関電幹部が「原発キャッシュバック」を受けていたという報道に、「クリーンなエネルギーと謳っておきながら運営がクリーンではないじゃないか」と辟易した人も多いかもしれない。しかし小さな自治体でなら、「クリーン」な関係でクリーンエネルギーを作り、供給できる可能性がある。

ブラジル南西部パラナ州の小さな町では、一風変わった資源からクリーンエネルギーを作り出す試みが進められている。そのエネルギー源とは「豚」。養豚を主産業とするこの小さな自治体で、プロジェクトが始動するまでの紆余曲折を追った。


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2019年7月24日、人口4,400人の小さな町エントレ・リオス・ド・オエステにて、小規模の発電所が稼働を始めた。畜産農家から提供されたバイオガスで発電を行う施設だ。

市当局、養豚農家、エネルギー会社、電力研究機関、再生エネルギーの国際組織との間で、ブラジルでも先駆けとなる技術商業契約*が締結されたことで実現したこのプロジェクト、約450万ドル(約4億8千万)の資金を提供したのはCopel社だ。

*1 Parana Energy Company(Copel)、Itaipu Technological Park(PTI)、International Center for Renewable Energies-Biogas (CIBiogás)の3機関。

当プロジェクトにこの町が採用されたのは、至って自然なことだった。なぜならこの地域には、約15万5千頭の豚が飼育されているから。住民一人あたり35頭の豚がいる計算になる。

「市当局もこのプロジェクトに関心を寄せ、発電所の設置場所や運営資源、養豚農家への支援を申し出てくれました」CIBiogás の技術開発責任者であるラファエル・ゴンザレスが言う。

市内には100以上の養豚農家がいるが、プロジェクトに参加しているのは、「バイオ分解装置(バイオダイジェスター)」の融資契約を結んだ18軒のみだ。この装置を使って、豚のフンをバイオガスに変え、20km長のパイプラインを経由して発電所に送られる。残ったフンはバイオ肥料とするのだ。

「ローン返済には10年以上かかるため、参加を望まない農家もいました。当初は19軒の農家が参加する予定でしたが、うち1軒は自前でバイオ分解装置と発電機を設置すると手を引いたんです」参加者の一人、クラウジネイ・ステインが教えてくれた。

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写真:Mario Osava/IPS
養豚農家のクラウジネイ・ステインは7300頭のブタを飼育しており、フンからバイオガスを作っている。右側がバイオ分解装置。左奥が豚舎。 



この発電所の発電能力は480キロワット、1ヶ月の発電量は250メガワット時となる。ブタ(約3万9千頭)が排出するフン(約215トン)から作られるバイオガス(4600立方メートル)をもとにしてだ。この発電量は市関連施設の最大電力量を大きく上回るため(143%)、電気代の大幅な節約となる。


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写真:Mario Osava/IPS
エントレ・リオス・ド・オエステ市にある小規模発電所。発電能力は月に250メガワット。自治体としてはエネルギーコストをほぼゼロに抑えられる。 


「浮いたお金を保健や教育など他のことに充てられます」とジョネス・エイデン市長は言う。「これは最初の一歩。次は街灯の電気供給に取り組みたいです」と、今後は他の養豚家にも参加を呼びかけていきたい考えだ。

ステイン自身は7300頭の子豚を飼っている。この町を代表する企業フリエーラ社*2 から体重約7kgの豚を受け入れ、22~23kgまで太らせて送り返す「肥育の第二期」を担っている。フンの量は全肥育期間の半分以下だが、それでも月に約2000レアル(約5万円)の収入を見込んでおり、7万5000レアル(約198万円)したバイオ分解装置のローンを8年で返済できる計画だ。

*2 http://www.friella.com.br

彼がこのプロジェクトに参加したのには、バイオ分解装置で有機物を微生物分解させることで環境を改善したいという思いもあった。敷地内の悪臭や蚊の発生、地下水汚染を抑えつつ、トウモロコシや大豆に使う肥料の質も改善できるからだ。

「おかげで、化学肥料のコストを下げられました。こうした大胆な取り組みに挑戦するのが好きなんです」39歳になる彼は、若いころに働いていた従兄弟の農場にバイオ分解装置があったため、以前からそのメリットを熟知していたという。

当初の予定より大幅に遅れた理由

しかし当発電所の設置は、当初の予定より大幅に遅れた。バイオガスの利点ならびに当地域での拡大の可能性もしっかり認識されていたにもかかわらずだ。

市長によると、アイデアが浮上したのは2008年だったが、実現の兆しが見えてきたのは2012年のこと。当分野の規制機関である「国家電力エネルギー庁」が、バイオガスプロジェクトの戦略と基準を策定し、プロジェクト案を募ったのだ。

「我々は市主催のプロジェクトに応募しました」とゴンザレス。だがプロジェクト費用はCopel社が研究開発に充てる資金(売上高の0.5%に相当)で賄うことになっており、契約が締結されたのは2016年までずれ込んだ。

「市のバイオガス購入手続き」も、エネルギー及び税金の規制が壁となり難航した。農家が作る「産業用加工品」とみなされていたバイオガスを「未加工農産物」とする新たな規則を定め、消費者による分散型発電カテゴリーとする必要があった。

また、バイオ分解装置の融資交渉にも長い時間を要した。他の自治体でも応用できるよう、モデルやルールを定める必要があったためだ。

Biogas Makes Pig Farming More Sustainable in Southern Brazil from IPS - Inter Press Service on Vimeo.



先行プロジェクトからの学び

バイオガス発電については、当市から34km北東に位置するマレシャウ・カンジド・ロンドン自治体でも前例があった。この地域では2009年に共同事業体*が発足、2014年から牛や豚のフンから作ったバイオガスによる発電を開始したが、長くは続かなかった。

* Agroenergy Condominium for Family Farming of the Ajuricaba River Basin(後にCoperbiogasと改名) バイオ分解装置もガス生産量も(エントレ・リオス・ド・オエステ市より)規模が小さく、経済的に成立しなかったのだ。33人いたメンバーのうち現在も残っているのは15人のみで、発電所も閉鎖。現在、バイオガスは近隣の養鶏施設に売られている。

これを失敗と見る向きもあるが、「プロジェクトとしては成功でした」とゴンザレスは強調する。「目的は経済的な利益を生むことよりも、クリーンな環境をつくること、河川をきれいにすることでしたから」

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写真:Mario Osava/IPS
小規模発電所のエネルギー源となるバイオガス貯蔵庫。豚のフンから作られるバイオガスで発電している。 

バイオガスの活用は現在も行われており、毎日250立方メートルのバイオガスが、長さ25kmのパイプラインを通って3つのタンクに運ばれている。ろ過システムで、腐食を引き起こす硫化水素の除去もおこなっている。バイオガスは家庭で使われるほか、搾乳に使用している農家もある。低温殺菌処理にバイオガスを使うことで牛乳の品質が向上した農家もある、とCIBiogás の情報アナリスト、ダイアナ・マルチネスは話した。

By Mario Osava
Courtesy of Inter Press Service / INSP.ngo


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