生活に困窮し、いったん路上に出てしまうと、住所のない人が次の住まいや仕事を得るハードルはとても上がってしまう。また、生活保護は申請から決定まで2週間〜1ヶ月ほどかかるため、困窮者の中にはその間に生活費が底をついてしまう人も少なくない。
認定NPO法人Homedoorではこの問題に対し、「切れ目のない居宅移行支援」を目指している。Homedoorの相談支援員、永井悠大さんがコロナ禍における困窮者の居宅移行支援という課題への取り組みについて報告した。
この記事は、大阪の市民団体「釜ヶ崎講座」(大阪)が主催した2021年8月7日のイベント「釜ヶ崎講座シンポジウム〈コロナ禍の中での生活困窮者への支援活動をめぐって〉」レポートです。
コロナ禍で相談者数が1.5倍に
Homedoorに寄せられた新規の相談者数は、2020年度は1,112人。2019年度の746人から1.5倍に増加した。
永井さんはもともと貧困リスクから遠い環境にあった人が突然困窮状態になったのではなく、労働条件の悪い人や、住み込みの仕事の人など、経済基盤が元々弱かった方がコロナ禍をきっかけに困窮してしまい、相談者が増えたのではないか、と推察する。
当日のスライドから。コロナ禍で収入が激減してしまった方たちからのSOSの声
以前から上がっていた「居宅」を求める声
現在の行政の運用では、居宅を失った人から生活保護の申請があった場合、まず相部屋生活となるシェルター施設に一時的に入所させ、生活能力があると判断してから居宅移行させることが多い。
しかし、プライバシーを守られた空間で寝泊まりする「居宅保護の原則」が無視された相部屋という環境に耐えられない当事者も少なくない。せっかく行政に繋がっても、こうした背景から路上生活に戻ってしまうケースが後を絶たないのだ。
そこで、Homedoorは2018年から居宅移行支援の宿泊施設「アンドセンター」の運営を始めた。これは5階建て、18部屋の個室からなる。個室内には、テレビ・冷蔵庫・エアコン・ユニットバスもあり、利用者にとても好評だ。
今後の人生の立て直しを考えるときに落ち着いた個室があることは、とても重要なことだ。
2021年6月からはHomedoor事務所の隣にカフェ「おかえりキッチン」がオープン。困窮している人たちに、おいしくて栄養のある食事を提供できる体制になっている。
Homedoorによる居宅確保支援の流れ
Homedoorの支援の流れは、下記のようになっている。
1.電話・メール・来所によるSOS
毎日のように新規のSOSがあり、月に100件近くにのぼる。家をなくし、まさに今日から野宿しなければならない人や、DVで家に帰れない人などの相談がある。
2.相談者に対するヒアリング・面談
電話や来所による詳しいヒアリングを実施し、アンドセンター利用も含めた今後の方針を相談者と一緒に検討する。
3.アンドセンターに入居(2週間)
原則として2週間以内の入居となる。
4.連携している不動産会社を通じた部屋探し
この2週間内で、連携している不動産会社を通じて部屋探しをする。
相談者は手持ちのお金や貯金がないひとがほとんどなので、敷金礼金不要な物件のニーズが多い。さらに保証人不要・緊急連絡先不要などの希望も多く、不動産会社にとっては難しい要求だが、柔軟に解決してもらっている。ここがHomedoorの強みと言える。
5.生活保護の申請サポートと、アフターフォロー
生活保護の申請には、申請書の作成、ファックスや電話での申請受理の確認、相談員の同行などでサポートしている。生活保護が決定し保護費がおりるまでの間の生活支援も行う。
Homedoorで住宅の確保まで至った人は、2019年度は64人。2020年度はその1.3倍増の84人。このうち27人が「おうちプロジェクト」(2021年7月終了)を活用した。
公的な保護決定までのタイムラグがネック
一般的に、居宅での生活保護利用を開始するためには、、居宅を確保(住所を確定)してからの申請が役所の手続きとしてはスムーズである。そのため、相談者が「物件の内見→申し込み→転居」を終えてから生活保護の申請をしてもらっているが、それには初相談から保護費が入るまでに最短でも1カ月ほどの時間がかかってしまう。
本来は相談時に居宅が確定していなくとも居宅保護を前提に生活保護をすぐに申請できるのが制度の理念であり、困窮者にとってもベストだが、現状の制度運用はそのようになっておらず、歯がゆい思いをしているという。
行政に求めるのは積極的な困窮者支援の姿勢
永井さんは「個室の提供、生活保護までの生活支援、そして居宅移行後のフォロー、これらは本来、行政がやるべき仕事です。家を失った人への民間の支援を充実させればさせるほど、行政の仕事を肩代わりしてしまうことになりかねない。この点について、私たち自身も問題意識を持ち続け、行政に働きかけていかなければならない。困窮者支援の現場では、行政(制度)と民間それぞれが本来の役割を果たせるような関係性について模索し、構築していくことが急務であると考えます」と力を込めた。
認定NPO法人Homedoor
https://www.homedoor.org/
「アンドセンター」の月100万円の建物の維持費は一般からの寄付で賄われている。
寄附について
https://www.homedoor.org/donate/
記事作成協力:Y.T