夏休み明けの9月に子どもの自殺が増えることは深刻な問題として認知されるようになってきていますが、長期休暇中、子ども達とどのように過ごせばいいのか、またどんな点に注意すればいいのか、不登校に関する情報や交流のため発行されている「不登校新聞」の編集長、石井志昂さんにお話を聞きました。
※この記事は2019/05/02に公開されたものを再編集してお届けしています。
学校のことで苦しむ子どもたちは年々増加している
まず石井さんが見せたのは、内閣府発表の平成27年版自殺対策白書(抄)。18歳以下の自殺者がどの時期に多いかという分布が見て取れます。「このグラフにあるように、毎年夏休み明けの9月に18歳以下の自殺者が増加します。そしてもうひとつ、大きな山になっているのが4月とGW明けの5月上旬から中旬です。4月は環境の変化など子どもたちが不安定になりやすい時期。そして連休が明けたあとの5月は、五月病という言葉もあるように、体調や精神を崩す人が増える傾向があります。さらに今年は例年にない長期のGWですから、学校に行けない・行きたくないという子どもたちが増えても不思議はありません」
また、文部科学省が不登校の定義を「年間30日以上欠席した者」と定義していますが、今それ以上に増えているのが、欠席日数が30日未満のいわゆる不登校傾向のある子ども達だと石井さんは言います。
「中学生の不登校児童は、平成29年度の文部科学省調査の『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査』によると約10万人となっております。この数字は2年連続で最多となっています。一方、休んでいる期間は長期にわたっていないものの、登校しても教室に入れないというような不登校傾向のある中学生はその3倍の30万人だということが、日本財団の調査(※)でわかっています」
※https://www.nippon-foundation.or.jp/app/uploads/2019/01/new_inf_201811212_01.pdf
つまり、「不登校」として社会に認知されているのは氷山の一角であり、学校で苦しんでいる子どもたちは増加している状況です。不登校新聞を発行しているNPO法人への相談件数も例年より増えていると言います。
体からのSOSや、休み中と休み明けの様子の違いを見極める
長期休暇のあとに不登校が増えるのは、子ども達のどんな心理状態が作用しているのでしょうか。「不登校傾向のある子どもは、休みがあると楽になります。心が軽くなって、本来の自分に戻るわけです。でも休み明けが近づくにつれて、つらかった学校の生活を思い出し、戻るのは無理かもしれないと感じてしまうわけです。たとえるなら、会うとけんかばかりしているカップルが、家に帰ってきたときに『あれ、私は何をやってるんだろう?』と思う感覚に近いかもしれない。素の自分に戻ったときに、『あ、自分はもう一度相手に会うのが苦痛なんだ』と気付くような。一緒にいるときはなかなか気付けないわけです」
そうすると、連休明けに学校に行きたくないと言うのは、無理をしていた子どもが自分を取り戻す、ある意味正常な反応とも言えます。
「そういった反応が出ると、長い休みが悪いのではないかととらえる人がいるのですが、そうではないんです。学校が無理だと思っている子は、人に言えない悩みやトラブルを抱えており、それが表に出てきているわけですから、本来あるべき姿に戻っていると言えます」
保護者が長期休みに子どもにしてあげられることとは
保護者が長期休み中にしてあげられることは、素の子どもたちの姿に戻してあげることだと石井さんは言います。「ゆっくり休ませてあげることが、何より大事だと思います。4月はさまざまな環境の変化がありますから、昨日まで居場所だったはずの学校が地獄のような場所になってしまうこともあり、疲れが一気に出てくるわけです。そのタイミングで連休に入ると異様なほどずっと寝たり、逆に不安なことがあって興奮がとれずに、不眠状態に陥ることがあります。ここで注意したいのが、不眠になると手持ち無沙汰になるので、ずっとゲームをしたり、スマホをいじったりし続ける姿を目にすることもあるかもしれません。保護者としては止めたくなると思いますが、羽を伸ばしているところかもしれませんから、いつもより少しだけでも長く様子を見ていただきたいと思います」
