の絆の大切さ」を示す研究が増えている。研究対象は、子どもの成長期、高齢者の介護、病を患っている人へのセラピー、精神疾患・身体への傷害・認知症・虐待やトラウマがある人々への支援、囚人の更生プログラムなどさまざまだ。

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予防医学の観点からも、動物と日々建設的な関係を育むことは、心臓血管系に効果がある。「人と動物の絆研究所(Human Animal Bond Research Institute)」(参考)が保管するさまざまな研究には、ペットが人々の健康にもたらす一連の効能が示されている。例えば、犬や猫などをペットとして飼うことで、人はよりアクティブになり、血圧が下がり、血管も強くなり、心臓病に罹るリスクが減る、等。ミネソタ大学が実施した調査では、猫を飼ったことのない人は心臓発作で亡くなるリスクが(猫を飼っている人より)40%高いとされている。

動物を世話し、建設的な交わりを持つことは、心の健康にもメリットがある。孤独感や無気力、自分なんて…と感じるいわゆる鬱症状が和らぎ、ストレスや不安を処理する上でも助けになるのだ。飼い主は「盟友」がそばにいると、たちまち穏やかな気持ちになれる。

特に顕著なのは子どもの成長へのメリット

特に興味深いのが、動物と子どもたちとのあいだに信頼ベースの関係性が築かれることのプラスの影響だ。動物と子どもが「同士」となることで、子どもたちの健全な成長が促され、社会的・感情的・教育的にもいろんなメリットがある。子どもたちは動物と触れ合うなかで大きな自信を得て、孤独を感じにくくなり、ソーシャルスキルも伸ばしていけるのだ。

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さらに強調しておきたいのは、動物と前向きなつながりを持つことで、自閉症や心的外傷後ストレス障害など特別なニーズがある子どもたちとの社会的交わりをも改善してくれること。リバプール大学の研究者が国際学術誌『International Journal of Environmental Research and Public Health』に発表した研究でも、特に6才以下の子どもと思春期前期の若者が動物との絆から大きな恩恵を享受していることを裏付けている。ペットと楽しく過ごすことで気分が良くなり、ホッとでき、自分という存在を肯定的に受け止められるようになるのだ。

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動物を飼うことで責任感、共感、他者の面倒を見る心意気など、大切な「人生の教訓」を学べることはよく知られている。動物が子どもの健全な成長にもたらすインパクトを分析した最新の科学調査によると、その傾向は幼少期に動物と関わりがあった場合に特に顕著だった。家に動物がいることで、子どもたちは免疫システムに関する病気(アレルギー、喘息、湿疹など)からも守られる。

このように、動物との建設的な絆が、私たちの幸福度を高めてくれることは明らか。しかも、人間と動物の両者にメリットをもたらす、実に特殊な絆である。

公衆衛生にも動物を巻き込んだ取り組みを

すでに分かっていることからも、今後必要となってくるのは「社会の認識を高めること」。

ペットの飼い主のみならず、ペットを飼っていない人、獣医、医者、ソーシャルワーカー、心理学者、教師、教育者、関連施設で働くスタッフ、その他の利害関係者を教育する、公共政策を大幅に見直して公共の場にペットを同伴できるようにする、公衆衛生に欠かせないものとして動物を巻き込んでいくことなどが必要となってくる。

今後期待したいこととしては、患者がペットと触れ合える機会が増える、「動物との絆」がセラピーや支援として妥当かつ効果的とされ公式に取り入れる医療関係者が増える、当分野の研究が重要かつ現場でも応用できるような発見をもたらしてくれることを期待したい。

この豊かで活気あふれる複雑な世界。動物が人間と同じく素晴らしい生き物であること、その能力でわれわれを驚かせてくれるユニークな存在であること、私たちの身体的・精神的・社会的・感情的な健康を育むうえで強力な味方になってくれること、これらは疑う余地がない。動物は、私たちをより強く健康的な人間にし、その発達に貢献する力を持ち合わせている。

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とはいえ疑問点は残る。人間と動物の良好な関係性を深めるため、日常的に何をすればよいのか? 人間と動物が「共存」することのプラス面をしっかり認識し、活用していく準備はできているのか? 悠長に待っていてはいけません!自身の事情なり状況をよく考え、(状況が許すならば)自分でもペットを飼い、責任持って面倒を見て、愛情を注ぎましょう。期待よりはるかに多くの見返りがあるでしょうから。

By Iva Apostolska
*マケドニアの動物保護協会「Anima Mundi」および環境組合「Ajde Makedonija」のメンバー。
Courtesy of Lice v Lice / INSP.ngo


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