2011年から福島県が実施している震災当時18歳以下の子どもを対象にした県民健康調査の甲状腺検査で、「県が発表している甲状腺がんとその疑いのある患者数は、実際の数より少ないのではないか」という疑問が再び提起された。
経過観察中に甲状腺がんと診断。
手術受けても調査集計に反映なし
「NPO法人 3・11甲状腺がん子ども基金」(崎山比早子代表理事)が福島と東京で記者会見し、同基金が行う療養給付事業の申請状況を発表。申請者のうち、少なくとも実際に「甲状腺がん・がんの疑い」とされた18人が、県民健康調査の患者数に含まれていない可能性があると指摘した。
7月24日、福島県庁記者クラブで記者会見する「3.11甲状腺がん子ども基金」の崎山代表(中央)
7月24日、福島県庁記者クラブで記者会見する「3.11甲状腺がん子ども基金」の崎山代表(中央)
福島県は集計方法について、ホームページ上で「二次検査で経過観察となり、保険診療を受けていた人が、経過観察中に甲状腺がんと診断されて手術を受けた場合、さかのぼって県民健康調査の『悪性ないし悪性疑い』の数に反映されたり、手術症例に反映されないことになっている」と明記。その理由として、保険診療の中での診断等の診療情報や手術件数の把握の困難さを挙げている。担当者は「県民健康調査検討委員会で決められた調査方法で把握し集計している。(同基金が)集計外と指摘された人が集計外かどうかは確認できない」と話す。ただ、県が把握する甲状腺がんの子どもの人数は県民健康調査での数であり、「実際にはその数より多くの患者が存在している可能性」を完全に否定はしていない。
同基金の崎山理事長は「根本的な問題は、実数がわかっていないのに、わからない数字を元にして放射線の影響を検討していること。これまで県には患者数をきちんと把握してほしいと要望してきたが、状況はまったく改善されていない。検討委員会は甲状腺がんと放射線の因果関係を検討するのが任務の一つ。科学的に正しい結果を出すためにも、がんに罹患されている方たちの一部でも取りこぼしたまま、評価が行われることがないよう強く要望する」と述べた。
事故当時18歳以下の153人
甲状腺がんで基金の給付金申請
同基金から療養費の給付を受けた人数は、16年12月から今年7月まで、事故当時18歳以下の153人(福島県在住101人、県外52人)。
このうち、原発事故当時5歳だった3人から給付申請があり、がんが見つかったのはそれぞれ2、3、4巡目の調査だ。申請者のうち、県外で診察を受けてがんが見つかった人はこのほかに16人おり、最高で18人が集計漏れ(1人は後に集計に含まれた模様)の可能性がある。
19年7月8日に開かれた県民健康調査検討委員会では、「甲状腺がん・その疑い」の患者は調査3巡目で24人(事故当時5歳から16歳)、4巡目で5人(4歳から12歳)と報告された。基金に申請した4歳児3人からみると、県調査の2、3巡目には4歳児が含まれておらず、「発表から漏れている状況だと思われる」(同基金)。
また、基金では、患者と家族の同意を得て、経緯を報告している。3巡目調査の発表から漏れた5歳未満の一人は、1巡目と2巡目の調査は「A1」(問題なし)の判定。17年度末の3巡目でB判定を受け、穿刺細胞診(針を刺して細胞検査をする)をしたが判定がつかず、保険診療で移行観察中にがんと診断され、19年3月に手術した。
以前から県は「保険診療に移行した後に甲状腺がんと診断された人は、県が行っている県民健康調査での患者数にはカウントされない」と説明し、集計されない患者のルートがあることを明らかにしている。ちょうど1年前の18年7月には、11人の集計漏れがあったとして、患者数を修正した。
福島県内の子どもの甲状腺がんの実数が正確に把握されていない可能性があるとすれば、行政の調査の正確性や政策への信頼が揺らぐ。「県民のため、患者を支援するため」に行われているはずの調査で、集計されないことで支援から漏れる患者の存在と、患者間での支援の不平等の問題は依然として残ったままだ。
(写真と文 藍原寛子)
あいはら・ひろこ 福島県福島市生まれ。ジャーナリスト。被災地の現状の取材を中心に、国内外のニュース報道・取材・リサーチ・翻訳・編集などを行う。 https://www.facebook.com/hirokoaihara |
*2019年9月15日発売の『ビッグイシュー日本版』367号より「被災地から」を転載しました。
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