長期休み明けに出やすいSOSとは
連休後は、体から出るSOSに注目することが大事とのこと。「苦しい子がどういうサインを出すかというと、体からSOSを出すのです。たとえば学校行こうと思ったときに、下記のような状態になっている場合は少し注意が必要です」
<子どもが体から出すSOSサインの一部>
・頭痛
・腹痛
・玄関やベッドの上から身動きがとれない
・イライラしている
・学校の準備の確認がとまらない
・すぐに泣きだす
・極端に元気がない
そして学校に行きたくない気持ちがある子どもたちのもうひとつの大きな特徴が、「学校に行きたくない」とは言わないことがあることだと石井さんは指摘します。
「学校に行きたくない子ほど、『学校に行かなければならない』という思いがあるために、なかなか『学校に行きたくない』とは言いません。そういうときは、休み前と今の状態を比べて、どういう変化があるのかを見ることです。注意して目を配っていれば、その変化に気が付くことができると思います」
もし子どものSOSサインが出たときには、なるべく冷静な対応を心がけてほしいと石井さん。子どもが出したSOSをどのように扱うかで、その後が変わってくると言います。
「朝の忙しい時間に体の不調を訴えられると、『行けるの?』『行かないの?』『熱は何度?』などと言ってしまいがちです。イライラしてしまうこともあるかもしれませんが、冷静に休み中と今の差を見極めて、対処をすることが必要になります」
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「休みたい」は最後のSOSのことも
一方で「休みたい」と言葉にする子もいるそう。これは子どもから出す最後のSOSだと石井さんは言います。「たとえて言うなら、110番や119番にかけるような気持ちで、決死の覚悟で発したSOSの言葉です。そのときは『ドクターストップ』を出すような気持ちで、一にも二にも学校を休ませてあげてください」
しかし中には、連休明けでなくてもしばしば「行きたくない」と言っている場合もあり、「ちょっと頑張れば慣れるはず…」と無理に登校を促すべきか迷う場合もあるかもしれません。
判断に迷う場合は、専門家のいる相談機関をたよることもひとつの手段だと石井さんは言います。(※相談機関は文末参照)。学校の先生は、登校できた子どもへの指導はできても、不登校に関する知識がじゅうぶんでないケースが多いこともあるためです。
「即日休ませるとふたつのパターンに分かれると思います。次の日にはぽろっと学校に行けるパターンと長期の休みになるパターンです。タレントの鈴木奈々さんは、前者のパターンで、学校に行きたくないと親御さんに伝えたときに『無理しなくていいよ』と言われ、気持ちが楽になって、次の日から学校に行けるようになったということでした。
もうひとつのパターンが長期の休みになるケースです。保護者としてはやきもきすると思いますが、その休んでいる期間が休養の必要な期間だと思います。決して保護者が『休んだら』と言ったから休むことになったわけではないので、見守ってあげてほしいと思います」
「わかった」 その一言に救われた過去
ご自身も中学2年からの不登校経験がある石井さん。不登校のときに周りからかけられたうれしかった言葉、逆に辛かった言葉についてもお聞きしました。「学校に行きたくないと親に言うまでは、自分の気持ちにさえ気付いていない状態でした。それまで苦しい、辛い、死にたいと思うことはあったのですが、まさかそれが学校のことだとは自分で気付いていなくて。行きたくないと宣言したとき、感情があふれ出して号泣してしまったんです。そのとき母が『わかった』とだけ言って、深く詮索しなかったこと、否定しなかったことに救われました。保護者以外の人でも「わかった、無理しないで」と受け止めてくれると、本当に傷が浅くすむと思います。
辛かったこととしては、『今がんばって学校に行けば、乗り越えて自信になるよ』というような言葉です。学校の先生でも、ちょっと無理をさせてでも、乗り越えさせて自信をつけさせるという方もいますが、これは間違いだと私は思います」
学校に行きたくないという言葉を受け入れてくれた母親でしたが、不登校中は関係が悪化したこともあったとのこと。
