『ビッグイシュー』を路上で販売していると、「モノを売るならピシッと背筋を伸ばして立てよ」との声をもらうことがある。しかし長時間の立ちっぱなしは誰にとっても疲れるものだし、販売者の中にはケガや障害などで立っていること自体が難しい人もいる。そんな販売者の事情をひと目で分かってもらうため、シアトルのストリートペーパー『Real Change』がこんな取り組みを始めた。

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路上の雑誌販売は大変な仕事だ。

通勤で慌ただしく行き交う人々の注意・関心を引き寄せるにはコツがいる。雑誌ではなく何かのチャリティー活動かと思っている人もいる中で、通行人の気を引いて、雑誌に2ドルを払ってもらうにはスキルが必要だ。うさんくさそうに見てくる人、イヤホンをして自分の世界に入り込んでしまっている人もいるから、根気も必要。

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© Pixabay

その上、立ちっぱなしだ。長時間となると誰であってもツラいが、障害や身体に不調がある販売者においてはなおさらだ。

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© Yukiko Nishikawa


あいにくシアトルでは、「Sit/lie 法 (*)」という法律によって公共の場所で休むことは厳禁されている。それゆえ、長時間立っていられない人が『Real Change』の販売をするのはとても厳しい。

*公共の場所で座る、横になることを禁止する法。米国では一般的なホームレス者の行為を犯罪化する法的手段。(広島法学 39巻4号『アメリカにおける反ホームレス法の憲法適合性(1)』橋本圭子)

「長年、販売者を困らせてきた問題ですし、一般の路上生活者にとっても根強い問題となっています」『Real Change』の販売者プログラム副代表を務めるニール・ランピは言う。

ランピの業務は、販売者のための「地ならし」。雑誌販売における問題対処をサポートすることで、事務所だけでなく現場でも活動している。

「Sit/lie 法」が問題となっていることは彼も把握していたが、『Real Change』販売者の一人で編集委員会メンバーでもあるマット・ヒルと話したことで背中を押され、行動を起こすことにした。

マットは長時間立ち続けることが難しい販売者の一人で、サポートがないと15〜30分単位でしか販売ができない。おまけに先日転倒してしまい、両肩を打ち、歩行器(歩く時も販売時にも使用している)にも損傷を受けたので、雑誌販売がこれまで以上に困難な仕事となったのだ。

「座って雑誌を売るのがダメなら、生計を立てられません」とマットは言う。「そもそもそんなに稼げているわけじゃないけど、さらに収入が減ってしまう。路上販売ではやっていけなくなります」

そこでランピは、販売者の負担を軽減するため何かできることはあるのか調査を始めた。いくつか市役所の部署にあたってみて実りはなかったのだが、「シアトル交通局(Seattle Department of Transportation)」にアプローチしたところ、次のような助言を得ることができた。

人々の通行権を遮らず、障害者と認められるなら、販売者は椅子またはその他の物体を路上に持ち出すことができる。法令によると、テーブルやその他の「販売用構造物」を持ち込む場合に限り特別許可が必要になるのだとも。

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© Pixabay

他の商品と違い、雑誌販売することには許可を取る必要はない。なぜなら、そうする権利は米憲法修正第1条で保護されているからと。条例に従う上で『Real Change』販売者が提示しなければならないのは「障害者の証明」で、通常は医師の診断書またはその他の証明書で問題ないとのこと。

そこで『Real Change』は、青と白の障害者マークが入ったスペシャルバッジを作成。警察や「メトロポリタン改善地区(Metropolitan Improvement District)*」の担当者(アンバサダー)が来てもこれを見せれば、椅子を持ち込んでもよい販売者だと証明できるというわけだ。

*健全で活気ある街づくりを目指し、シアトル市内に設けられた285エーカーの特別指定エリア。 120名以上のアンバサダーがいて、清掃や安全に関する活動を行っている。

これはマットには朗報だ。彼は早速、医者に負傷した肩を診てもらい、診断書をもらおうと考えている。

「私のように長時間立っていられない人にとっては、大きな安心感を与えてくれるものです」と彼は言った。

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Credit: Jon Williams / Real Change


By Ashley Archibald
Courtesy of Real Change / INSP.ngo

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ビッグイシューは1991年ロンドンで生まれ、日本では2003年9月に創刊したストリートペーパーです。

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