「長く不登校を続けていて、親子関係が泥沼のようなときもありました。でもそれを経て、関係が再構築されたような気がします。親も『生き直しの時期だった』と言っていました。勉強面を心配する保護者が多いかもしれませんが、一日も登校しなくても学校長の判断によっては小中学校を卒業できるケースもあります。私は学校に行っていた時期のダメージが大きすぎて、何もやる気が起きず、自宅学習もほとんどしていません。それでもこうやって生きていくことができていますので、過度に心配をしなくてもいいと思います」
保護者の言葉がプレッシャーとなり、結果的に先に進めないケースも近くで見てきたと石井さん。
「私は6年間フリースクールに通っていたんですが、そのときの友人で、保護者から『早く勉強しなさい、それが嫌なら働きなさい』とすごく言われていた人がいました。彼は『俺は今度高校に行くんだ』、『勉強するんだ』と言い続けていました。一見とても前向きな言葉に思えますが、結局彼はただただ今を否定することになって、休養することも、前に進むこともできなかった。今を犠牲にして、未来に目を向けることが、プラスになるとは限らないと私は思います」
「学校に行きたくない」は異常ではない
「たとえばある国のテレビの視聴率が100%だったり、選挙である候補者への投票率が100%だったりしたら、『それって異常では』と皆さんは気付くはずです。人間は本来、多様なものですから。それなのに、日本の学校在籍者数は100%であるべきということは、異常だとされないことがほとんどです。それどころか、学校に行けない・行きたくない1%の存在を異常だとして、しかも悩んだ子どもたちが自殺してしまうなど、死者まで出している。学校の在り方について考えなくてはならないときが来ていると私は思います」そもそも学校がもう少し柔軟な場所であればいいのではないかと、石井さんは疑問を呈します。
「本当は学校以外でも生きていける場所があるのですから、子どもを学校に縛り付けなければ、苦しむ子も少なくなるでしょう。いじめもなくなれば、子どもはもちろん先生も含めみんなが楽になるのではないでしょうか」
最後に当事者の保護者に伝えたいことを、お聞きしました。
「私自身が不登校だったときは、もう人生が終わったと思っていました。でもそんなことはないんです。不登校を経ても生きている人はたくさんいて、中川翔子さん、千原Jr.さんなど有名になった方だけでなく、幸せな大人として生きている人がたくさんいます。学校に行かなくても、その先の人生はあるんだと信じてもらえたらと思います。
なかには保護者に理解してもらえないという子どももいると思いますが、そういうときは相談窓口などを使って、だれかに自分の気持ちを伝えることが大切です。学校に行きたくないという人も、幸せになることはできます。不登校の人は、学校に行っていると自分が死んでしまうような感覚があって、自分が生きられる場所を探している人ですから。本質の幸せを目指している人だと私は思っています」
石井さんがおすすめする不登校の当事者やその保護者の相談窓口は下記の通りです。ひとりで抱え込まず、SOSを発することが大事ということなので、心当たりがある人はぜひ相談を。
■保護者や子どもの相談窓口
「子どもの人権110番」(法務省)
(電話0120-007-110 ※平日午前8時30分から午後5時15分まで)
■不登校の相談窓口
「登校拒否・不登校を考える全国ネットワーク」(NPO法人)
(電話03-3906-5614)
■18歳までの子どもたちのための専用電話
「チャイルドライン」(NPO法人)
(電話0120-99-7777 ※年末年始以外の毎日 午後4時~午後9時)
(取材・文・写真:上野郁美)
石井志昂
『不登校新聞』編集長、不登校経験者
1982年東京都生まれ。中学校受験を機に学校生活が徐々にあわなくなり、教員、校則、いじめなどにより、中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からは創刊号から関わってきた『不登校新聞』のスタッフ。2006年から『不登校新聞』編集長。これまで、不登校の子どもや若者、親など300名以上に取材を行なってきた。また、女優・故・樹木希林氏や社会学者・小熊英二氏など幅広いジャンルの識者に不登校をテーマに取材を重ねるなど、精力的に活動をしている。
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